小寺信良のくらしDX

第7回

進化するポータブル電源、もはや電源コントローラに

利用中のEcoflow River2

前回お伝えした通り、筆者宅ではソーラーパネルとポータブル電源を使い、仕事用の電力はほとんど自家発電で賄っている。使用しているポータブル電源は、Ecoflowの「River2」という小型モデルだが、キャンプでたまに持ち出すのと違い、毎日の生活の中で運用するに当たっては、困った事もあった。

現在仕事で使う機材をフル稼働させると、消費電力は60Wぐらいだが、昼間はソーラーパネル2つで100Wぐらい発電するので、機材で消費しつつ差し引き40Wペースで充電もできる。従って日が暮れる頃には、ほぼ満充電になっている。

日が暮れてからの仕事用電力は、満充電されたRiver2から消費していくわけだが、約2時間半ぐらいでバッテリー切れになる。バッテリーが切れるとどうなるかというと、「バッテリーが切れます」みたいな警告もなにもなく、突然停電のようにバーンと出力が止まる。使用コンピュータはノート型で元々内蔵バッテリーで駆動しているため、外部電源が途絶えても問題ないが、外部ディスプレイやスピーカー類が突然消えるので、毎回びっくりする。

そこでやおらRiver 2にAC電源を差し込み充電を始めると、また電力が取り出せるわけである。なぜ常時ACを繋いでいないかというと、AC電源とソーラーパネルを繋いでいると、ACからの充電が優先されるため、ソーラーパネルから充電できないのである。

しかし夜に充電してしまうと、翌日にソーラーパネルから充電するための空きスペースがなくなってしまう。よって仕事が終わったらまたAC電源を抜いて明日に備えるか、空きスペースがなければ夜中にポータブル電源やカメラなどを充電して、無理矢理隙間を空けるという、面倒なことになっていた。

一般的な家庭のソーラー発電は、パワーコンディショナーという機器でソーラーパネルからの直流を交流に変換し、電力会社に売電して電気代からその分を差し引くという仕組みなので、自家製の電気を自分で消費する構造にはなっていない。一方で筆者宅はパワーコンディショナーの代わりにポータブル電源を使い、自家消費しているので、こうした面倒があるのは仕方がないと思っていた。

解決策としては、夜の使用量まで賄える大型バッテリーに買い換えることが考えられるが、その金額を考えるとコスト的なメリットがなくなり、「趣味の発電」みたいなことになってしまう。これは悩ましいところである。

新ファームウェアで「電力コントローラ」に

9月19日に、ポータブル電源向けの新しいファームウェアが公開された。ただ電気を貯めて吐き出すだけのバッテリーにファームアップなどあるのかと思われるかもしれないが、Ecoflowは比較的頻繁にファームアップするメーカーである。

実は今回のファームアップで、これまで頻繁にACを抜き差ししなければならなかった問題が一気に解決してしまった。複数の機能が追加されているが、その中で個人的に「神アプデ」だと思っている機能が「バックアップ予約」である。

追加された新機能「バックアップ予約」

これは言うなれば、これまでACが主、ソーラーが従であった関係を逆転させる機能だ。ソーラー充電をメインとし、そのバックアップとしてACからの充電をバッテリーの何%までにするか、といった格好で動作する。

例えばバックアップを10%に設定すると、ACからの充電によって常にバッテリー残量が10%にキープされる。これならACとソーラーパネル両方を繋ぎっぱなしにしていても、ACからは10%以上は充電されないので、残り90%はソーラー充電用に空けておけるというわけだ。

例えば日が暮れてからの仕事で、フル充電されたRiver 2から電力を取っていくと、2時間ぐらいで残量10%に到達する。そうするとRiver2は10%の残量をキープするため、消費電力分だけACから電力が供給される。筆者宅の場合は、使用量の60Wが供給されるわけだ。

これならわざわざコンセントを抜いたり挿したりしなくても済むし、10%以上は充電されないので、翌日の分の空きスペースも確保できる。これまで毎回びっくりしてコンセントを挿し直すという、およそ10カ月の苦労は一体何だったんだという、待望のアップデートである。

そのほかにも、ベータテスト中の機能として、「自動化」という4つの機能が追加された。

4つの「自動化」も追加

これはAC充電、ソーラー充電、AC放電、12V DC(シガーソケット)放電それぞれを、タイマーで動かせる機能である。例えば昼間はソーラーから、日が暮れてからはACから充電したいという場合は、それぞれに時間を設定しておくだけで、自動的に充電先を切り替える。この機能は「バックアップ予約」のような動作を、残量ではなく時間で区切るわけだ。したがってこの両者は、排他機能になっている。

決まった時間に充電、放電が自動実行される

一方放電側では、決まった時間にライトを付けたいとか、深夜帯は電源を遮断して待機電力を節約するといった用途に利用できる。家庭内で使用する場合、12Vシガーソケット出力はあまり使い道がないように見えるが、カー用品としてシガーソケットをUSB充電端子に変える変換機が売られている。こうしたものを利用すれば、ON・OFF制御可能なUSB電源として利用できる。元々River2にもUSB端子はあるが、そこは常時入出力可能になっており制御できないので、利用する意味はある。

シガーソケット出力はUSBに変換して利用できる

またこうした電源のON・OFFは、スマホアプリを使って遠隔からでも制御できる。River2をWi-Fiに接続しておくと、家庭外からでもアクセスできるのだ。外出先から臨時で止めたいみたいなときも、わざわざ家に戻ることなく、その場からコントロールできる。

管理用アプリで遠隔地からもコントロール可能

ポータブル電源の新しい可能性

従来ポータブル電源は、キャンプやアウトドア、あるいは防災文脈でしか語られる事がないデバイスだった。ACから充電しておいて、いざというときに電力を持ち出すという、「電力のプレイスシフト」という見え方だった。

だが電力の入出力の制御や自動化機能を備えたことで、「バッファ付きの多彩な電力コントローラ」という側面が出てきた。特にバッテリーメーカーはソーラーパネルも併売する例が多いが、ソーラーパネルだけ、あるいはACだけを繋いだ利用を想定しているだけで、両方を同時に接続して、常設で動かすシーンをあまり想定してこなかったように思える。

ポータブル電源に対して、こうした機能があることを知る/知らないでは、何らかのシステムを組むにも大きく話が違ってくる。これまでかなり高額な電源設備を使わないと実現できなかったことが、数万円のバッテリーを間に挟むだけで実現できるようになった。特に仮設で費用がかけられないようなところでは、かなりメリットがあるのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。