小寺信良のくらしDX

第14回

少子高齢化はDXで救えるか

4月24日、民間の有識者グループ「人口戦略会議」が、最終的には消滅する可能性のある自治体を発表した。その総数は744に上っており、全自治体のおよそ4割に達する。

消滅可能性自治体の判断基準となったパラメータは、20歳から39歳までの女性の人口減少率だ。2050年までに減少率50%以上の自治体は人口増加の見込みがなく、将来的には消滅するというわけである。

10年前の調査で消滅可能性自治体と指摘されたのは、896。その後、安倍内閣による「地方創生」といった政府の音頭取りもあり、多少なりとも改善したと言える。ただその実態は、外国人の受け入れであったり、子育て支援金や奨学金支給といった金銭による支援だ。自治体がすぐに着手できるところがそこ、という事だろうが、本来やるべき「人が住みたくなる魅力的なまちづくり」とは、金をばらまいて住んで貰うということじゃないだろう。

今回の調査は、自治体そのものが維持できなくなるという長いスパンでの話だが、日本にはすでに「限界集落」といわれる場所が2万カ所以上ある。限界集落とは、人口比率の50%以上が65歳以上で、社会的共同生活が限界に達している集落を指す。

総務省が行なった令和元年度の調査によれば、前回平成27年度の調査の22.1%から10ポイントも増加して、32.2%となっている。たった4年で10ポイント増は、なかなかインパクトがある数字だ。こうした集落を多く含む自治体が、消滅可能性自治体へと繋がっていくことは、想像に難くない。

東京は人口が増え続けているが、その内訳はほとんどが地方からの転入者である。平成27年に制定された「女性活躍推進法」が翌年施行されると、それに対応した東京の大企業へ向けて若い女性の東京進出が起こった。「大学進学で東京へ」ではなく、「地方4大卒で東京へ」という流れである。

一方で東京都の合計特殊出生率は令和4年の調査で1.04と、もう数年連続で全国最下位である。これは東京で子供をもってもほぼ一人っ子ということであり、いかに東京で子供を持つことが難しいかを物語る。

昨今SNSでは、子供を持つ人、おもに働く母親に対して「子持ち様」と皮肉気味に言及する例も見られる。子供も小さいうちは突然熱を出したりして、そのたびに母親が仕事を休んだり早退して対応すると、職場ではそのぶんの仕事をまわりがカバーしなければならず、その負担が理不尽であると感じるようだ。

働く母親が増えるほど、子供の病気が完治しにくいという事情もある。例えば溶連菌やインフルエンザのような感染症が流行ると、熱のある子供は保育園を休ませることになる。だがなるべく早く職場へ復帰しなければというプレッシャーから、完治しない状態でまた保育園に預けるので、他の子に移る。そうして園内で感染がぐるぐる回ることになり、数日後にまた同じ病気に感染するという、地獄の無限ループが起こる。

こうして子供を持つ側はどんどんプレッシャーが大きくなり、支える周囲のほうも「またか」「そんなに熱出すなんておかしいんじゃないか」といった疑惑に変わっていってしまう。そんな職場の不満を聞いてきた人は、結婚しても子供は作れないなと思ってしまうだろう。また子供を作るなら、自分が働かなくてもいい高収入の男性を選ぶ必要があり、結婚への難易度は上がるばかりだ。

こうした状況を解決するため、厚労省では今年から、育休や時短勤務中の業務を代替した人に対して、助成金を給付することとした。従来からあった両立支援等助成金制度に、子育て者本人以外の手当も積み増した格好だ。

ただお金を貰えても、他人の子供のためにやりたくない残業や仕事量を負担できるかという、心理的な問題は残る。

若い人向けの仕事をどう作るか

地方は地方で、若い世代の流出を抑える必要がある。これには、地方に若い子育て世代が生活できる基盤、男女問わず生涯働ける雇用の創出が急務とされている。とはいえ、地方にそのような魅力的な雇用を、誰が創出するのかという問題が解決していない。

PCに詳しい読者諸氏の中には、筆者の住む宮崎市にDELLの大型サポート拠点があることをご存じのかたもいるだろう。地方都市のインフラと行政の後押し、県民性などが相まって、高い評価を得ている。大企業が地方へ支社を作ってくれるというのは、理想的だ。とはいえ、宮崎市は県内最大の自治体であり、消滅可能性自治体でも限界集落でもない。

宮崎県の町村部でもテレワークやワーケーションの誘致に懸命だが、農村部の主要産業は第一次産業であり、ITとは無縁である。ワーケーションとして短期間の滞在ならともかく、そこに住むとなると、地元の人と職種や価値観が違いすぎて共通点がない。自然の中でのんびり、はできるかもしれないが、いくら助成金を積んで住んで貰っても、地域での孤立化は避けられないのではないか。

消滅可能性自治体における消滅、これの意味するところは、自治体としての体を保てなくなった状態である。平たく言えば、自治権とともに役所が消滅するわけだ。だが、その地域の住民がゼロになるとは限らない。例えば山間部の場合、広大な農地があり、そこで果樹園や牧場といった大規模農耕を行なっている人達は、その場所から離れるわけにはいかない。上下水道やガス、電力といった公共インフラは必要になる。原始生活に戻るわけではないのだ。

そうなると、消滅した自治体の管理やサポートを引き継ぐため、近隣の自治体へ合併や併合されることになる。人数は膨大に増えるわけではないが、行政エリアが2倍3倍になる可能性もある。遠隔での行政サポートを実現するために、行政DX化は活用できるが、新たに加わった広範囲の山林や道路の維持管理は、実際に現場に行かなければ対応できないことも多い。そのあたりは今のところ、行政DXとは無縁の部分である。

働き方を再デザインする必要性

都会型の働き方としてコロナ以降に定着したテレワークも、次第に出勤とのハイブリッドが主流になりつつある。両方の良さを組み合わせて効率を上げていこうという考え方で、実際こうした取り組みを行なう企業へ人が集まるという傾向が強まっている。

子育て世代に向けても、こうしたハイブリッドワークが有効なのは言うまでもない。

そうは言ってもテレワークできない職種だから、という意見もあるだろうが、入力業務などのパソコン仕事が完全にゼロという業務はそれほどないだろう。こうした業務を分離して、子育て世代の急な休みに割り当てるということもできるのではないか。

熱を出した子供を見ながら働かせるのかという批判もあるだろうが、本人としては欠勤ではなく出勤扱いなので、気が楽になるという部分もある。実際テレワーク可能な業務に従事している人は、子供を見るためにテレワークという働き方を選んでいる人も多いのではないだろうか。周囲の人も、出勤してないけど働いてくれていて業務として止まっていないと知れば、むしろねぎらいの言葉に変わっていくだろう。

地方の場合は、そもそも若い世代の人達が広域に定住して仕事をしてくれる環境が必要だ。地方町村部のメリットは、農業の環境が整っているというところだが、若い人に対する農業の働き方の魅力やメリットのアピールが不足している。未だに毎日田畑へ日参し、夜明けから日暮れまで泥だらけで働くというイメージを持っている人も多いだろう。

だが現在は機械化や合理化が進み、ずーっと田畑に貼り付いていなければならないという状況でもない。筆者の住む地域では、道路1本挟んだ向こう側には田畑が拡がるが、昼間はほとんどそこで働いている人に会わない。労働時間帯が違うということもあるだろうが、生育期間中はそれほどやることがないので、労働時間としては筆者よりも短いはずだ。

今後、さらにカメラやセンサーの導入が行なわれ、多くのことは遠隔監視で済むようにもなる。農業は今後、農業経験者とIT技術者をマッチングして、新しい生産管理の方法論を開拓していくイノベーションが求められる分野だ。

地方の農業政策は、そうした第一次産業に従事するIT事業者やドローン操縦者、ネットワーク管理者といった、男女問わず若い人でなければできない仕事をDXとして創出していくことが求められる。テレワークで住め、仕事は持って来いというより、新規開拓分野があるからできるヤツ来てくれ、というほうが、若い人は挑戦しがいがあるだろう。

DXは人口減・高齢化社会へ向けてのパッチのような方法論だが、仕事をしながら子供が育てられる環境へ向かって働き方を変えていく方法論でもある。チャレンジは、若い人の特権だ。子供がいてはままならないと思うかもしれないが、子供が小さいうちだからこそチャレンジできるのもまた事実だ。筆者がテレビ業界から文筆業に転向したのも、最初の子供が6歳の時だった。チャレンジが活かせる社会こそ、未来がある。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。