小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第40回

「モビリティ論」から取り残される地域間幹線バス

都市圏のように鉄道網が発達している地域では、いわゆる「幹線」が鉄道で、バスの役割は毛細血管のように、地域と駅を繋ぐものだ。一方鉄道網が発達していない地方では、幹線とは道路のことであり、家庭から街までは自家用車が結ぶ。

では免許がなかったり、高齢になったり、病気やケガで自家用車が運転できなくなったらどうなるだろうか。そうした通院や通学などにリーズナブルな足として地方で活躍するのが、バスの役割である。

筆者も宮崎に転居したばかりの頃、まだ自家用車を持って来ていなかったので、バスを多く利用していた。朝夕は通学する子供達で座席が埋まり、雨の日は普段なら徒歩や自転車で通勤する人も利用してくるので、座れないほどの乗車率になるが、日中や土日はそもそも本数が少なく、また利用する用事もないことから、車内に1人ということも珍しくなかった。時間帯や曜日によって利用がものすごく偏っているのが、現代のバス利用であろう。

昼間のバスはほとんど利用されていない

他方で、地域と地域、例えば市と町村や市と市を結ぶのが、「地域間幹線バス」と呼ばれる路線である。県外への足は高速バス、市町村内の足は路線バスで、その中間に位置するのが、地域間幹線バスという位置づけだ。宮崎県の場合、多くは宮崎市と近隣の市町村を結ぶが、日向市や延岡市などの大型都市もまた、独自に近隣の町村を結ぶ路線がある。

宮崎県内で最大の交通事業者は、バスやタクシーを運営する宮崎交通で、現在県内で27路線の地域間幹線バスを運行している。ただ現在は新型コロナ感染拡大の影響もあり、利用者が減少し、大半が赤字路線となっている。

3月22日に行なわれた「宮崎県バス対策協議会」では、宮崎交通が運用する27路線のうち24路線を、宮崎交通以外の事業者や市町村が運営する広域コミュニティバスへ転換する方向性が示された。

元々赤字路線であった区間に対しては、宮崎交通が県に赤字分の補填を要望していたという経緯があった。しかし県としてはこれを蹴り、いわゆる「宮崎交通切り」へと歩を進めた格好だ。当然宮崎交通側はこれに強く反発するが、県としては「そもそもは宮崎交通側が路線の維持が厳しいという申し入れがあって始まった話」とし、事業費削減のための計画も示されていないとして、強気の姿勢を崩していない。

この宮崎交通を切って、代わりがあるのか。協議会では、西都市と佐土原高校を結ぶ路線を、三和交通に変更する方向で検討しているという。三和交通は、西都市を中心に展開するタクシー会社で、路線バス6台、貸し切りバス20台を保有する。宮崎交通に比べれば規模としてはだいぶ小さいが、路線にとっては地元企業でもあり、地域間の1路線を担うには十分ではある。

どうしても「バス」なのか

これまで赤字ながらも地域間幹線バスが運営できていたのは、ひとえに宮崎交通に体力があったからである。だがコロナ禍以降、公共交通機関は著しい打撃を受けている。

宮崎県ではこうした需要大幅減を支援するために、「みやざきのってん! プロジェクト」を主導し、キャンペーンやPCR検査の無料化などで支援している。だがこれは、県外への足である高速バスなどに対する施策だ。一方で県下の足回りである地域間幹線バスで宮崎交通を切るというのは、「握手しながら足を蹴る」ような施策とも言える。

2020年12月から継続している「みやざきのってん! プロジェクト」

地域間幹線バスの存続に関しては、ここ宮崎に限らず全国で課題となっており、国としては一定の条件を満たせば、赤字分の1/2を補填するという施策を打ち出している。事業者としては、赤字分の1/2をどうにかすればいいわけだ。

これまで他県では、学生の利用促進のためにバスにWi-Fiを装備したり、人だけでなく荷物も運ぶといった取り組みを行なっている。だが宮崎県の場合、通学には元々バス以外の選択肢がない状況であり、これ以上の増加を見込むなら、これまで走っていない地域への路線新設しかない。

また貨物輸送に関しても、なにか定期的に輸送する荷物があればいいのだろうが、バス停まで荷物を運ぶ、あるいはバス停で荷物を待つことを考えたら、ドア2ドアで集荷配送してくれる宅配便よりメリットがあるのかは微妙なところだ。

大手バス会社が存続は無理というのであれば、上記三和交通のように手を上げてくれる小規模事業者へ投げるという手もあるが、それで赤字が解消するわけではない。結局は赤字を誰が引き受けるかという、問題のすり替えにしかならないからだ。

あるいは路線を短くして本当に拠点間だけの運行にし、あとの細かいところは路線バスや地域のコミュニティバスへ接続するという方法もある。しかしそれには路線バスやコミュニティバスの時間調整といったすり合わせが必須で、調整が上手くできなければ待ち時間が増え、利便性が大きく下がる。今大型バスターミナルを備える宮崎駅前であっても、バスが1台もターミナルにないという状況は珍しくなくなっている。

巨大バスターミナルも、バスの姿はゼロ

そもそも民間での運行を廃止し、必要とする地域負担で中距離コミュニティバスを運行させるという手もある。だがこれでは小さい方の市町村の負担が大きくなる。弱い方に丸投げというのは、公共の福祉に反する。

そう考えると、地域間を結ぶ公共交通機関は、どうしてもバスの形ではないとダメなのか、という問題に行き当たる。国の補填基準を参考にすると、最低条件が1日に3本運行、1回の乗車人数が平均5人以上となっている。このぐらいなら、20人乗りのマイクロバスでも余る。むしろハイエースで間に合うレベルである。

バスというインフラは、バス停に人を集合させて大量に運ぶという、言うなれば道路上の鉄道システムである。採算が合わなければ、存続か廃止か、あるいは他社や地域へ丸投げかでしか議論されていない。だが所詮は車移動の話なので、モビリティという視点でもっと色々なやりようがあるはずだ。

「モビリティから社会を変える」「メーカーと地域が連携して」などと言われているが、それはそこそこ大都市圏へ接続できる地域にはチャンスがあるという話だ。本当に地方に切り離されている地域は、その議論は遠い世界のおとぎ話にしか聞こえていないのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。