西田宗千佳のイマトミライ

第7回

「配送ドローン」を見ながら考えた、Amazonとロボットの関係

Amazonのre:MARSでドローン配送を紹介

アメリカを取材旅行中だ。6月4日から7日までは、ラスベガスで開催されていたAmazonのイベントである「re:MARS」を取材していた。

MARSとは火星のことではなく、「マシンラーニング」「オートメーション」「ロボティクス」「スペース」の頭文字。こうした技術が世の中を変えていく、という観点から、様々な発表や関係者を招いての説明セッションが行なわれた。

「Amazonが数カ月以内にドローンでの商用配送サービスをする」というニュースも、まさに発表の現場で聞いていた。

Amazon、ドローン配送「Prime Air」を実用化

re:MARSで発表された、Amazonの商用配送サービス用ドローン。垂直飛行から水平飛行へ移行できる「ハイブリッド型」であるのが特徴

なにが変わるかより「なにが変わらないか」を考えろ

このドローンはかなりよくできている。推力の方向を垂直から水平まで変えられるようになっていて効率良く長距離を飛べる他、カメラによる認識で、電線から人、空を飛ぶ鳥まで、様々な障害物を把握して安全な飛行を行なう。建物や人、鳥などにぶつからないのはもちろん、ドローン同士の衝突回避にももちろん配慮している。Amazonは当局と綿密な連携をとっているようで、その最大の条件が「安全」であるようだ。

とはいえ、ドローンでの配送がメジャーになるか、というとそうでもあるまい。現状では到着したらすぐ自分で荷物を受け取らねばならない。「30分以内に配送」といっても、本当にすぐ欲しいものは意外と少ない。配送料が安くなるなら翌日でもかまわない……というのが本音ではないか。利用料金などは公開されていないが、当面は「プレミアム」サービス扱いだろうと思う。

ではなぜAmazonがドローンにこだわるのか?

それは、基調講演に登場したジェフ・ベゾス氏の次の言葉を聞くと、なんとなくわかってくる。

ベゾス:私は「今後10年でなにが変わるのか」を頻繁にたずねられます。しかし重要なのはなにが変わるかよりも「なにが変わらないか」の方です。

Eコマースビジネスについてなら、わかります。10年後にも、消費者は安いものを求めるでしょうし、素早い配送も求めるでしょう。品数の豊富さを求めることも変わらないはずです。これらのニーズは非常に安定的なものです。

re:MARSの基調講演に登場したジェフ・ベゾス氏

安価に完璧な配送ができるなら、もちろんすぐ手に入る方がいいに決まっている。途中で事故があっても困る。とするならば、将来、コストが大きく下がって安全性も確保された時、人によって最後まで配送する比率を下げ、「ユーザーのニーズを満たす」ことに不思議はない。

Amazonは現在、世界中に広がるフルフィルメントセンターで、20万台以上のロボットを使っているという。今回re:MARSでは、同社のデンバーにあるファシリティの中で新たに使い始めているという「Pegasus」というシステムを紹介した。デンバーのファシリティでは、800台ものロボットが建物の中を走り回っている。荷物を個別にファシリティ内で運び、配送用のトレイまで移動するのがPegasusの仕事だが、これにより「仕分けミスが50%減った」とAmazonは言う。

Amazon's newest robots mean new jobs

Amazonのフルフィルメントセンター内ではロボットと人が共同で作業をしている。人は「Robot Safe」と呼ばれる特別なベストを着て作業をしており、人の近くにはロボットが近寄ってこないようになっている。Amazonは「ロボットが苦手とする判断やピックアップ、管理を人が行ない、荷物の積み卸しや移動、分別などはロボットが行なう」と話す。

Amazonのファシリティ内で使われている「Robot Safe」。これを着て、事故が起こらないように人間も作業をする

re:MARSでは、現在開発中の「Xanthus」というロボットも公開された。こちらは、棚から箱まで、色々なものの配送に、アタッチメントの取り替えで対応できる幅広さを持っている。

Amazonが開発した新しいロボット「Xanthus」。より色々な配送の場面で活躍することを目指したモデルで、ファシリティの外での利用も想定されている

「企業がどうしたいか」ではなく「顧客がなにを求めるか」

こうした様子を見て、「ロボットが人の仕事を奪っている」と思うかもしれない。その観点はあるし、否定できないことだ。

だが、Amazonは単純に省力化のためにロボットを導入しているのではない、と筆者は考えている。目的は、ベゾス氏も語った「消費者の変わらぬ要求を満たし、ビジネスに勝つ」ことなのだろう。

Re:MARSではAmazon Goについても詳しく解説された。Amazon Goのような「レジ無し」店舗は、省力化のための手段、と見られることが多い。

だが、Amazon Goの開発を担当した、Amazon Go バイスプレジデントのディリップ・クマール氏は、狙いをこう説明する。

クマール:計画をはじめるにあたって、我々はあらゆる店舗を分析しました。色々なものが売られていて、その特性も業種によって大きく異なりますが、どの店舗についても、顧客の感じる不満は同じです。

それは“レジに並びたくない”ということ。

そこを改善し、足止めされることのない買物体験を作ることが重要と考えました。

Amazon Goのキャチフレーズは「Just walk out」(ただ歩いて出るだけ)。このシンプルさと素早さが顧客体験の軸だ

そこには「省力化」という単語はない。実際、以前にレポートしたが、Amazon Goには「店員」がいる。レジを担当しないだけで、接客や品出しは行なっているのだ。

レジなしストア「Amazon Go」を体験

「並ばないでただ店を出ればいい」という体験こそが重要なのであり、「顧客の感じる問題点の解決」に注力するためにテクノロジーを使ったのがAmazon Goだ。

ドローン配送にしろフルフィルメントセンター内のロボットにしろ、結局狙いは同じだ。「人よりも良い手段がある」からロボットを使っているのであり、人にお金を払いたくないからではない。ここが重要だ。

逆にいえば、「人の方が良いところ」では、ロボットやコンピュータでなく人が残りつづけるのだろうし、その際にも、効率や品質の向上のためにコンピュータがアシストするのだろう。

こうした意識の徹底こそ、Amazonの強みなのだ。もちろん失敗も、顧客から見て不満に思うことも多々ある。だが、少なくとも「顧客の満足度優先」というお題目を本気で貫いているのは否定できない。

顧客の意思ではなく、企業の意思を優先する小売りシステムでは、Amazonには勝てないのではないか。イベントを見ながら、そんなことを考えた。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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