西田宗千佳のイマトミライ

第39回

1,000万のIDを繋ぐ。ドコモとメルカリが目指すデータの連合

2月4日、NTTドコモとメルカリ、そしてメルカリ傘下のメルペイは、キャッシュレス推進やポイント施策について、業務提携を行なうと発表した。

ドコモ×メルカリ キャッシュレス連合誕生

それに先立つこと2週間あまり前、メルペイはOrigamiを買収、子会社化している。これによって、ドコモ・メルカリ・Origamiの3社の連携が鮮明になり、人々を驚かせた。

メルペイ、Origamiを子会社化。Origami Payはメルペイに統合

驚いた。だが、「どことどこがどのタイミングで組むのか」という話であって、「組むこと」そのものへの驚きではない。ドコモ・メルカリの提携から見えることと、その影響について考えてみよう。

連携してコスト削減が必要な「規模の経済」

Origamiがメルカリに買収され、NTTドコモとメルカリが連携する理由はシンプルだ。モバイル決済の勝負は「体力」が決め手であり、資本力を増やした上で効率的な展開が見込めることが必須だからだ。

なにも、キャッシュバックのようなマーケティング施策の原資の話だけをしているわけではない。むしろ大きいのは、対応店舗(特に、チェーン店ではなく飲食店を中心とした中小規模のところ)の開拓や、利用促進のためのサポート・周知にかかるコストだ。モバイル決済が規模の経済である以上、どんな事業者でもこうした部分にはコストがかかる。

二社の連携で生まれるシナジー。顧客基盤の拡大だけでなく、加盟店共通化などの価値も訴求されている

LINE Pay・メルペイ・NTTドコモ・KDDIが推進しようとしていた「MoPA(Mobile Payment Alliance)」は、そうした問題を正確にとらえたものだったのだが、より大きな「規模の経済」事情の変化によってLINEとヤフージャパン(Zホールディングス)が統合することになった結果、実績を残すことなく、昨年末に解散した。

スマホ決済連合「MoPA」、わずか10カ月で解散。LINE Payが方針転換

ドコモとメルカリ・メルペイの関係はその頃からのものであり、発表会や説明終了後の囲み取材でも「急に始まった話ではない」とコメントされている。実際問題として、LINEとヤフーの統合がなんの影響も与えていない、とは思えないが、「統合したから始めた」というよりは、「MoPAの時に話し合っていた課題をそのまま二社が展開した」という部分もあるのだろう、と推察される。

メルペイは「今後もオープンに」とコメントしているものの、モバイル決済のグループ化が進んでいる以上、ドコモ以外ともまったく同じ関係を維持するのは難しい。MoPAの瓦解はまさにそれが理由だったのだから。

目指すは「ID連携数1,000万」、連携してはじめて生まれる価値とは

一方で、両社が今後のために重視しているのは、コスト以上の部分にある。それが「ID連携」だ。残高の相互利用なども、両サービスでのID連携があってのことだ。

両社のサービスでIDが連携することで、両決済での残高利用などが実現する

なぜID連携が重要なのか? それは、決済の統合以上に「顧客情報の統合」が価値を持つからだ。

モバイル決済ビジネスとはいうものの、決済からの手数料で儲かることはまずない。加盟店開拓のためにも、加盟店からの手数料収入を大きくしていくのは難しいからだ。「決済を利用する人々が多いこと」を使ってビジネスをするのであって、決済そのものがビジネスではない、といういい方もできる。

ではなにをするのか? 「今後の取り組み」として紹介された次のスライドが具体的な施策になる。

「今後の取り組み」として示されたスライド。両社の持つ顧客データの質の違いを活かし、マーケティング活動などに活用する

dポイント・d払いは、店舗などでの直接支払いに関する顧客データを持っている。それに対してメルカリは、リユース品の流通に関するデータを含めた、いわゆる「二次流通」に関するデータを持っている。どちらも顧客の動向や販売状況を予測するために重要なものだが、dポイントから得られるデータとメルカリから得られるデータの違いは大きく、その相互活用が新しい価値を生み出す。

「顧客データの活用」というとプライバシー的に微妙な話になってくる。掛け合わせることで個人が特定可能になったり、広告が個人を必要以上においかけることになったりしては意味がない。だが、コンビニなどでのPOS情報が商品開発に大きな役割を果たしているように、モバイル決済から得られる顧客動向にも大きな価値がある。いかに匿名化し、その上で分析して提示するか、という点には、データの集積だけでなく、ノウハウの面でも大きなビジネスチャンスがある。

そこで問題になってくるのは「現状、どれだけのIDが両社で重なっているのか」ということだ。メルカリはすべての携帯電話事業者に開かれたオープンなサービスで、ドコモ利用者だけが使うわけではない。dポイントも、ドコモ利用者が中心ではあるもののオープン。フリーマーケットとしては、メルカリ以外を使っている人も多いはずだし、そもそもその種のサービスを使ったことがない人もいる。

発表会後の囲み取材の中で、ID連携の目標数について、メルカリ・執行役員 VP of Operationsの野辺一也氏は、「今回の契約上、1,000万IDまで増やすことを目標としている」と語った。dポイントクラブの利用者が7,345万人、メルカリの月間利用者が1,450万人とされている。その重なりは、まだdポイント利用者全体から見ると多くないのだろう。そこで、「両社の同時利用者を1,000万人まで増やす」ことにより、ID連携のによる価値拡大を目指すのが、当面の目標ということになるだろうか。

こうした「価値拡大」の流れは、他社でも加速するだろう。そこでのプライバシーのあり方や、各社の提携による消費者への価値のあり方などについては、慎重に見極めていく必要があるのではないだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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