西田宗千佳のイマトミライ

第94回

都市が3Dデータ化される意味。本格展開を迎えた「Project PLATEAU」

国土交通省が進めている、都市3Dデータの整備・公表計画である「Project PLATEAU」が一つの節目を迎えた。東京23区を皮切りに、都市データの「オープンデータとしての公開」が始まったのだ。ネット上ではすでに、そうしたデータを使った実験を始めている人々が多数いる。

昨年12月、計画が公開された段階で一度説明記事を書いているが、今回は改めて、データが公開されることにどのような意味があるのかを解説してみたい。

国交省が日本の都市を3Dデータで公開。「Project PLATEAU」とはなにか

日本の都市データを構築・公開するプロジェクト

12月に本連載でも述べたが、Project PLATEAUについて、改めて解説しておきたい。このプロジェクトは、国交省が2020年度補正予算事業として進めてきた、全国56都市の「3Dデータ整備」構想のことだ。

国交省からの申し出に賛同し、初期参加を決めたのは、東京23区を含めた56都市。データは2,500分の1の国土地理院データをもとに、空や地上から得た画像・LiDARなどのデータを使って補完したものになる。

ディテールは、平面の国土地理院地図をもとに建物の外枠を作り、高さだけを補完した「LOD1」、さらに屋根形状やテクスチャーを追加した「LOD2」、窓などの詳細な形状を含む「LOD3」、建物の内部を含めた「LOD4」と、複数のデータを作り、公開していく予定になっている。

データのディテールごとに、「LOD1」から「LOD4」までが規定されており、段階的に公開される

昨年12月以降、プロジェクトのウェブサイトでは、製作されたデータの一部を使ったウェブアプリ「Plateau View」が公開され、PCなどから簡単に試すことができる。データや機能は定期的にアップデートされ、表現も変わってきている。

PLATEAU View。公開されたデータを使い、街中を実際に色々な形で可視化できる。このウェブアプリがメインではなく、あくまでデータの活用例だ

また、サイト上では賛同企業による利用例も公開が進んでいる。整備されたデータを使ってなにができるのか、整備されたデータを活用するとどのような世界がもたらされるのかがわかりやすくなってきた。

賛同企業でのデータ活用例についても表に出始めてきた。

PLATEAUが「オープンデータ公開」フェーズに

そして、この3月末から始まったのが「オープンデータとしての都市3Dデータの公開だ。現状では東京23区のデータからだが、今後追って、他の都市のデータも公開になっていく。

Project PLATEAUを通じて作られたデータは、国土地理院の「G空間情報センター」を通じてオープンデータとして公開される。現状では東京23区のものだけが公開されている。

ある意味ここからが計画の本質といっていい。

Googleやアップル、Nianticなど、複数の企業が3Dマップの整備を進めているが、それらはあくまで各企業の持つデータだ。使うには費用もかかるし、自由に加工して使えるわけではない。

色々な作業が自由に使える3D都市データがあるということは、各企業に依存せず、色々な使い方ができるということである。

映画やエンターテインメントの世界では、街のCGを作りたい場合が多数ある。街中で撮影したいが安全性やスケジュールの面で問題が出て、CGを使う場合も少なくないのだ。大規模な作品なら最初からガッツリとCGを作ってしまうのだろうが、小さなプロジェクトではそうもいかない。予算の関係で街のデータを用意できないから方向性を変えた……というプロジェクトは多数ある。だが今後は、Project PLATEAUから生まれた都市3Dデータを元にすることで、よりコストを抑えてCG製作を行なうことができる。

現状公開されているデータはシンプルな形状とテクスチャーであり、そのままではフォトリアルなCGには向かない。しかし、なにもないところから作るよりははるかに低コストになるし、今のデータでも十分に使える領域はある。

自由に使えるのは企業だけではない。個人でも使える。

3月26日にデータが公開されると、さまざまな人々がそれを使い、成果をネットに公開し始めている。こういうことができるのは、自由に使える形で公開されるからでもある。

公開されたのは、国際標準規格で本計画でも主軸データ形式として扱われている「CityGML」形式によるものと、より形状だけを使いやすい「3D Tiles」形式および「FBX」形式。「データが大きく扱いづらい」との声もあるが、それだけ広い地域の情報が入っている、ということでもある。

データの抜き出しや加工も自由に行なえるため、「必要な形に処理して使う」形でもいい。その辺は、Project PLATEAUのページに公開されている仕様情報などに従えばよい。独自にノウハウを公開する人も出始めている。

Project PLATEAUのページには、各データの使い方や変換のためのマニュアルなども公開されている

自由に使える都市データがある意味とは

もちろん、Project PLATEAUにはまだ先がある。

オープンデータとして公開されるデータは、「街や建物の形状」だけを使うことを目的としたものではない。CityGMLで公開されるデータには多様な情報が含まれる。その場所の属性や利用形態など行政が持っている情報に加え、特にLOD2以降では、どこが壁でどこが床か、といった属性情報も含まれる。一部の大型の建造物では、建築設計に使われるBIM(Building Information Modeling)データを統合し、建物内の構造を含めた内容も公開される。

活用までの道のりがシンプルであることから、まずは形状データとして活用するところから始まっているが、将来的には、各種属性情報を活かした用途が出てくるだろう。

例えば、細かな建物形状や壁の情報を活かせば、都市部でのドローン配送のルート構築のシミュレーションやナビにも使える。洪水などの災害シミュレーションもできるだろう。どの建物をどこに配置すると都市として機能的なのか、という検討にも使えるだろう。

どう使ってもよいリッチなデータがある、ということは、広い可能性をもたらす。特に重要なのは、「東京などの大都市以外」も公開されるということだろう。地方都市などで新しいサービスを積極的に展開するための道具として使えば、その土地の力になる。自由に使える「デジタルツインとしての都市データ」の存在が、その土地やその場所の差別化要因になりうるのだ。

もちろん、今のProject PLATEAUにも課題はたくさんあるだろう。情報をどう使えばいいのか、という戸惑いの声も聞こえてくる。

特に面倒なのは、外観などについて、地権者が権利を主張する建物の扱いだ。東京スカイツリーなどが代表例だろう。そうしたものもデータとして入っているが、CGで作る映像の中に映り込んだらどうなるのだろう? そうした建築物が自然な風景の中にあるなら、写真で遠景に写るのと同じだろうが、「主役」になるような映像を作る場合には権利上の問題が発生するかもしれない。そうした部分は、行政の側でクリアーにすることができるわけでもない領域だ。オープンなデジタルツインでの扱いがどうなるのか、法的な扱いをもっと明確にしていく必要はあるだろう。

それに、賛同して作られた企業の案件についても、データをどう使ったのかなど、他社や個人が参考になる情報を集積して公開し合う場所が必要だとも思う。ハッカソンも開かれたのだが、その情報をもっと詳しく見たい、と思うエンジニアもいるだろう。

データの公開の次は「プロセスの公開」へと続く。そうしてデータとその活用形態を文字通りオープンなものにし、継続的に活用できるものにしていくことが、プロジェクトにとって重要なことになるだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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