西田宗千佳のイマトミライ
第67回
インテル・クアルコム・NVIDIA。半導体3社が提示するそれぞれの未来
2020年9月7日 08:20
先週は半導体関連企業の発表が相次いだ。
9月1日、NVIDIAの最新GPUである「GeForce RTX 30」シリーズを発表、翌2日には、インテルが「第11世代Coreプロセッサー」を正式発表した。
NVIDIA、Ampereアーキテクチャ採用の「GeForce RTX 3080」
そして9月3日にはドイツ・ベルリンの「IFA 2020」バーチャル基調講演として、クアルコム(Qualcomm)のクリスティアーノ・アモン社長が登壇した。そこで、ミドルクラス・スマートフォン用のチップセットである「Snapdragon 4シリーズ」の5G対応や、PC向けのチップセットである「Snapdragon 8cx 2Genシリーズ」が発表された。
これらがどういう意味を持つのか、筆者なりに関連を整理しながら考察してみた。
「GeForce RTX 30」の見どころは性能だけでなく「RTX IO」に
発表順に行こう。NVIDIAの「GeForce RTX 30」シリーズは、まさにモンスターといえるGPUだ。まあ、外観も価格もモンスター級だが、性能面で圧倒的であるのは事実だろう。
今回の場合、個人的に注目したのは「RTX IO」という技術が導入されたことだ。RTX IOは、ゲームの読み込み待ちを軽減するための技術であり、高解像度化・細密化するリアルタイムCG表現には必要な要素である。
一般的なPCアーキテクチャーでは、データはまずストレージからCPUが扱うメインメモリーに読み込まれる。そして、その後にIOを通し、さらにGPUを介してVRAMに配置される。
データが小さかったときはいいが、現在のゲームでは3Dデータとテクスチャが大型化している。解像度が高く、より密度の高いCG表現になるならデータはどんどん大きくなる。
現在もこの問題は軽いものではない。転送時間を短縮するため、圧縮したデータを転送し、転送するデータ量そそのものを小さくしているのだが、今度はデータ展開にCPUを使うため、転送作業によってCPU負荷が大きくなる。
そこで出てくるのがRTX IOだ。同じ処理をGPUが担当し、CPUやメインメモリーの負荷を減らすことによって、より処理軽減を図り、読み込み時間も小さく、CGの質も高めよう……というものだ。
これは、「PlayStation 5」や「Xbox Series X」といった次世代ゲーム機が、SSD搭載で実現しようとしていることに通じる部分がある。マイクロソフトはXbox Series Xで使う技術にも含まれている「DirectStorage」を発表している。
DirectStorageの提供は2021年以降とされているが、RTX IOも、DirectStorageの利用を前提としている、と見られている。
Microsoft、ゲームのロード時間を大幅削減する「DirectStorage」Windows版を提供
各社様々な技術を提供しているが、「どこかだけにしかない魔法のようなもの」があるわけではない。どの企業も似たようなことを考えていながら、発表のタイミングや見せ方、効率や細かな実現方法が異なる……と考えた方がいいだろう。RTX IOからは、そうした要素を強く感じる。
ゲームはPCにとって、より重要な要素になっており、GPU側からPCのアーキテクチャに手を入れてでも効率をあげる必要が出てきている、ということなのだろう。
GPUでNVIDIAに対抗を目指すインテル
インテルの「第11世代Coreプロセッサー」からも、ゲーム用途の拡大が見える。現行の第10世代Coreプロセッサーも、内蔵GPUが強化されたのが特徴のひとつだった。第11世代で使われる「Intel Iris Xe」はさらに強化されている。インテルは、競合AMDのRyzenに内蔵されたGPUや、ノートパソコン向けの外付けGPUの一部よりもパフォーマンスが上である、としている。
だが、それ以上に興味深いのは、「Intel Iris Xe」が内蔵GPUだけのものではなくなる、ということだ。
インテルは「外付けGPU市場」への本格的参入を準備中だが、その際には、今回の第11世代Coreプロセッサーで使われているIris Xeを拡張した技術を使う。コア数を増やして性能を強化し、「ゲーミングPC向け」「データセンター向け」「スーパーコンピュータ向け」などを作っていく。要は、現在NVIDIAが好調である領域に対して切り込んでいく準備を整えている最中、ということだ。
インテル「Evo」とクアルコム「8cx」。PCで始まるアーキテクチャの戦い
ただ、多くのコンシューマ向けに考えた場合、より重要な意味を持つのは、第11世代Coreプロセッサーとともに定義されたプラットフォームである「Intel Evo platform」の存在かもしれない。これはこれまで「Project Athena」と呼ばれていた、モバイルノートPCモダン化の試みである。
具体的には次の画像のような条件になる。即応性やパフォーマンス向上、ネットワーク接続性、それにバッテリーの急速充電といった、今求められる要素をまとめて改善するもので、非常に魅力的な内容だ。この中に「ゲーム」という要素も入ってくるのが今時のPCに対するニーズを反映している、という印象をうける。
今年の年末から来年にかけて、Evo準拠の個人向けPCが増えてくることが期待できるわけで、その点は非常に楽しみだ。
一方、同様に「PCの強化」の方向にあるのがクアルコムだ。
クアルコムは以前より、マイクロソフトなどと協力し、Snapdragonシリーズで「通信に強いPC」を開発すべく試みてきた。「Snapdragon 8cx」はそのためのプラットフォームだが、それが第2世代となり、性能強化されることが発表された。アモン社長は、「インテルの第10世代 Core i5よりも18%パフォーマンスが良く、50%バッテリー動作時間が長い」と価値をアピールした。
実のところ、Snapdragon 8cxを使った「ARMコアによるWindows PC」の調子はあまり良くない。互換性と価格のバランスの面もあって、製品ラインナップもヒット製品もない。唯一目立っているのは、マイクロソフトと共同で、Snapdragon 8cxをカスタマイズしたSoCを使った「Microsoft SQ1」を使って開発した「Surface Pro X」くらいだろうか。なかなかいい製品だが、こちらも互換性と価格のジレンマと無縁ではない。
「PCである」ことの価値。Surface Pro Xで2週間仕事した
今回、IFAでのアモン社長による基調講演には、マイクロソフトの最高製品責任者であるパノス・パネイ氏が登場し、密接な関係をアピールした。
インテルのEvoとクアルコムのSnapdragon 8cx 2nd Genは、今の個人にとって魅力的なノートPCを目指し、別々のルートで向かっているような印象を受ける。パフォーマンス面ではEvoの方が有利だろうが、消費電力や通信連携ではSnapdragon 8cxの方が有利だろう。Evoも5G搭載を想定しているが、あくまでオプション。一方でSnapdragon 8cx 2nd Genは、5Gを含めたWANの搭載が前提だ。
クアルコムがどれだけインテルに対抗できるのか、正直不利な状況だとは思うが、両者が競争することは、良い製品が出来上がっていくという意味で、消費者にとっては明らかにプラスだ。
x86においては、インテルとAMDの競争が激化しており、AMDの善戦によって、P Cのパフォーマンスアップが起きている。間違いなくプラスのサイクルだ。そこに(モバイルの領域が中心とはいえ)クアルコムも入ってくるわけで、競争が本格化するなら結構なことだ。
WindowsではなくMacに目を向けると、アップルの「Apple Siloconへの移行計画」も、年末に向けて進行中だ。ここでも、インテル対クアルコムと同様、ARMコアとの競争が起きている。
今年の年末は、PCやMacなど「パソコン」の世界が、過去にないほど大きな変革期に突入するタイミングとも言える。「選ぶのが大変な時代」でもあるが、それをリアルタイムで体験できるのは、決して悪いことではない。