小寺信良のくらしDX

第19回

自分の生きた記録をどう残すか どうする「家系図」

明治35年、小寺信一とされる人の写真

先日、実姉から連絡があり、処分すべきかわからない写真があるから来てくれという。実家のものをそのまま引き継いだ姉宅の倉庫から出てきたのは、おそらく祖父が保管していたと思われるアルバムだった。アルバムそのものはそれほど古くないので、おそらく写真だけを貼り移したものだろう。

そこには、明治中期ごろに撮影された、小寺家の先祖の肖像写真が数多く貼られていた。筆者は曾祖父・曾祖母の遺影ぐらいまでは見たことがあるが、それより前の先祖の写真が存在したことを初めて知った。

調べた限りもっとも古い写真は、小寺信一とされる人のものである。これまで家系図でしか見たことがなかった名前だが、「明治35年於香港」というメモ書きが一緒に挟んである。今からおよそ120年ほど前で、筆者の曾祖母の祖父の弟の息子、という関係になる。せっかくなのでこのアルバムは、小寺家を継ぐ者として筆者が引き続き保管することにした。

こうした写真も、紙で存在し、アルバムという物理物で保管されていたからこそ、100年以上経過したのちにも伝えられたものだろう。現在写真は大量に撮影し大量にネットにばら撒いて消費するものとなったが、残しておくべき写真はちゃんと保管できているだろうか。

筆者の肖像写真でデジタルのものは、1999年、当時36歳のものがもっとも古く、それ以前は紙焼きである。だが紙写真の整理をちゃんとやってこなかったので、高校卒業後からそこまでの写真は、存在はするが時系列になっておらず、バラバラのままで押し入れに保管されている。筆者が自分で探さなければ誰もわからないし、またいつどこで撮影されたの写真なのか、筆者にしかわからない。

デジタルデータとしてはもっとも古い筆者の写真(1999年)

そもそも紙焼きにしてもデジタルデータにしても、アルバムのような格好でまとまっていないので、筆者を知るものが死に絶えたら、まるで何が何だかわからなくなるだろう。まあ、死ぬまでにはまだもう少し余裕がありそうだから、こうした整理は老後の仕事になるのかもしれない。

どうする「家系図」

小寺家は結構古い家柄で、江戸中期ぐらいから連綿と墓石が存在しており、家系図も伝わっている。すでに紙の家系図はボロボロになってしまったため、まだ筆者の両親が存命のときに、ある家系図アプリを使って、家系図を復元しておいた。おそらく2017年ごろに作ったものである。

そう言えばあの家系図はどうなっただろうと久しぶりにログインしてみたら、スマホアプリ側ではまだちゃんとデータが残っていた。だがWebサービス側からはどうやってもそのデータにアクセスできない。

アプリ上では家系図データにはアクセスできたのだが…

スマホアプリからPDFや画像として書き出そうとしたら、なんと枠線だけが出力されて、名前がない。そういう仕様なのか、それともサービスが壊れているのか、いかんせんスマホアプリゆえに判然としないが、こうしたサービスに長年データを預けっぱなしにするのは、問題であると痛感した。とりあえずアプリ画面上では閲覧できるので、スクリーンショットを撮っておいた。

こうなると、どうにか自分が残せる方法で家系図を保存することを考えなければならない。紙で出しておくというのも1つの考え方だが、1部しかないのでは親戚縁者や子孫らは活用のしようがない。複製可能なデジタルデータであるべきだろう。

家系図を作れるツールを検索したところ、「Wondershare EdrawMax」というドロー系のツールに、家系図のテンプレートがあるということを突き止めた。元々は組織図などを作るのを得意とするツールのようだ。

早速インストールして作ろうとしたのだが、テンプレートをよく見ると何か変だ。一般的に日本式の家系図とは、先祖が上に来て、そこから下に向かって根が拡がるように展開するというのが普通だろう。

「EdrawMax」の家系図テンプレート

だがこのテンプレートは、自分を原点にして、そこから下へ向かって遡るという構造だった。まあ見え方が逆になるだけで、関係としてはわからないことはないのだが、じゃあ自分の子供達はどうやって入力するのかというところが解決しない。こうしたところも日本の家に対する考え方と、欧米の個人主義的なルーツの考え方の違いと言えるのかもしれない。

EdrawMaxは、有料プランに加入すればデータをHTMLで出力できるので、汎用性が高いと睨んだのだが、どうも欧米系のツールはちょっと違うなという事がわかった。

そのほか家系図ツールを色々探してみたが、スマホアプリはそこそこある。だが何か特定のアプリで家系図を再制作するという線はもうない。紙に出力して終わり、というのであればいいのだろうが、長年データで持っておきたいとするならば、そのサービスがいつ終わるか誰にもわからないし、特殊フォーマットでデータが存在しても、誰も開けなくなる可能性がある。

では汎用データとして持つには、何が妥当なのか。1つ考えられるのは、エクセル(Excel)である。おそらくエクセルはまだ当分生き残るだろうし、ソフトウェアそのものがなくなっても、過去の膨大なデータが活かせるように、エクセルデータをインポートできる別のソフトウェアは大量に出てくるだろう。

エクセルには「家系図ジェネレーター」というテンプレートがある。データを入力すると、自動的にツリー図を作ってくれるというものだ。だがこのテンプレートは、3世代までしかサポートしない。小寺家は筆者の代から8世代ぐらいまでさかのぼれるほか、兄弟従姉妹の一族のデータも大量に連結されているので、これでは全然足りない。かといってこのテンプレートを元に自分でテンプレートを開発できるようなスキルは筆者にはない。

エクセルの「家系図ジェネレーター」は三世代までしか作れなかった

自動的に系統図ができるマインドマップで製作することも考えたが、データに汎用性がない。またマインドマップは1つのパラメータから枝が並列に別れていくだけなので、配偶者と兄弟姉妹、さらにそれらの配偶者の区別が付けられない。そういう点では、やはり過去から連綿と伝わる家系図のフォーマットというのは、実に良くできている。

結局、これだという解決策は見いだせなかった。少なくとも手元には、例の名前が出せなくなったサービスから得た、ツリー構造の枠の画像データだけはある。それを使って、PhotoShopでツリーに名前を埋めていくことで、とりあえずは復元しようと試みているところだ。

しょうがないので枠線だけ利用してPhotoShopで名前を埋めることにした

データとしては取り出せないが、psdデータはPhotoshopだけでなく他の画像編集ツールでもサポートしているし、開ければ名前はレイヤーごとにベクターデータになっているので、書き換え修正も可能である。印刷もできる。

そもそも、家系図にこだわっている人も世の中にはそんなに居ないのかもしれない。筆者もそんなにこだわっているわけではないが、家に伝わっちゃってるので、筆者の代で勝手になかったことにはできないのである。

一般に代行で戸籍調査して家系図を作ってくれるサービスは、1家系だけ、いわゆる直系だけでおよそ10万円ほどかかるそうである。複数の家系を網羅した場合は、倍々と値段が上がるようだ。筆者が使っていたサービスも、自分で入力したものを紙に出すだけで5万円ほどかかるという。人に頼めばそれぐらいかかる仕事だが、自分でわかっているならもう少し手軽な方法があっても良さそうだ。

そもそも、100年以上残すことを考えれば、なんのデータフォーマットで持っておけば潰しが利くのか、おそらくこれまでそういう視点でデータフォーマットを見るということは、あまり行なわれていなかっただろう。これは1つのフォーマットがどれだけ残り続けるかということではなく、価値があるデータがそのフォーマットでどれだけ数多く存在しているかで、フォーマットとしての延命が図れるかどうかが決まるのではないだろうか。

その点では、今のところ.txt、.html、.xls、.pdf、.psd、.ai、.dxfあたりは堅いところではないかと思う。また.jpgのような画像データも、やがてはそこから編集可能なデータへ変換するのも簡単になるだろうから、可能性はあるかもしれない。

公のデータなら、公的機関や大学がなんとかするのだろう。だが、自分にしか価値がないデータは、どうやって後世の子孫に伝えるか。この方法論は、デジタル世代になって四半世紀が過ぎた今、そろそろオジサン世代が中心になって考えていかなければならない問題だと言える。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。