西田宗千佳のイマトミライ

第67回

インテル・クアルコム・NVIDIA。半導体3社が提示するそれぞれの未来

先週は半導体関連企業の発表が相次いだ。

9月1日、NVIDIAの最新GPUである「GeForce RTX 30」シリーズを発表、翌2日には、インテルが「第11世代Coreプロセッサー」を正式発表した。

NVIDIA、Ampereアーキテクチャ採用の「GeForce RTX 3080」

Intel、第11世代Coreプロセッサーを正式発表

そして9月3日にはドイツ・ベルリンの「IFA 2020」バーチャル基調講演として、クアルコム(Qualcomm)のクリスティアーノ・アモン社長が登壇した。そこで、ミドルクラス・スマートフォン用のチップセットである「Snapdragon 4シリーズ」の5G対応や、PC向けのチップセットである「Snapdragon 8cx 2Genシリーズ」が発表された。

クアルコム・アモン社長が5Gの取り組みをアピール

これらがどういう意味を持つのか、筆者なりに関連を整理しながら考察してみた。

「GeForce RTX 30」の見どころは性能だけでなく「RTX IO」に

発表順に行こう。NVIDIAの「GeForce RTX 30」シリーズは、まさにモンスターといえるGPUだ。まあ、外観も価格もモンスター級だが、性能面で圧倒的であるのは事実だろう。

GeForce RTX 30

今回の場合、個人的に注目したのは「RTX IO」という技術が導入されたことだ。RTX IOは、ゲームの読み込み待ちを軽減するための技術であり、高解像度化・細密化するリアルタイムCG表現には必要な要素である。

一般的なPCアーキテクチャーでは、データはまずストレージからCPUが扱うメインメモリーに読み込まれる。そして、その後にIOを通し、さらにGPUを介してVRAMに配置される。

データが小さかったときはいいが、現在のゲームでは3Dデータとテクスチャが大型化している。解像度が高く、より密度の高いCG表現になるならデータはどんどん大きくなる。

現在もこの問題は軽いものではない。転送時間を短縮するため、圧縮したデータを転送し、転送するデータ量そそのものを小さくしているのだが、今度はデータ展開にCPUを使うため、転送作業によってCPU負荷が大きくなる。

そこで出てくるのがRTX IOだ。同じ処理をGPUが担当し、CPUやメインメモリーの負荷を減らすことによって、より処理軽減を図り、読み込み時間も小さく、CGの質も高めよう……というものだ。

RTX IOの概要。CPUとメインメモリーを介さずにGPUへと3D描画用のデータを渡すことで、遅延と負荷軽減を狙う(PC Watch記事)

これは、「PlayStation 5」や「Xbox Series X」といった次世代ゲーム機が、SSD搭載で実現しようとしていることに通じる部分がある。マイクロソフトはXbox Series Xで使う技術にも含まれている「DirectStorage」を発表している。

DirectStorageの提供は2021年以降とされているが、RTX IOも、DirectStorageの利用を前提としている、と見られている。

Microsoft、ゲームのロード時間を大幅削減する「DirectStorage」Windows版を提供

各社様々な技術を提供しているが、「どこかだけにしかない魔法のようなもの」があるわけではない。どの企業も似たようなことを考えていながら、発表のタイミングや見せ方、効率や細かな実現方法が異なる……と考えた方がいいだろう。RTX IOからは、そうした要素を強く感じる。

ゲームはPCにとって、より重要な要素になっており、GPU側からPCのアーキテクチャに手を入れてでも効率をあげる必要が出てきている、ということなのだろう。

GPUでNVIDIAに対抗を目指すインテル

インテルの「第11世代Coreプロセッサー」からも、ゲーム用途の拡大が見える。現行の第10世代Coreプロセッサーも、内蔵GPUが強化されたのが特徴のひとつだった。第11世代で使われる「Intel Iris Xe」はさらに強化されている。インテルは、競合AMDのRyzenに内蔵されたGPUや、ノートパソコン向けの外付けGPUの一部よりもパフォーマンスが上である、としている。

第11世代Coreプロセッサー

だが、それ以上に興味深いのは、「Intel Iris Xe」が内蔵GPUだけのものではなくなる、ということだ。

インテルは「外付けGPU市場」への本格的参入を準備中だが、その際には、今回の第11世代Coreプロセッサーで使われているIris Xeを拡張した技術を使う。コア数を増やして性能を強化し、「ゲーミングPC向け」「データセンター向け」「スーパーコンピュータ向け」などを作っていく。要は、現在NVIDIAが好調である領域に対して切り込んでいく準備を整えている最中、ということだ。

インテル「Evo」とクアルコム「8cx」。PCで始まるアーキテクチャの戦い

ただ、多くのコンシューマ向けに考えた場合、より重要な意味を持つのは、第11世代Coreプロセッサーとともに定義されたプラットフォームである「Intel Evo platform」の存在かもしれない。これはこれまで「Project Athena」と呼ばれていた、モバイルノートPCモダン化の試みである。

具体的には次の画像のような条件になる。即応性やパフォーマンス向上、ネットワーク接続性、それにバッテリーの急速充電といった、今求められる要素をまとめて改善するもので、非常に魅力的な内容だ。この中に「ゲーム」という要素も入ってくるのが今時のPCに対するニーズを反映している、という印象をうける。

Project Athenaの狙い。スマホ・タブレット以降に求められる要素と、PCに求められる性能向上をまとめたもの、という印象だ
Evoプラットフォームの具体的な内容。急速充電やThunderbolt 3での拡張性は、まさに今求められる要素といっていい

今年の年末から来年にかけて、Evo準拠の個人向けPCが増えてくることが期待できるわけで、その点は非常に楽しみだ。

一方、同様に「PCの強化」の方向にあるのがクアルコムだ。

クアルコムは以前より、マイクロソフトなどと協力し、Snapdragonシリーズで「通信に強いPC」を開発すべく試みてきた。「Snapdragon 8cx」はそのためのプラットフォームだが、それが第2世代となり、性能強化されることが発表された。アモン社長は、「インテルの第10世代 Core i5よりも18%パフォーマンスが良く、50%バッテリー動作時間が長い」と価値をアピールした。

「Snapdragon 8cx 2nd Gen」を発表。競合であるインテルに対してのパフォーマンス優位性をアピールした

実のところ、Snapdragon 8cxを使った「ARMコアによるWindows PC」の調子はあまり良くない。互換性と価格のバランスの面もあって、製品ラインナップもヒット製品もない。唯一目立っているのは、マイクロソフトと共同で、Snapdragon 8cxをカスタマイズしたSoCを使った「Microsoft SQ1」を使って開発した「Surface Pro X」くらいだろうか。なかなかいい製品だが、こちらも互換性と価格のジレンマと無縁ではない。

「PCである」ことの価値。Surface Pro Xで2週間仕事した

今回、IFAでのアモン社長による基調講演には、マイクロソフトの最高製品責任者であるパノス・パネイ氏が登場し、密接な関係をアピールした。

クアルコム・アモン社長によるIFAでの基調講演には、マイクロソフトのパノス・パネイ氏も登場

インテルのEvoとクアルコムのSnapdragon 8cx 2nd Genは、今の個人にとって魅力的なノートPCを目指し、別々のルートで向かっているような印象を受ける。パフォーマンス面ではEvoの方が有利だろうが、消費電力や通信連携ではSnapdragon 8cxの方が有利だろう。Evoも5G搭載を想定しているが、あくまでオプション。一方でSnapdragon 8cx 2nd Genは、5Gを含めたWANの搭載が前提だ。

クアルコムがどれだけインテルに対抗できるのか、正直不利な状況だとは思うが、両者が競争することは、良い製品が出来上がっていくという意味で、消費者にとっては明らかにプラスだ。

x86においては、インテルとAMDの競争が激化しており、AMDの善戦によって、P Cのパフォーマンスアップが起きている。間違いなくプラスのサイクルだ。そこに(モバイルの領域が中心とはいえ)クアルコムも入ってくるわけで、競争が本格化するなら結構なことだ。

WindowsではなくMacに目を向けると、アップルの「Apple Siloconへの移行計画」も、年末に向けて進行中だ。ここでも、インテル対クアルコムと同様、ARMコアとの競争が起きている。

今年の年末は、PCやMacなど「パソコン」の世界が、過去にないほど大きな変革期に突入するタイミングとも言える。「選ぶのが大変な時代」でもあるが、それをリアルタイムで体験できるのは、決して悪いことではない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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