小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第27回

地方にとっての「イオン」、熾烈な生存競争の果てにあるもの

地方都市にとって、「イオン」の存在は大きい。首都圏近郊ではイオンは大型スーパーでしかないが、地方では繁華街ではなく、広大な敷地が確保できる郊外に大型店を出店するという戦略をとっており、地方民にとっては“わざわざ時間をかけて行くところ”であり、子どもたちはテンションが上がる。

当地のイオンモール宮崎は、宮崎市内の東側、海岸線寄りにある。2018年に増床したこともあり、延床面積13万m2、250店舗が入居する、一つの「街」である。市内の繁華街はそこから3kmほど西側にあるのだが、宮崎市の道路は南北に太く、東西が細いという傾向がある。したがって繁華街とイオンモール間のアクセスはあまりよくなく、両方を行き来する人は少ない。その点では、繁華街がイオンに客を取られるといった影響は小さいと言える。

しかしそれがゆえに、市内繁華街を中心とした宅地形成とは全く連動しない、イオンモールを中心とした宅地形成が発展しつつあり、宮崎市の繁華街は新旧2つに別れようとしているように見える。

11月の本コラムで、旧繁華街に登場した「アミュプラザみやざき」を取り上げた。これも巨大施設とはいえ、延床面積3万7,700m2、店舗数97と、イオンモール宮崎の規模からすれば1/4程度しかない。それでも計画的に店鋪が配置され、競合他社が隣り合って客の取り合いが起こるようなことはない設計となっている。

一方でイオンモールに目を向けると、昨年から始まったコロナ禍の影響が大きく、閉店する店舗が目立ってきた。筆者が知るところで一番はやい閉店は食料品売場への入り口近くにあったケーキ店で、昨年の5月7日に閉店し、未だ次の店舗も決まらぬままだ。

昨年5月に閉店したケーキ店跡地は未だに空きのまま

そのほか、コロナ禍で業績低下産業の筆頭であるアパレルはもちろん、雑貨店や最近は飲食店の閉店も相次いでいる。特に飲食店は、全国チェーンですら撤退を余儀なくされるケースが目立つ。全国区のブランド力も効いていないのである。現時点で、次のテナントが公表されていない空きスペースは10以上ある。

1階のペットショップ跡
地元バッグ専門店も今年1月に閉店
かつてウェンディーズがあった場所
フードコートのリンガーハットも撤退

一方でその跡地に、宮崎初となる店舗の進出もある。個人的に嬉しいのは、Apple正規ディーラーである「C Smart」の出店だ。

実はこれまで宮崎県内には、Macの持ち込み修理が可能な正規ディーラーがなかった。「カメラのキタムラ」は正規ディーラーの一つだが、持ち込み修理対応はiPhone/iPadしかできない。したがってMac本体の故障による修理対応は、メーカー直送しかなかったのである。

宮崎県で初となる、Apple専門店が3月にオープン

「Loft」初上陸から何が見える?

サウスモール2階にあったおもちゃ店や遊戯施設が撤退した跡地はかなり広くまとまっており、時折イベントやセールの特設会場として使われる以外は、ずっとパネルでフタがされていた状態であった。しかしこの3月、この広大なエリアに宮崎県では初めて、「Loft」が出店することとなった。

「Loft」も宮崎初上陸

Loftといえば、東京渋谷本店のほか大手デパート内に広い売り場面積で展開する、おしゃれ系雑貨屋だ。開業は1987年渋谷で、バブル期の生活を彩った大型店である。似たような店舗に「東急ハンズ」もあるが、あちらはおしゃれ雑貨というよりはホームセンターに近い、DIYに強いところを特徴としていた。

ところがアミュプラザ宮崎に出店した東急ハンズはDIY系をほぼ扱っておらず、高級雑貨店として出店している。つまり宮崎の東急ハンズはLoftと内容がかなり被るが、旧繁華街とイオンモールは地理的要因から直接的には競合していないので、そこは両立が可能である。

イオンモールにできるLoftの営業面積は約1,028m2。近隣他店と比べると、面積で5〜8倍の売り場面積だ。かつて複数店舗だったところを貫いての出店なので、かなり横に長い売り場となる。イオンモール内にこの規模の大型店はユニクロ、H&M、スポーツオーソリティとすべてアパレル系で、雑貨大型店は他にない。東急ハンズについでLoftの開店は、かつて首都圏に住んだことがある人にとっては喜ばしい限りである。

ものすごく横に広い店舗

問題は、出店位置だ。2018年にオープンした新棟の2階は、そもそも雑貨店がひしめく通りである。向かいとなる未来屋書店には文具コーナーがあり、真正面にはダイソー。そして同じ通りに小型の雑貨店が5店舗もある。フロアを別にすればさらに数店舗ある。ここにおしゃれ雑貨のLoftが2万2,500点の雑貨を揃える。キャラクターグッズなどはかぶらないとは思うが、文具、美容健康器具、生活家電などを扱う店舗とは競合となりうる。

向かいにある未来屋書店の文具・雑貨コーナー
真向かいにダイソー
斜め向かいの位置にある「zakka-eQ」
3店舗離れて「チェルシーニューヨーク」
5店舗離れて「オーサムストア」
同じ並びに「ヴィレッジヴァンガード」

アミュプラザ宮崎のように、新規店舗の場合はテナントの種類や位置などは調整可能だ。だが既存店舗に新店ができる場合、近隣店舗を調整でどかすわけにはいかない。Loftは当然この配置を見て、勝算ありと踏んだから出店するのだろう。一方で近隣店舗は、Loftが来たからといって簡単に移動することはできない。共存できなければ、また撤退店舗が増えていくことになる。

イオン近隣でバリの輸入雑貨を扱う小さな店舗の女将さんと仲良くなって、お店の経営のことなどを話す機会があった。その店も以前、イオン内にテナントを出さないかという営業があったそうである。小さなスペースでも月額の家賃が数十万円かかるということで、年寄2人ではとてもできない、人を雇ってまでやる元気もないということで、断ったそうだ。

きちんと管理された華やかな店舗でお店を出すというのは、多くの店舗経営者にとっては夢だろう。だが地元のお店が入り込めるようなレベルではなく、中身はどんどん「東京」になっていく。地元の子供達にとっては、東京の香りがする店舗がずらりと並ぶ店内は魅力的だろう。一方競争力の弱い地元の名店はどんどん地価の安い田舎に散り散りになっていき、アクセスするのが大変になっていく。車で移動しなければあちこちの店に立ち寄ることはできなくなっており、車社会にますます拍車をかける。

内閣府の平成30年の調査によれば、宮崎県の高齢化率は31.7%。順位をつければ全国15位だが、5位以下はほとんど差がない。車での移行が困難な高齢者が増えていく中、うまく街中に住めれば便利ではある。しかし田舎へ行くほど街としての機能は広く分散する傾向があり、高齢者の生活を困難にしている。

急な変化は目に付きやすいが、その裏で動いているジワリジワリとした変化はわかりづらい。「便利の集中」が「不便の拡散」と背中合わせになっていることに、今更ながら気付かされる。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。