西田宗千佳のイマトミライ

第9回

4時間超えのLINEカンファレンスで考えた「AIを使う」意味

6月27日、筆者は舞浜のアンフィ・シアターにいた。毎年恒例となったLINEの年次イベント「LINE CONFERENCE 2019」を取材するためだ。LINEのカンファレンスは毎年長い。それだけLINEの事業領域が増えており、説明しなければいけないことが多いためだろう。「そろそろ複数日開催にしては」というのが本音ではあるが、毎年これだけの規模の新事業・事業拡大をしている、というのは敬服に値する。

では、今年LINEが長いカンファレンスの中で言いたかったことはなんなのだろうか?

筆者なりに、カンファレンスを聞きながら思ったことをまとめてみたい。

AIを軸に様々なサービスを展開

前述のように、LINEはこの日、とにかくたくさんの発表を行なっている。メールボックスを検索してみたところ、LINE CONFERENCE 2019関係で同社がその日の午後に出したニュースリリースの数は、なんと12本にも及ぶ。インプレスのサイトに掲載された記事を軽くピックアップしても、とにかく多岐にわたっている。

LINEは“朝から寝るまで”のプラットフォームへ。ミニアプリ・AI・スコア

AI企業LINE、無料カーナビやレストラン予約AIを披露。検索に再参入

LINEが事業戦略発表会を開催、「Life on LINE」をテーマに新サービスを続々発表

LINE MUSIC、誰でも無料で5,400万曲が聴ける「ONE PLAY(仮)」

「ねぇClova」と話かける次世代テレビ実現へ、LINE、スカパーJSAT、伊藤忠が協業

やはり軸となるのは「AI」というキーワードだ。会の冒頭、LINEの慎ジュンホ 代表取締役 CWO(Chief WOW Officer)は、「LINEはAIカンパニーだ」と宣言した。「5年後10年後は、AIを準備できた企業とそうじゃない企業に分かれる」とも語っているのだが、確かに、今の企業にとって、「いわゆるAI」をどう事業戦略に組み込んでいくかは、大きなテーマのひとつだろう。そこに異論はない。

LINEはAIカンパニー

だが、ここで大きな問題がひとつある。

AIとは非常に広汎な技術の総称である。もっといえば、とても曖昧であり、一方で非常に「強い」言葉でもある。そこから様々なものを人間が想起してしまうからだ。なんにでもAIという言葉を使うのは弊害が大きいのではないか……という指摘は、海外を含め、多くの識者からなされている。筆者もその意見に賛成する。

一方で、現状、多くの人にイメージしてもらいやすい別の言葉があるわけでもなく、企業として「AI」という言葉を使いたくなる理由も理解できる。

だからこそ、LINEのカンファレンスのステージでAIとその周辺技術を使った発表が行なわれるたびに、「これはどの領域で、どういう意味で語るべきなのだろうか」ということを考えていた。

人のように対応する「DUET」とはなにか

では、筆者はどんなことを考えていたのか? それぞれ説明していきたい。

まずは、開発が表明された「DUET」である。これは、サービスが生成する音声によって、電話を通じ、利用者と対話するサービスのこと。できれば、発表会でのデモを動画で見ていただきたい。

DUET
LINE BRAIN - 多忙なお店の電話応対を支援するAIサービス

これは「音声認識」と「音声合成」、「botによる対応」技術の組み合わせだ。Googleが昨年のGoogle I/Oで発表した「Google Duplex」の日本語版、といった趣だが、確かに「日本語ですでにここまで出来ている」点がポイントである。また、ベースはLINEのbotサービスと思われるので、LINEの企業向けアカウントによる店舗連携、LINE Payとの連携などが想定できる。

Google Duplex

補助線としては、昨年のLINEカンファレンスで、同社が音声合成の精度を上げる「DNN-TTS(Deep Neural Network Text to Speech)」技術の活用について発表していることを挙げておきたい。より少ない音声データから声の特徴を再現して発声する、という形で使われたが、この先にあるのがDUETでの自然な発声、と考えられる。

現状では、「電話予約とそのキャンセル、変更に特化している」)LINEの舛田淳・取締役 CSMO)とのことで、万能性は追求していないようだ。だが、音声応答の自然さには目を見張るものがある。

どう低コストに店舗導入し、実用性を高めていくか、注目される。

スカパーと作る「未来のテレビ」の背景

個人的に興味深かったのは、LINE、スカパーJSAT、伊藤忠が協業し、「未来のテレビ」を作るための実証実験を開始する、という発表だ。どういう内容なのかは、コンセプトムービーを見ていただくのが一番だろう。

新しいテレビのカタチ LINE × スカパー!

テレビと音声アシスタントの連携は決して珍しい発想ではない。だが問題は、放送されている内容を音声アシスタント側が認識するのが難しい、ということだ。放送にはデータがあまり含まれていない。番組表に付随ずるデータ程度で、あとは外部から集めるしかない。番組の映像に映っているものは「検索や分析ができるデータ」になっていないからだ。番組内容を認識するには、画像認識・音声認識が必須になる。

従来はハードルが高かったが、現在は、写真から似た商品をピックアップする画像認識も、会話に出てきた商品をピックアップする音声認識も存在する。放送番組をリアルタイム解析して音声アシスタントの扱う情報として使えれば、少なくとも、前述のようなコンセプト映像の一部は実現できる。

こうした、番組内容にアプローチする提携は意外と少ない。だが、LINEやInstagram、メルカリがショッピング分野で画像認識をどう活かしているかを考えれば、自然な方向性といえる。

個人的には、この技術を視覚にハンディを持つ人々に活かしてほしい、とも思う。シーンの内容を自動的に理解することも、不可能ではなくなりつつある。音声ガイドにそのデータを活かすと、面白いのではないだろうか。

ClovaをB2Bに広げる意図は

今回は、特に「ClovaのB2B運用」についての発表が多かった。前述のDUETやテレビ連携も、ClovaのB2B連携の一部、といっていい。これは、Clovaの中で「音声認識」「音声合成」に関わる部分が、コンシューマ利用である程度磨かれたから、と考えられる。

音声アシスタントの価値は音声認識だけで決まるわけではない。その後の文章構文理解や、サービス連携などで大きく変わる。その点は、AmazonやGoogleといったライバルにまだまだ「追いつこうとしている」段階だと感じる。

一方で、すでにある程度磨かれた部分は、ビジネスの中で有効活用することができる。認識したデータをどう扱うか、は企業によっても案件によっても違う。LINEのbot技術が生きる部分でもある。B2B展開である「LINE BRAIN」は、そういう意味でも納得できる展開だ。

また、今回発表された「LINEカーナビ」は、サービスとしてはB2C向けだが、その典型例である。ナビ部分はトヨタが、音声アシスタントと音楽サービスをLINEが提供する形を採ることで、さらにデータ収集と顧客サービスの両方を同時に行なうことができる。

LINEカーナビ:コンセプトムービー

こうなってくると、ちょっと気になるのは、LINEがトヨタ・ソフトバンク連合である「MONET」に合流する可能性はないのか、コンソーシアムに参加することはないのか、という点だ。

Web検索でない「検索」に三度チャレンジ

もうひとつ、非常に大きい発表だったのが、LINEの「検索事業」への再参入だ。

検索再参入

LINE・舛田CSMOは、後日自身のTwitterアカウントで、「LINE SearchはいわゆるWeb検索ではない」とコメントしている。

現在はキーワードに依らない検索の重要度が増している。画像検索や音声検索はその代表例だが、位置情報をキーにした周辺情報も、キーワードを使わない検索の例といっていい。

スマホの時代に、「いま見たい・聞きたいモノ」「いま行きたい場所」などを検索するには、Web検索とは違うテクノロジーが必要になる。必要なのはコンテキストの関連を重視した情報抽出であり、自社サービスの内容を縦横に組み合わせた検索、ということになる。

LINE・舛田氏は、百度(バイドゥ)の日本参入時に取締役を務め、そしてその後、ネイバージャーパンで「NAVERまとめ」を軸とした検索市場にチャレンジした経験を持つ。

その舛田氏が、三度検索市場に取り組む、という見方が出来るのも面白い。舛田氏にじっくりと狙いを訊いてみたい、とも思っている。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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