小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第31回

東京よ私は帰ってきた(一瞬)。都会と地方、拡大する「ズレ」

約2年ぶりの東京行き

6月中旬、久しぶりに東京へ出張することができた。打ち合わせ等はリモート会議で不便はないところだが、機材の解説を動画でやるということになると、やはりこちらから出向いていかないと難しい。

地方と都会を結ぶ飛行機は減便が相次ぎ、宮崎 → 羽田便は一番早くて10時20分発、11時55分着である。以前は朝7時~8時台の便もいくつかあり、都内で10時からのミーティングに間に合うような構成になっていたものだが、到着がお昼では、実際都内で動けるのは13時半とか14時からになってしまう。

また復路も羽田発最終が16時40分発なので、都内を15時ぐらいには出ないと搭乗に間に合わない。それではなんにもできないので、一泊は必須となってしまう。ビジネスで訪れるにはかなり厳しい条件である。

かつて家があったさいたま市へは成田便で戻っていたので、東京に寄る機会が少なかった。都内に足を踏み入れるのは、おそらく2年ぶりだ。コロナ禍がなければ、LCCを使って2週間に1回ぐらいは東京に行って、宿はAirbnbで探して、などと考えていたのだが、東京でのイベントや取材案件がなくなってしまい、行く理由がなくなってしまった。

東京の緊急事態宣言は6月20日までだったが、上京した時はまだ緊急事態宣言下。飛行機の利用者は激減していることもあり、モノレールは空いていたが、山手線はほぼ座席が埋まり、立ち乗りが数人といった乗車率だった。三密を避けるとはいっても、今はもう座席を開けて座るようなことにはなっておらず、単に人が少ないだけで行動様式は以前と同様に戻っているように見える。

地方である宮崎市内と違ってちゃんとしていたのは、店に入る前などにきちんと消毒液を使って手を消毒してから入店する人がほとんどだったことだ。ここ宮崎市内では、消毒液を利用する人は6~7割ぐらいだろうか。感染率が高まればみんな気をつけるのだが、第4波を過ぎて沈静化状態になると、カメラによる検温も利用せずスルーする人は多い。

やはり東京のほうが、感染率の高さからくる危機感は大きいように思う。この時期に街を歩く人も、感染リスクがあることを承知している感じがする。

午後3時頃の秋葉原駅前も人通り、車通りは少ない

今回はあるメーカーさんの東京営業所にお邪魔させていただいたのだが、すでにリモートワークが定着していて、以前3フロアあったオフィスも2フロアだけとなり、席もフリーアドレスとなっていた。だがそもそも出社している人が1フロアに3人ほどしかおらず、休日の会社に来たような気持ちになる。

宮崎の企業でこのような業態になっているところは非常に少ない。オフィス街へ行けばワイシャツ姿のサラリーマンを普通に多数見かけるし、フロアはアクリルパーテーションなどで区切りながらも「原則出社」である。もっとも地方の大きな組織とは金融・証券・不動産関係のほかは官公庁であり、仕事を家に持ち帰るのが難しい業種であるのは否めない。

加速度的に拡大する「ズレ」

今回は秋葉原周辺に宿をとったが、緊急事態宣言下では飲食店のアルコール提供ができなくなるということで、居酒屋などは休業に入っているところが多く目についた。閉まっているところを見たことがないほどに賑わいを見せた駅前の様子を知っているものからすれば、剥がれかけた休業を告げる張り紙が侘びしく見える。

アルコールを提供しない飲食店も営業は20時までということで、食事できるところはかなり限られる。本来ならば仕事終わりにビールの1杯でも飲みたかったところだが、空いている定食チェーンに入ってどうにか腹を満たし、コンビニでビールとツマミを買ってホテルで飲むしかない。

メイド喫茶の呼び込み列も従来どおりだが、今はなかなか厳しそうだ

一方で宮崎市内は、県独自の緊急事態宣言も5月いっぱいで解除され、飲食店の営業も通常に戻った。馴染みのワインバーのママが昼の飲食店を始めたというので挨拶がてら顔を出したが、話を聞くとアルコール有りの飲食も行動が変わってきているという。

緊急事態宣言が解除され、19時~20時ぐらいの来客はそこそこ戻ってきたが、そのまま2軒めへ流れることがほぼなくなっているという。おそらく会社で、会食はOKだが2次会の飲み会は禁止というルールになっているのではないか、という話であった。

感染率の低い地方都市では、飲食店へのダメージは少ないように思われているが、宮崎市内は小さなバーやスナックが多い。がっつりした料理を出さないこれらの店は、2次会3次会で使われるわけだが、「食事して終わり」が普通になれば、繁華街の構造自体も変わらざるを得ない。「欲望の街、秋葉原」は、世の中の流行り廃りに合わせて変貌することをいとわない土地柄であるが、地方の繁華街でそんなスピード感を持って変われるのはほんの一握りだ。

もう一つ、東京のスピード感に驚くのは、ワクチン接種である。65歳以上や医療従事者は当然として、既往症のある人の接種がすでに始まり、一般の方向けの職場接種も一部では始まっている。始まらないにしても、すでに接種券が届いたり、7月ごろといった具体的なスケジュールが出ているという話も聞く。東京オリンピックを控えてのスピードでもあるかもしれない。

一方の宮崎市では、一般の接種スケジュールは、接種券の配布時期すらも見えていない。そうなると次回東京出張時は、東京在住の人はすでに接種済み前提の行動規範で動けるが、地方在住者は同じ行動ができない可能性がある。

夏に東京オリンピックを実施するとしたら、地方から未接種のままで上京するのは極めてリスクが高い。この秋にはリアル展示会再開も視野に入ってくるだろうが、「アフターワクチンの行動規範」は、こうした行政行為の時間的ズレが、無視できない大きな影響をもたらすことになるかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。