西田宗千佳のイマトミライ

第19回

新iPhone発売を前に変わる「スマホの買い方」

ソフトバンク「半額サポート+」

9月9日、ソフトバンクは、スマホ購入のための新プランである「半額サポート+」を発表した。auも、同様のスキームである「アップグレードプログラムDX」を、10月1日から提供する。

最大24回分の割賦を免除。ソフトバンクの「半額サポート+」

au、月額390円で最大24回分の残債を免除する「アップグレードプログラムDX」

両社が導入するのは、「48回分割で購入するが、24回目以降に端末を返却することで残債を免除する」ことで負担額を半分にするという、現在のスマホの買い方に近いものである。

au「アップグレードプログラムDX」

この二社の施策を巡り、総務省との間に再びさや当てが始まっている。

9月13日からは新iPhoneの予約が始まり、9月20日から発売も始まる。こうした携帯電話事業者の施策はiPhoneだけを対象としたものではないが、日本の携帯電話のシェアの半分はiPhoneであり、10月1日からの法改正も、それに伴う携帯電話販売施策も、iPhoneが狙い撃ちされている側面がある。

10月からの電気通信事業法改正で端末料金が高騰?

今回の販売施策はどういう意味合いを持っているのか? そして、我々のスマホの買い方はどうなるのか? 考えてみた。

SIMロックを伴った「回線契約を伴わない分割販売」に総務省がご立腹

両社の施策の特徴は、簡単にいえば「携帯電話契約の有無や事業者を問わない」こと。

どの回線を使っている人でも、両社の分割販売を使ってスマホを購入できる。いわゆる「分離プラン」に則った、携帯電話回線の契約に伴う割引ではない施策である。ただし、両社ともに、販売プログラムの利用には月額のサービス利用料金がかかる。ソフトバンク・auともに月額390円が必要だ。

9月9日の会見で、ソフトバンクの榛葉淳・代表取締役副社長兼COOは「(従来の割引プランである)『半額サポート』は、契約者の90%利用し、顧客満足度は94%だった」と述べた。それだけ、携帯電話端末の購入価格を下げる施策が支持を得ており、分離プラン導入後も必要とされている、という主張だ。

半額サポート+

通信契約に紐付く割引ではなく、いままで通りスマホをおおよそ半額の出費で購入できるわけで、消費者としてはありがたいもの、といえる、

だが、これに異を唱える声もある。

9月11日に開催された「モバイル市場の競争環境に関する研究会」では、野村総合研究所 パートナーの北俊一氏が「(10月1日から施行される改正法の)趣旨に反しているのではないかと思う」と意見を述べた。

理由は、両社の販売プログラムが「SIMロックをかけた端末の販売」であるからだ。

ソフトバンクの「半額サポート+」ではソフトバンク回線に対するSIMロックがあり、KDDIの「アップグレードプログラムDX」ではKDDI回線に対するSIMロックがある。解除するには、端末代金を全額支払うか、契約後100日が経過する必要がある。これは従来から存在する仕組みであり、分離プラン導入後も変更されていない。

二社はこの仕組みを組み合わせた上で、「回線に紐付かず誰もが割引を得られる一方で、実質的に他事業者の契約者が利用する意味がない」方針を導入したのだ。

「半額サポート+」は抜け穴か。総務省のモバイル研究会

ソフトバンク・榛葉副社長は会見で「総務省の趣旨に反するものではないことを確認して導入している」と説明している。筆者はiPhone発表会に参加のため渡米中で参加できなかったが、auの会見でも同一趣旨の発言が行なわれたようだ。

この施策が総務省の方針に反するものか、総務省の言い方は実に微妙だ。

前出・モバイル研究会で、総務省 料金サービス課長の大村真一氏は「ユーザーに限らず端末を販売するというのは、改正法の趣旨を理解していると思う」としつつも「こういう売り方が出てくるのではという批判はあったし、それは飲み込む。(ソフトバンクが)穴に落ちてくれたおかげで課題が浮き彫りになったと思う」コメントしている。(前出記事より引用)

日本経済新聞の報道によれば、総務省側はSIMロック解除期間についてのルールを変え、「即時解除」へと変更するよう求めていく方針だという。

分離プラン上で「割引」を実現するトンチ合戦

ソフトバンクとauの施策は、果たして問題なのか? 「穴を突いた」といういい方は、いかにもそうした施策が「悪」だ、という発想に思える。

9月9日のソフトバンクの会見には、筆者も参加していたが、発表内容を会場で聞いて、思わず笑わずにはいられなかった。「このはしわたるべからず」と言われて真ん中を歩いた一休さんレベルのトンチ合戦ではないか。

確かに、SIMロックを盾に「誰でも買えるが誰でもすぐ使えるわけではない」とするのは、わかりやすい施策ではない。なんの意味があるのか、と思う。

だが重要なのは、「消費者はスマホの割引販売を求めている」ということだ。

去年までは最新の端末をある種の施策に伴って割引で買えたのに、突然大幅に買い方が変わって価格が上がることになったら、どう思うだろうか?

自分の余裕の中で購入するスマホのグレードを決めるのが本質だ、というのは正論だ。だが「あなたは去年まではハイエンドスマホが買えたけれど、政府の方針でミドルクラスまでしか買えなくなりました」と言われて、納得できない人も多いだろう。多くの人スマホを「分割」で買っており、端末購入時に大きなまとまった金額をサイフから出さない形を選んでいる。

携帯電話事業者としては、「いかにしてスマホの端末負担額を上げないか」に腐心した結果、こうしたトンチを思いついたのだ。

なお、NTTドコモは違う「トンチ」を使っている。

ドコモが導入する「スマホおかえしプログラム」では、分割を36回とし、途中で端末をNTTドコモへと返却することで、12回分の残債を免除する。

こちらはNTTドコモの契約者以外には利用できない「回線と紐付く施策」だ。10月1日以降、回線と端末が紐付く場合の割引は「2万円まで」と定められているため、分割を48回でなく「36回払い」にした上で残債の割引分を2万円以内に収めているのである。

「実は高い」キャリア経由での販売。重要なのは「買い方を選べる」こと

とはいえ、そろそろなにも考えずに「携帯電話事業者から端末を分割で買う」ことを見直してもいい時期だ。

現状、携帯電話事業者を介したiPhone販売価格は、トータルで見るとアップルが販売するSIMフリー版の価格より高くなる。

例えば、iPhone 11(64GB版)の場合、以下のような状況だ。

iPhone 11(64GB)の価格

・アップルのSIMフリー版

80,784円(税込、9月中の消費税率で計算)

・NTTドコモ一括支払い

85,536円(税込)

・au一括支払い

88,992円(税込)

・ソフトバンク一括支払い

89,280円(税込)

iPhone 11

携帯電話事業者は端末に若干の利益を乗せて販売している。一括払いもしくは買い取りを伴わない分割販売なら、アップルから買った方が安い。

分割で買う場合には、金利手数料が問題になる。クレジットカードでの一般的な分割払いの場合、iPhone 11を24回払いで買うと、金利はだいたい11,000円くらいになるので、金利がない分携帯電話事業者から買った方が安い。

他方で、買い取りを伴う分割販売の場合の価格は以下のようになる。

iPhone 11(64GB)の分割価格

・NTTドコモ「スマホおかえしプログラム」

57,024円(端末は25カ月目に返却の場合、9月中の場合)
内訳:2,376円×24回

・au「アップグレードプログラムDX」

53,856円(端末は25カ月目に返却の場合)
内訳:1,854円×24回+390円×24回

・ソフトバンク「半額サポート+」

54,000円(端末は25カ月目に返却の場合)
内訳:1,860円×24回+390円×24回

だいたい3万円くらい安くなっている計算だが、おそらく購入者には「頭金がいらない」ことが大きい要素だろう。

一方で、今は端末を中古ショップやオークションサイトで売る、という選択肢もあるし、アップルも「Apple Trade In」という下取りプログラムを展開している。Apple Trade Inの場合、買い取り価格が高めであるものの、現金でなくApple Storeで使えるギフトカードに変わるので、「次にもアップル製品を買う」と決めた人以外には使いづらいという欠点もあるが。

アップルは自社での買い取りプログラム「Apple Trade In」をアピール。日本でも展開されているが、iPhone発表会でも「お得な買い方」として強調された。

どこでどう買うかは消費者の自由だ。

携帯電話事業者も過去とは異なり、どこで購入した端末かを気にすることは減り、「自社で買いたい顧客向けに分割販売を提供しているが、無理にそれを使ってもらう必要もない」と思っている。なぜなら、どの事業者も同じ端末を売るようになっているからだ。

筆者の本音を言えば、SIMロックの有無は、もはやどうでもいいと思っている。SIMロックがあるか否かを気にする顧客は、SIMロックがない端末を買えばいい時代になったからだ。MVNOの併用や、海外でのeSIM利用を考えるとSIMロックのない端末が望ましいが、それを気にするよりも端末が安く、携帯電話事業者のサポートを求める人もいる。それも消費者の選択だ。

分割販売のスキームでSIMロックをかけるのはどうか、と思うのも事実だが、どこかが「我々はSIMロックをかけません」といってビジネスをすれば、それが差別化点になる。楽天は「SIMロックはかけない」といっている。もし楽天がiPhoneを扱うとすれば、SIMロックがないことは競争優位性だ。それこそが競争であり、SIMロックの有無を総務省が指導する意味はない。

端末を24カ月後に「返す」のも、それしか買い方がないなら困るが、そうしなくてもいい買い方がある現在、どっちを選んでもいいと思っている。

「iPhoneは24カ月後も買い取り価格が安定しているが、Androidはそうではないので、端末買い取り系の割引施策はAndroidで使った方が高く引き取ってくれる計算になるのでお得」という声も聞いた。確かに、それも賢いやり方だと思う。

個人的に、自分が一番楽なのは「SIMロックのかかっていない端末を買って、自分で勝手にSIMを挿す」ことだと思っているが、分割払いのために携帯電話事業者を頼る人を否定する気にはならない。

「携帯電話は携帯電話事業者から買うもの」という固定観念はなくなっていいし、もっと色々な選択肢があっていい。だが、これまでの携帯電話事業者による割引プランが、消費者へと携帯電話を普及させる上で大きな役割を示したことは事実だし、そこを否定してもしょうがない。

端末メーカーはSIMロックフリー端末も用意し、携帯電話事業者は割引のある分割販売も用意する。それだけでいいのではないか。

穴がどうの、と総務省が「指導」する必要は、もはやない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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