小寺信良のシティ・カントリー・シティ
第50回
動き始めた経済の中で「街」が変わる
2023年1月28日 09:30
2022年3月に東京、大阪などで「まん延防止措置」が解除され、飲食店への時短要請も終了した。それ以降何度か感染の波が到来するも、岸田内閣以降は行動制限などは特に発令されておらず、飲食店もようやく通常営業に戻りつつある。
とは言え、およそ2年数カ月も行動制限があったりなかったりしたわけで、人々の飲食に対する習慣が変わってしまった。例えば筆者宅に近いイオンモール宮崎内のイオンスタイルでは、スーパーで買ったものをその場で食べられる飲食スペースがあるのだが、行動制限で使用中止になったりオープンしたりを繰り返しているうちに、だんだん利用する人もいなくなってしまった。
一方でフードコートや回転寿司チェーンなどは、すでに活気を取り戻している。ガッツリ食べたいものを食べに行く事に躊躇はないが、無理してそこら辺で食べるとか、食べ歩きみたいな習慣がなくなってきているのかなという気がしている。
そんなことを考えていたら、妙なことに気がついた。
ここ宮崎では、どうやらトライブスルーが復権しているようなのだ。
筆者宅の近くに大通りに面したマクドナルドには、ドライブスルーがある。土日になると、いつもドライブスルーに入りきれない車で大渋滞になっている。
ご存じの方も多いと思うが、マクドナルドはカウンターに並ばず席に座ってアプリから注文できる「モバイルオーダー」に注力している。このモバイルオーダー専用の駐車場もあり、モバイルオーダーで駐車場ナンバーを入れると、店員さんが商品を車まで持って来てくれる。
こちらのほうがよほどスマートだし混雑せずに使えると思うのだが、なぜかみな執拗にドライブスルーに並ぶのだ。中にはドライブスルーに並んで、順番が来てからモバイルオーダーする人もいて、わけがわからない。
これはどういう現象なのかしばらく答えが見つからなかったのだが、先日ようやく気がついた。
みなこのマクドナルドの店内に、徒歩で入って来たことがないのだ。だから駐車場に、モバイルオーダー専用エリアがあることもわからない。一般の駐車場の中に小さい看板が出ているだけなので、通りかかっただけでは見つけられない。
「歩かない」という県民性
以前高血圧でお世話になっているお医者さんに、宮崎県民は日本一歩かないので、もっと歩いた方が良いと言われたことがある。
日本一は大げさだろうと、 都道府県別ランキングがわかる平成28年厚生労働省「国民健康・栄養調査」を調べてみたところ、男性の全国平均は7,779歩で、一番歩かないのは高知県の5,647歩。宮崎は7,022歩で、もっと歩かない県は他にもある。一方女性の全国平均は6,776歩で、こちらも高知県の5,840歩が最低だが、宮崎県の5,939歩は鳥取県、山形県に続く第4位であった。
筆者の友人のママ友は、自宅マンションから120mしか離れていないコンビニにも車で行くという。徒歩にして2分の距離でも、車があれば歩かない。かく言う筆者も、そう言えば最寄りのコンビニまで車で行くなと思って距離を調べてみたら、自宅から450mであった。徒歩6分の距離である。
以前さいたま市に暮らしているころは、最寄りのコンビニまで400m・徒歩5分で、当然車で行く距離ではないとして、歩いていた。都市部にいれば、徒歩5分〜10分ぐらいは徒歩圏内である。先ほどの調査でも、よく歩いているのは首都圏1都3県と近畿3府県に偏っている。
もう一カ所、宮崎駅からほど近い通りにスターバックスがあるのだが、ここのドライブスルーも20時頃から車20~30台の大渋滞が展開される。
いかに宮崎市民とはいえ、スタバが最高にイケてるという認識はもう卒業している。この店は23時まで営業しており、この時間帯で他にドライブスルーでコーヒーが買えるところが少ないとはいえ、店内はガラガラでドライブスルーだけが混んでいる。駐車場に車を入れて店内でオーダーすればすぐ買えるのだが、どうしても車から降りたくないという県民性が垣間見える。
宮崎駅の駅ビル内も、人の流れを読み違えた感がある場所だ。以前も本連載でお伝えした事があるが、宮崎駅の南側に隣接するようにして、巨大アミューズメントビル「アミュプラザみやざき」が2020年11月にオープンした。
これに合わせて、いわゆる駅ナカ商店街も、「ひむかきらめき市場」としてアミュプラザの一部という格好に組み込まれた。駅ナカは南と北のブロックに分かれており、南側は確かにアミュプラザと地続きになっている感はある。ファーストフードやフードコートがあり、ちょっとした食事には便利だ。
だが北側は駅中央通路を横断してさらに奧に行く必要がある。しかも居酒屋が多く入っており、ちょっと客層が異なる。そんなことからか、昨年11月にすでに2店舗が撤退、今年に入って5店舗が閉店する。
元々この居酒屋は、駅北側にあるホテルの客を見込んでいたのだろう。旅行客が激減したという一面もあるだろうが、実はここから宮崎メインの繁華街まで800mしか離れていない。徒歩10分といったところだろうか。都会からの旅行者なら、10分ぐらいは平気で歩く。どうせ繰り出すなら駅ナカの数店から選ぶより、繁華街に出るだろう。
宮崎の方言に、「よだきい」という言葉がある。めんどくさいと言う意味で、平安時代の古語「よだけし」に語源がある。源氏物語にも「隠(こも)り侍(はべ)れば、よろづ初々しう”よだけう”なりにて侍り」という記述がある。
宮崎で多用される「よだきい」には、「動きを最小限に抑えたい」というニュアンスで使われる事も多い。そんな「よだきい」を解決したのが、車である。一方で「よだきい」の概念がない都会人は、宮崎人が想定していなかった距離をどんどん歩く。
店舗は、近ければいい、車で行ければいいというわけではなくなった。街の形は、「これまでの宮崎人基準での行動設計」から、否応もなく再編せざるを得なくなっているのではないか。