小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第37回

排除しつくした「街」に、再び人は呼べるか

12月5日、宮崎駅へ連なる大通りの高千穂通りにて、交通規制を伴う大規模な実証実験が行なわれた。通りの南側のみ、通常は歩道にある自転車道を車道内に移し、歩行者と自転車の通行空間を分けることで、安全性や利便性を検証する狙いだ。宮崎市内では、交通規制を伴う大規模実証実験は今回が初めてだという。

実はこの実験は、国土交通省道路局が例年公募しているもので、令和3年度の九州管内では3カ所が採択された。この採択を受けて、宮崎県と宮崎市では令和3年11月16日に「高千穂通り周辺地区の道路空間利活用協議会」を発足させた。

地図を見ながら位置関係を整理してみたい。以下の地図では宮崎駅から西側の繁華街へ通じる主要幹線道路を描いている。昨年11月に駅前再開発事業の一環として、JR九州と地元企業が合同で大型商業施設「アミュプラザみやざき」をオープンさせている。そして宮崎県と市では、駅と国道を結ぶ約800mの高千穂通り(県道25号)の回遊性を高めるため、一帯の再整備を目指すこととなった。

宮崎駅周辺の道路関係図。赤が国道、緑が県道、黄色が市道である

高千穂通りは、道路構成に紆余曲折のあった道路だ。現在は片側2車線の車道の脇に植栽があり、その内側に自転車道、さらに建物寄りに歩道という構成になっている。だがこの構成になる以前、現在自転車道がある位置も、車1台分が通行できる馬車道のような側道があった。植栽を間に挟んで、道がもう一つあったのである。この通り沿いに人を下ろす車やタクシーは、この側道に入って停車していたものだった。ただ違法駐車があるとそこで車が詰まってしまうため、使い勝手が悪かった。

自転車道のあたりにもう1本車道があった

その側道を歩道と同じ高さに上げて、自転車道にしてしまうという考えは、工事を行なった1997年当時はそこそこ良かったのだろう。だが時を同じくして、この通りと橘通りは自転車駐輪禁止区域として厳しく規制されたことから、人の回遊が激減した。大量の駐輪自転車がなくなったことで多少景観は良くなったが、同時に人も居なくなってしまった。

この通りにあった商業施設はことごとく衰退し、現在は証券会社、保険会社のオフィス街になっている。こうした金融会社は、道を通りかかった人がふらっと立ち入るようなものではない。したがって日中にも関わらず、広大な歩道に歩行者がほぼ居ないという状態が続いている。木々の間には市が場所を借り上げて設置したモニュメントや噴水、ベンチなどが設置されてはいるが、水は流れずベンチは苔むして、利用することも憚られる。

座って休むのも憚られる放置具合

この幅広い歩道は、広すぎるがゆえに痛ましい事故も起こっている。2015年に高齢者ドライバーが誤って歩道に侵入し、そこから700mに渡って歩道を走行しながら男女6人を次々とはね、うち2人を死亡させた事件は、全国に報道された。

全長800mの道路のうち、700mも自動車が歩道を走行するなど可能なのかと思われるかもしれないが、写真を見ればおわかりのようにそもそも車道だったので、車も十分に通れてしまうのである。

暴走車両が歩道に侵入した場所。現在は交差点を管理する国交省によって縁石が設けられている

矛盾を抱える現状

5日に行なわれた実証実験の意義や課題等について、宮崎県県土整備部都市計画課に話を聞いた。

今回の実証実験では、南側歩道にある自転車道を、車道側1車線を潰して展開し、両通行にした。公道に併設される自転車道は左側通行が原則だが、自転車道を半分に割って両通行にするのは珍しいという。

自転車道を車道に移した理由は、この幅11mもある歩道を使って何かのイベントを開催した際に、平時は歩道のど真ん中に自転車道があるため、イベント利用者と自転車が接触する可能性が高いからである。こうした従来車線の変更を、常設として「そうしてしまう」のではなく、なにかあるときだけフレキシブルにやれないか、というのが実験の狙いだ。そのためには法整備も含め、数多くのハードルがある。

5日の実験では、自転車や歩行者数の計測のほか、インタビュー等も行なっており、今後データをまとめて協議会にかけ、年度末の3月までには中間報告として国土交通省に提出する。事業は2カ年なので、来年度も引き続き実証実験を行なうという。

現在多くの都市で、幹線道路の歩道にベンチ等の休める場所を設置し、人が滞留する時間を伸ばす施策が実行されている。そんななか、ホームレスなどが常駐できないよう、座面に突起や仕切りを設けた、いわゆる「排除ベンチ」を設置し、市民から不評を買うという例も後をたたない。都市計画にとって都合のいい人だけを集め、招かれざる者を排除するベンチでは、具合が悪くなった人やけが人を横たえることもできない。

この通りでも、一度木製のベンチを設置したことがあったが、夜中にスケートボードの技を試すための構造物にするためか、歩道の真ん中に持ち出され、角が削られて座るのに支障が出るという事例があったという。このため現在は、この通りでスケートボードやBMXが禁止されるに至っている。

警察と県によって設置された看板

ベンチを破損させるのは犯罪行為にあたるが、結果としてはこれも一つの排除の形とも言える。スケートボードが行なえる施設は市内に数カ所あるが、夜は営業していないため、仕事終わりの若者や学生などが夜に遊ぶとなると、通りに出るしかない。元々ストリートスポーツとはそういうものではあるわけだが、締め出されたスケートパーク近くの暗がりで練習している若者を見るたびに、虚しい気持ちになる。むしろこの歩道にスケートパーク的なエリアを作るなどして、人を呼ぶといった方策はできないものか。

もっと自転車で通れ、通りを利用せよと言われても、通りは駐輪禁止で駐輪場もない。これを総合的になんとかしようというわけなのだが、単に見た目が悪いから禁止・排除するというのでは、どんどん人は遠ざかっていく。

駐輪場がないため、歩道に無秩序に駐輪されている

人が集まり、賑わいや憩いの場となるためには、キレイキレイに作り込みをするだけでは足りず、様々な目的を持った人たちを受け入れて共存するという意識改革が必要になる。見た目の良い街並みであれば経済的に死んでも構わぬとは誰も思っていないはずなのに、いつまでもボタンの掛け違いが正せない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。