西田宗千佳のイマトミライ

第64回

“30%税”への叛旗。フォートナイトとApple・Google対決のゆくえ

Epic Gamesは、App Storeの閉鎖性によってアップルが10億台のiOSデバイスへのアプローチを阻害している、と主張

8月14日早朝、Epic Gamesの大ヒットゲーム「Fortnite(フォートナイト)」が、iPhone/iPad用のアプリケーションストア「AppStore」から取り除かれた。それを追うように8月14日午前、Android向けのアプリストア「Google Play」からも削除された。

8月16日現在、両ストアからは、過去に入手した人の再ダウンロードは可能だが、新規ダウンロードはできず、検索しても出てこない。

公開停止に伴い、Epic Gamesはカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に対し、「アップルとGoogleが独占禁止法に違反している」として、それぞれを訴えた。理由は、アプリ公開停止の原因となった「利用ガイドライン違反」の根幹にある、「販売価格の30%をアップルに利用料として支払う」というルールが一方的であり、競争を阻害している……というものだ。

タイミングを合わせてEpic Gamesは、この件に関する動画を公開した。アップルが1984年にMacintoshを発表した時に公開したプロモーションビデオを模したもので、YouTubeなどで視聴できるほか、Fortniteの起動時にも再生される。

Nineteen Eighty-Fortnite - #FreeFortnite。YouTubeで公開されているEpic Gamesのキャンペーン動画。アップルの有名な「1984」ビデオのパロディになっている

「自由を謳ってMacを世に出したアップルが自由を奪っている」

これがEpic Gamesの主張だ。

ビデオを使ったキャンペーンはよくできており、SNSでも拡散されている。2020年5月の段階で、Fortniteの累計プレイヤー数は3億5,000万人を超えており、インパクトも絶大だ。

とはいえ、このキャンペーンは突如始まったものではない。Epic Gamesはことあるごとに「プラットフォーマー」と衝突を繰り返しており、今回が初めてではない。

また、いわゆるプラットフォームビジネスが始まって以来、同種の主張は何度も繰り返されたもので、論点も色々ある。

今回は「プラットフォーマーとソフトメーカー」の関係の歴史的な経緯をふりかえりつつ、Epic Gamesとアップルの衝突がどのような結果を迎える可能性があるかを考えてみよう。

「70:30」に叛旗、Epic Gamesの長い戦い

冒頭で述べたようにこの問題は、Epic Gamesがアップルの「App Store」やGoogleの「Google Play」を経由して販売する際の料率についての条件闘争、と言い換えることができる。

アップルが「App Store」をスタートしたのは2008年7月のこと。このモデルが成功したことで、オンライン型の「アプリストア」と呼ばれる形態では、販売金額の30%をアプリストアが徴収するのが一般的になった。

この30%という値については、さまざまな議論がある。一般には「高い」という声があり、Epic Gamesは「高い」という主張の急先鋒でもある。

Epic GamesはPC向けに独自のオンラインストア「Epic Games Store」を展開しているが、これももともと、「30%税」への対抗意識から生まれたものだ。PC向け配信ストアの大手である、Valveの「Steam」の料率が30%であったことに反対し、自社の取り分を12%とする「88:12」モデルを掲げてスタートしたのがEpic Games Storeだ。

Epic Games Store。同社のゲームだけでなく、他社のPCゲームも販売する総合ストアで、最大手のSteamとの競争も激化している

積極的な価格戦略もあって、Epic Games StoreとSteamの間では競争が起き、Steamは「30%」ルールを止め、売り上げ金額に応じて30%から20%の間で段階的に変化する形になった。

そして、スマホについては、アップルより先にGoogleに戦いを挑んでいる。

2018年、FortniteのAndroid版が公開されるタイミングでは、Epic Gamesのティム・スウィニーCEOが「Google PlayではFortniteを公開しない」と宣言した。理由は、「30%税」が高いこと、そして、追加アイテムをGoogle Playを経由してアプリ内課金した場合にも、同様に30%が徴収されることに不満を持っていたからだ。同社はEpic Games StoreのAndroid版の公開を目指しており、できればそちらに誘導したい……という意図を持っていた。

iOS/iPadOSでは、公式な手段を使ってApp Store以外からアプリをインストールすることはできない。ただAndroidの場合には、スマホメーカーなどが独自ストアを作ることはできるし、ウェブからダウンロードしたアプリのファイル(apk)をユーザーが自分でインストールすることもできる。

そのため、2020年4月(すなわちつい最近)まで、同社は、Android版についてはGoogle Playを介さず、自社からファイルをダウンロードさせ、許諾した上でインストールする形式を採っていた。今回のGoogleとの対立により、Google Playでの配布はたった4カ月で終了することになる。現在も、Androidでは自社サイトからのインストールが推奨されている。

AndroidでForniteをする場合には、Epic Gamesのサイトからインストールする方法が用意されている。ただし、セキュリティ上褒められた方法ではない

「独自配布でもいいのでは」と思われるかもしれないが、このやり方は危険も孕んでいる。ウェブ検索の結果などで偽物のapkファイルを入手し、インストールしてしまう可能性があり、マルウエアの混入の可能性が高まる。

Epic Gamesはその辺の事情もわかっていて、あえて「70:30」への対抗、としてやってきた部分がある。

本命は「アプリ内課金」、モバイルユーザーを盾に取るEpic Games

今回、Epic Gamesがアップルと直接的に争っているのは30%という額だけの話ではない。

今回の主張は、「アプリ内課金についても30%をアプリストアが徴収する」「アプリ内からの場合、アップルを介した課金以外の利用は認められない」「ゲームの場合、アプリストア外で課金する方法についても制限がある」といった部分の是正が主軸だ。Googleとの諍いもそこがポイントだった。そもそもFortniteは基本プレイは無料。追加コスチュームや協力プレイモードに当たる「世界を救え」への追加課金が収益源(ただし、「世界を救え」は現状、モバイル系機器では遊べない)。アプリ内課金での徴収額を減らすことは、Epic Gamesについて「本丸」なのである。

アプリ内からの追加課金については、各社さまざまな工夫で軽減を検討してきた。電子書籍や音楽、映像といったビジネスでは、アプリの外、すなわちオープンなウェブサイト上で別途購入・課金を行なう例も少なくない。

わかりやすい例としては、AmazonのKindleやNetflixがある。Androidの場合、アプリ内から各社のサービスを呼び出してそちらで課金することもできるが、iOS/iPadOS版の場合、アプリ内からは契約やコンテンツ購入はできず、別途ウェブから行なう。

iOSのKindleアプリからはコンテンツを購入できず、Webから購入しなければいけない

ただ、ゲームのコンテンツのような基本的に「アプリ内でしか使えないもの」については、アプリ内課金を使うしかない、というのが、現状でのアップル・Googleのルールとなっている。

そこにEpic Gamesは、ストア内に自社決済の「Epic ディレクトペイメント」を用意し、App Srore課金・Google Play課金を並べ、「こちらの方が安い」と示したわけだ。これは明確な「課金ルール破り」であり、両社のストアから「規約違反」としてアプリの公開が停止されるのも無理はない。

iOS版のFortniteのスクリーンショット。App Store課金とEpic ディレクトペイメントの両方が用意されているのが「規約違反」である

もちろん、それはわかった上での展開。バイラル用のビデオから訴訟まで全て準備して、今回の戦いに臨んだことになる。

Fortniteは多くのユーザーを集めているドル箱であり、ソニーをはじめとした複数の出資に伴い、資産も増強されている。単にゲームとしてだけでなく、音楽イベントや映画のプロモーションも行なわれる汎用的な空間になりつつある……との評価も高い。8月7日には米津玄師のスペシャルイベントも行われた。

8月7日には米津玄師が5曲を披露するスペシャルイベントも行なわれた。ユーザー数の大きさから、ゲームプレイ以外のイベントスペースとしての価値も高まっている

一方で、Fortniteのプレイヤーは、モバイル以上にPCやゲーム機の利用者が多い。特に収益的には、モバイル比率は数分の1以下と見られている。

一時的に収益が減ったとしても、巨大になったFortniteの影響力を使い、かねてより主張してきた「70:30の打破」を目的にキャンペーンを張った……と考えればいいだろう。

アプリストアは「画一的」でいいのか。まだ見えぬ明確な解決策

今回の措置については、かなり賛否両論がある。

アップルやGoogleが「セキュリティ」を1つの盾にしているのは事実で、結果として、「30%」という課金体系が競争なく受け入れられてしまっているのは事実。高い、という評価もあるだろう。

だが一方で、Epic Gamesのやりようは、Fortniteをスマホでプレイしている人のことを考えたもの、と言い難い部分もある。

言葉は悪いが、彼らを人質にしているような部分はないだろうか?

では筆者はどう思うのか? プラットフォーム論として考えれば、2つの軸があると考えている。

ひとつは、「全ての事業者にとって同じルールを適応する時期は過ぎたのではないか」という点。

30%のルールはよく「高い」と言われるが、アプリの審査・課金・個人情報の保護・ストアの保全とアプリの通知までをプラットフォーマーがやっていることを考えると、単純に高い、とは思わない。実際相当にコストがかかることで、小さな企業や個人には難しいことだ。「OS公式アプリストア」の認知度は非常に高く、ストア内の良い位置でアプリが告知されると、その認知効果は絶大だ。

一方で、大きな企業は自分たちでも管理ができる。宣伝も、アプリストアの力に頼らなくてもできる。「ダイレクトにやりたい」「少しでも額を減らしたい」という考え方も理解できる。

この辺、そろそろ段階的に考えていくことはできないだろうか? 「審査と配布はするが他には一切関わらないのでコストを下げる」という話があっていいように思うし、「収益に貢献してくれた企業に割引を提供することで相互協力を推進する」形もありうるだろう。

もうひとつの考えは「1プラットフォーマー・1ストア」で本当にいいのか、ということだ。

プラットフォーマーの独占については、費用負担の点だけでなく、審査ルールなど、複数の問題がある。アプリ・コンテンツの内容審査ルールについて、アメリカをベースとしたグローバルルールだけでいいのか、という点は考えておくべきことだ。各国による文化認識の違いが尊重されづらく、時には政治的思惑によって公開が左右されることもあるだろう。

別に今のルールが悪い、という話ではない。それはアップルやGoogleなど、それぞれの企業=店が決めたことで、いいも悪いもない。

だが現実の店舗と違い、プラットフォームの運営する店舗は「選べない」のだ。これが課題である。

マルウェア混入を防ぐための審査やゲートウェイ機能を用意しつつ、アプリストアの多様性を維持できるなら、それに越したことはない。そこに「手数料を減らしたストア」があってもいい、と思う。

ただ現実問題として、複数のストアがあってもそれらが成功するか、というのはまた別の話だ。

AndroidではGoogle Play以外のアプリストアも存在できるが、大きな成功が実現しているのは、中国のように「Google Playが運営できない」という特別な事情がある場合だけで、ニッチな存在に留まっている。

Epic Gamesのやり方に正直疑問はあるが、主張そのものは間違ってはいないと思う。

特に今挙げた2つの点をどう見ているのか? Epic Gamesのキャンペーンは、人々の目を向けさせた、という点で意味がある。問題は、それをどう実現し、アップルやGoogleとの落とし所を見つけるのか、ということだ。ここは、極めて難しい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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