いつモノコト

セールで買った3DプリンターでiPhoneスタンドを作ってみた

3Dプリンターで作ったiPhoneスタンド。中にはApple Watchの充電器が仕込まれているので、上にAirPodsを乗せると充電もできる

このiPhoneスタンド、いいと思いませんか?

中にMagSafe充電器が入っていて、iPhone本体を入れると充電が始まります。すると、iPhoneの「スタンバイモード」を使って時計が表示されます。もう見た目はまるで置き時計です。

音楽再生中にはこんな感じ
中にはアップル純正のMagSafe充電器が入っている

取り出す時には後ろのレバーを押すと出てくるので、持ち出す時も素早く手に取れます。

取り出す時は上のボタンをプッシュ

これは市販品ではありません。3Dプリンターでの出力品です。

筆者は先日、勢いで「Bambu Lab A1 mini」という3Dプリンターを買いました。3Dプリンターというと難しくて大変なもの、という印象がありそうですが、実はそんなことはありません。3Dなどの知識がなくても、「欲しいものをスマホで探してタップ」するだけで作れてしまいます。

購入した3Dプリンター「Bambu Lab A1 mini」。購入価格は割引もあって27,980円

3万円以下で最新のカジュアルな3Dプリンターが手に入る

筆者は3D CGなどの知識がちょっとあります。プロの人々に比べればたいしたことはないのですが、3Dプリンターについても一定の知見は持ち合わせているつもりです。

しかし、私物の3Dプリンターは持っていなかった。理由は「昔は意外と大変だった」から。組み立てが大変で使い始めるまでに時間がかかり、騒音や振動も大きくて深夜に使うのは難しい。データの扱いにも一定の知識が必須だからです。

とはいえ、そんな常識も変わってきていました。

そんな「カジュアル路線」の製品として、今年春の発売以来、界隈で評価が高かったのが、Bambu Labの「A1 mini」という製品です。

レビュー動画などをみて気にはなっていましたが、同時に興味を惹かれたのが「価格」。Amazonでセールがあるたびに、公式オンラインストアでもセール品となり、通常価格5万円台の製品が4万円以下になっていました。

「どうしようかな……」と毎回悩んではページを閉じることを繰り返していましたが、10月22日から始まった公式ストアのブラックフライデーセールで、なんと29,800円になっていました。さらに同社のメルマガに登録すると2,000円オフのクーポンがもらえるので27,800円です。

本来52,800円のものが29,800円。さらにクーポンで2,000円引き。ひんぱんに値引きされている製品とはいえ、27,800円は大きな値引き

こうなると「もう買ってもいいかな」と思い、「カートに追加する」をクリックしてしまいました。

設定も「静穏化」も自動、出力もスマホをタップするだけ

届いてみると、A1 miniは思った以上にお手軽でした。

サイズこそそれなりに大きいのですが、ほぼ組み立て済み。輸送時の固定用ビスを何本か外して、ちょっとした部品をつけるだけだから、10分もかからない。

その後の設定も自動です。

3Dプリンターを使う場合には、印刷面の水平出しなどのキャリブレーションが必須。ですが、その辺はほとんど意識しなくても、初期設定時にA1 miniが勝手にやってくれます。

同時に行なわれるのが、静穏性を高めるためのキャリブレーション。同社は「アクティブモーターノイズキャンセリング」と呼んでいます。

これはモーターの動作音を分析した上で逆位相の音を発生させ、動作音を小さく感じさせる、というもの。過去にテストで使った3Dプリンターは60dB以上の音が出てうるさかったのですが、A1 miniは簡易的な実測でも50dB以下(静かなオフィス程度)で、あまり気になりません。

A1 miniにはWi-Fiが内蔵されており、PCやスマホのアプリと連携して動作します。特にスマホアプリ連携が手軽です。

アプリを入れて設定したら、アプリ内から作りたいものを選び、フィラメント(出力に使う素材)をセットして開始。

アプリを見ながら、公開されているデータから出力したいものを選ぶ
「造形開始」をタップして出力スタート

あとは待つだけです。

出力中の状況はスマホから確認可能
数時間かけて積み上げながら出力
出力したもの。うまく形ができるよう付けられている「サポート材」を外せば使いはじめられる

Bambu Labのプラットフォームの中で使う限り、技術的な知識はほとんど要求されません。冒頭で紹介したスタンドの場合、出力には8時間弱かかったものの、待ちさえすれば手元に色々な小物が手に入ります。

ここまで来れば確かに「家電感覚っぽく」なってきました。

動画で惚れて衝動買い、でもいい時代

前掲のスタンドには面白い逸話があります。

まずは以下の動画をご覧ください

Making an iPhone Standby Mode Dock ft. OVERWERK

これはScott Yu-Janというデザイン・ものづくり系YouTuberが、A1 miniの発売元であるBambu LabおよびデザイナーのOVERWERKとコラボレーションして作ったものです。

デザイン自体は、インダストリアルデザイン界の巨人である、ディーター・ラムスの手によるブラウン製の目覚まし時計「DN40」にインスパイアされたもの。デザインに対するウンチクを語りつつ、iPhone用のスタンバイモード用ドックとしてかっこいいものをA1 miniで実際に作り、さらにはモデルデータの公開もしています。

前掲の動画より抜粋。動画内ではこのスタンドを作っていた

動画として単純に面白い上に、3Dプリンターへの興味をそそられる、広告用動画のお手本のような作りだと思います。

もちろん、3Dプリンターの力を100%発揮するには知識が必要です。3Dデータを自分で修正・作成できた方が良いし、フィラメントの選択にも多数のノウハウがいります。可動部品が多いのでメンテナンスフリーというわけにもいきません。だから、家電や家庭用プリンターと「完全に同じ感覚」では使えません。

とはいえ、前掲の動画のような「これなら作ってみたい」と思わせるものをフックにして手に入れたが知識はない……という人でも、実際にモノを出力して使う喜びを味わえる、というのは大きな変化だと考えます。

なお、このiPhoneスタンド、出力物自体を販売するような「商用利用」は禁止。しかし、改変しての利用やデータの配布は問題なし。実は冒頭で挙げたものもオリジナルではなく、iPhone 16 Pro Max向けにカスタマイズし公開されていたものだし、製作途中として紹介していたのは、Apple Watchの充電を想定した、また別のカスタマイズ例だったりします。

というわけで、これを手に入れるには、自分もしくは知り合いに出力してもらうしかありません。

これだけのために3万円+フィラメント代3,000円を支払うのは……という気もしますが、他にも日常的なものを出力していけばすぐに元は取れそうな気がします。

まあ、「次になにを出力しようか」「そのためにはなにが必要か」と考えを巡らせてしまうあたりが、3Dプリンター沼への入り口なのでしょう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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