いつモノコト

年末年始はNHK「映像の世紀」! 至高のドキュメンタリーをデジタルリマスター版で

NHKの傑作ドキュメンタリー「映像の世紀」シリーズ。19世紀末に人類が映像装置を発明してから、世界各地で撮影されてきた膨大な映像アーカイブを組み合わせて構成された歴史ドキュメンタリー番組です。シリーズ第一弾が放送された1995年に小学6年生だった私は、当時この番組を見てその魅力に取り憑かれ、28年もの間「映像の世紀ファン」を名乗っています。あと2年でファン歴30年か……。

というわけで今回は、年末年始のお休み期間に楽しめる最適コンテンツとして、私が所有する「デジタルリマスター版 映像の世紀 Blu-ray BOX」の魅力をご紹介しましょう。

何度もリマスター&リミックスされる人気コンテンツ「映像の世紀」

ご存知の方も多いとは思いますが、まずは「映像の世紀」シリーズの概要から解説します。

映像の世紀公式サイト

20世紀は、人類が初めて歴史を「動く映像」として記録し、見ることができるようになった最初の世紀。「映像は20世紀をいかに記録してきたのか」をテーマに、NHKと米国ABCが国際共同取材し、世界中に保存されている貴重な映像記録を発掘、収集、そして再構成したドキュメンタリーが「映像の世紀」です。番組制作のための撮り下ろし素材はほぼなく、過去の映像記録で番組を構成するという非常に硬派な作りが特徴です。

1995年のシリーズ第一弾は、NHK総合テレビ「NHKスペシャル」の枠で放送されました。19世紀末の映像装置の誕生に始まり、世界恐慌、ナチスの台頭、2度の世界大戦、ベトナム戦争、冷戦時代とその崩壊、20世紀末の民族紛争など時系列でテーマを分けて全11集で構成。加古隆のドラマチックな音楽や山根基世アナウンサーの安定したナレーションもあり、ドキュメンタリーとしてのクオリティが高く評価され、同年の毎日芸術賞や放送文化基金個人グループ部門賞などを受賞しています。私が所有しているのは、この第一シリーズの Blu-ray BOXです。

2015年には、続編となる「新・映像の世紀」が全6集で放送。元の「映像の世紀」で使用された映像にデジタルリマスターを施しつつ、その後に新たに発掘された映像も追加しながらテーマごと再構築し、2000年代以降の話題も盛り込んだ内容となっています。さらに2016年には、「映像の世紀」と「新・映像の世紀」の内容を再構築した「映像の世紀プレミアム」がBSで放送されるなど、とにかくリマスター&リミックスされまくっているNHKの人気コンテンツです。

そして現在、NHK総合テレビでレギュラー放送中なのが、シリーズ最新作「映像の世紀 バタフライエフェクト」。主にNHKが保存している戦後の映像アーカイブをベースに、人間ひとりひとりの小さな営みが、いかに連鎖し、世界を動かしていくのかをテーマに放送されています。基本的に、シリーズを通して映像の構成やナレーションの入れ方、音楽などが共通していて、時代に合わせて技術的な小さなブラッシュアップはされても、番組としての演出がガラリと変わることはないのが良いところ。

なお、「映像の世紀」シリーズで重要なのが、加古隆作曲のメインテーマ「パリは燃えているか」です。ヒトラーが第二次大戦のパリ解放の際に言ったとされるセリフをタイトルにしたこの「パリ燃え」ですが、「新・映像の世紀」「映像の世紀 バラフライエフェクト」と続編シリーズでも変わらずメインテーマに起用され続けています。というか、この音楽がなくなったらそれは「映像の世紀」ではないと言っても過言ではありません。それくらい圧倒的な存在感を持ち、心の奥底に食い込んでくる名曲です。

NHK公式「パリは燃えているか」

それは夫からのクリスマスプレゼントだった

私は小学生で「映像の世紀」の放送を見たあと、中学生になって再放送を自分でVHSに録画し、それを繰り返し見ていました。しかし、そのうち映像はアナログからデジタルの時代へ。若かった私にはお高かったDVD BOX(全11枚)にはなかなか手が出ず、たまにある再放送でのみ「映像の世紀」を見る時期がしばらく続きます。

そんなことをやっているうちに世の中の映像分野が結構進化しまして、いつの間にかリマスター版Blu-rayまで出て、さらに配信の時代が到来。近年、「映像の世紀」シリーズを見ようと思えば課金していつでも見られる環境になりました。

……が、やっぱり本当に好きなものは物理的に手元に置いておきたいのがオタク魂。いい歳になってお金も出せるようになってきたし、そろそろBlu-ray BOXを買ってこんな素晴らしいドキュメンタリーを作ってくれたNHKさんに貢献するか…まあそもそも毎月受信料払ってるけどな……なんて考えていたタイミングで、私は結婚することになったのです。

そう、あれは今の夫と結婚して最初の年のクリスマスのこと。プレゼントは何が欲しいかと夫に聞かれ、「デジタルリマスター版 映像の世紀 Blu-ray BOXが欲しいです」と淀みなく答えた私。「ん? 何? デジ……? えーと、間違えたら申し訳ないから、お金は出すので一旦自分でポチってくれる?」と優しく夫に促され、ようやく念願のBlu-ray BOXを手に入れたのでした。

全部で11枚のBlu-rayが2つのケースに分けて収録されています

というわけで、かつてはVHSを再生してブラウン管テレビで見ていた「映像の世紀」を、今はBlu-ray再生で4K液晶テレビで見ています。やっぱりフィジカルメディアを手元に置いておくと、ジャケットを眺めて「ウフフ♪」ってできるのがいいですね。

ウフフ♪

ちなみに「映像の世紀」は、過去の映像記録で構成するという番組の特性上、フィルム時代の映像も多いです。さらに、Blu-rayは画面のアスペクト比が放送当時の4:3のまま収録されています。これ、あえてデジタルリマスター版のBlu-rayを買う意味はあるのかと思われるかもしれませんが、字幕が16:9の画面に合わせたサイズで綺麗に直されているのが地味に見やすい。これから買うなら確実にBlu-rayの方が良いですよ。

特典としてブックレットが付属。これを読むだけでもボリュームがあって良い

あなたは第何集が好き? 私の推しは第3集です

ここからは、私が所有している「デジタルリマスター版 映像の世紀 Blu-ray BOX」に収録された全11集の中から、おすすめのエピソードについて語らせてください。

私が好きなのはズバリ、第3集「それはマンハッタンから始まった」です。テーマは「1920年代のアメリカ」。第1集がリュミエール兄弟のシネマトグラフから始まる映像の誕生、第2集が第一次世界大戦の記録と来て、第3集はちょっと地味に思えるかもしれませんが、こういう硬派なテーマこそガチでやり遂げるのが「映像の世紀」なのです。

噴き出した大衆社会の欲望が時代を動かした……!

第一次大戦の影響から立ち直り、史上空前の好景気に湧き立つ1920年代アメリカの反映と奈落が描かれます。ちょうど科学や心理学が発達し精神的支柱や宗教の土台が崩され、資本主義の基本スタイルが形成された時代。資本投下がグイグイ行なわれ、信用貸しの超バブル経済(ヤバイ)に浮かれ、ダイナミックな大衆社会を形成する民衆の映像は、モノクロなのにとてもきらびやかです。

アメリカの景気は最高を極め、もうこれ以上成長できないところまで上り詰めますが、国民は株を買い続けながら少しずつ虚無感を覚えるように……。しかし、誰もが狂騒の日々というぬるま湯から抜け出せません。

ニクいのが、要所々々で時代を代表する作家、スコット・フィッツジェラルドの著作を引用しながら進む演出。まさに「グレート・ギャツビー」の時代ですから。特に終盤、リンドバーグが大西洋無着陸飛行を成功させたシーンで引用される「ジャズ・エイジのこだま」という文章の一節が素晴らしすぎるのです。

「何か光り輝く異様なものが空をよぎった/同世代の人々とは何も共通点を持たないかに見えた、一人のミネソタ出身の若者が英雄的行為を成し遂げた/しばらくの間、人々はカントリークラブで、もぐり酒場で、グラスを下に置き、最良の夢に思いを馳せた/そうか、空を飛べば抜け出せたのか/我々の定まることを知らない血は、果てしない大空にならフロンティアを見つけられたかもしれなかったのだ/しかし我々はもう引き返せなくなっていた/ジャズ・エイジは続いていた/我々はまたグラスを上げるのだった」

「映像の世紀」第3集のナレーション音声から文字起こし

同胞たちの一瞬の興奮と静かな諦めを、グラスの上げ下げで表現するフィッツジェラルド、天才すぎませんか? またこのバックで「パリ燃え」のアレンジが流れているんですよ。なんだこの最高の演出。沁みる……。

そして景気よく株を買い続ける人々を映しながら、ラストは1929年ウォール街の大暴落で幕を閉じます。大混乱するNY証券取引所の映像は、繁栄を極めたアメリカが一転、奈落の底へ突き落とされた象徴に。恐慌は世界へと波及し、そこから抜け出そうとした時代はやがてファシズムの台頭を許す……といった感じで「第4集:ヒトラーの野望」に繋げて終わります。

史実モノって、誰にとってもネタバレしてる前提じゃないですか。それでも1時間以上釘付けになる構成・演出が見事です。このほか、第6集「独立の旗の下に」もめちゃくちゃ良いです。第二次大戦まで列強国に植民地支配されていたアジアの国々側にスポットをあて、戦中〜戦後でどんな道を歩んだかを描きます。渋い……これぞ「映像の世紀」。

「映像の世紀」と共に良いお年を

少々長くなってしまいましたが、もしここまで読んで下さった方がいたなら、ただただお礼を言いたいです。最後に、NHKのBlu-ray販売サイトにある製品情報と各集のあらすじを転載しますので、ご参考ください。エピソードは一つひとつ独立した作りでバラ売りもされていますから、ぜひ興味のあるものからご覧になってみてくださいね。もちろんNHKオンデマンドでも配信されています。それでは皆さま、「映像の世紀」と共に良いお年を。

「デジタルリマスター版 映像の世紀 Blu-ray BOX」

音楽:加古 隆
語り:山根基世
声の出演:青二プロダクション

【収録内容】
第1集 20世紀の幕開け カメラは歴史の断片をとらえ始めた

第1集では王朝国家が終えんを迎える19世紀末から第一次世界大戦までを紹介。1900年のパリ万博をはじめライト兄弟による飛行機の発明や大英帝国・ヴィクトリア女王の葬儀、ロシア革命で処刑されるニコライ二世一家、第一次世界大戦の導火線となったオーストリア帝国皇太子暗殺事件当日の映像等々、激動の20世紀の幕開けをビビッドに描く。ルノアールやモネ、文豪トルストイも「時代の証言者」として登場する。

第2集 大量殺戮の完成 塹壕の兵士たちはすさまじい兵器の出現を見た

動く映像で記録された史上初めての戦争、第一次世界大戦。フィルムには、農業用トラクターを改良した1号戦車、最初の空爆、毒ガス兵器など大量殺りく兵器の誕生と、なすすべもなく死んだ兵士の姿が記録されている。また、若き日のマッカーサーやチャーチル、ルーズベルト、チャップリンなど、のちに世界を大きく動かすことになる人物たちも登場。第一次大戦ぼっ発からロシア革命、アメリカ参戦、そして終戦までを追う。

第3集 それはマンハッタンから始まった 噴き出した大衆社会の欲望が時代を動かした

戦争景気にわくアメリカが、国力を高め資本主義社会の基本スタイルを形成した1920年代。娯楽性の高い大衆文化、モータリゼーション、マスメディアの発達とその功罪、モラルの変化、スキャンダリズム、移民社会と排他主義、多様な犯罪、そして拝金主義と好景気の果ての経済恐慌。成熟社会の真っ只中にあるアメリカが経験するこれらの「光と影」をニューヨーク・マンハッタンを舞台に鮮烈に描く。

第4集 ヒトラーの野望 人々は民族の復興を掲げたナチス・ドイツに未来を託した

20世紀、最も巧みに映像を利用して大衆の心をとらえた権力者ヒトラー。国家がプロパガンダ映画を使い世論をリードした1930年代。ナチスが自ら制作した映像を通して、ヒトラーが熱狂的支持を得た背景や戦術を探る。大恐慌からの再建に苦しむアメリカ、資本主義社会への優越性を宣言するソ連、満州国の建設に踏み出した日本の姿を織り込みながら世界を戦争に巻き込むナチス・ドイツの狂気への道を映し出す。

第5集 世界は地獄を見た 無差別爆撃、ホロコースト、そして原爆

第二次世界大戦は、非戦闘員である市民が攻撃された史上最悪の戦争であった。目的のためには手段を選ばず大量殺戮(さつりく)する戦略は、ナチスによるユダヤ人虐殺(ぎゃくさつ)やアメリカの原爆投下という地獄を生み出した。大量破壊兵器による徹底した破壊と殺戮(さつりく)、おびただしい屍(しかばね)、ホロコーストの実態などカメラが記録した衝撃の映像の数々。「人類の反省」の遺産ともいうべき映像である。

第6集 独立の旗の下に 祖国統一に向けて、アジアは苦難の道を歩んだ

アジア諸国は欧米列強に長く支配され、その後日本が支配権を競った。やがて日本が敗れるとアジアの人々は悲願の祖国独立に立ち上がる。インド独立の父・ガンジー、4億人の巨大国家中国を束ねた毛沢東、ヴェトナム独立の指導者ホーチミン等、アジアの指導者たちが持つ苦悩を含め、列強による植民地支配の実情や独立運動の変遷を半世紀に渡って描く。

第7集 勝者の世界分割 東西の冷戦はヤルタ会談から始まった

米大統領ルーズベルト、英首相チャーチル、ソ連首相スターリンによって開かれたヤルタ会談は、ソ連の対日参戦決定と日本軍捕虜のシベリア抑留、朝鮮半島の米ソによる分割統治の悲劇をもたらし、結果的に東西冷戦の始まりとなった。東欧では強引な共産化が推し進められる一方、アメリカではマッカーシーによる赤狩りが猛威を振るい、冷戦はついに朝鮮戦争で火を噴き、世界は二つの陣営に分割された。

第8集 恐怖の中の平和 東西の首脳は最終兵器・核を背負って対峙した

東西冷戦は世界を二分し、国家や民族を引き裂いた。米ソのミサイル開発戦争は、一瞬で世界を壊滅させる核戦争の脅威に人類を追い込み、キューバ危機で緊張は頂点まで達した。フルシチョフが失脚後に録音した「回想録」で米ソの攻防をたどり、米ソのミサイル基地の爆発炎上事故、死の灰による犠牲者を出した米の核実験、韓国駐留米軍を慰問するマリリン・モンローの映像などを交え、冷戦の時代を映像で振り返る。

第9集 ベトナムの衝撃 アメリカ社会が揺らぎ始めた

ベトナム戦争は、テレビがお茶の間に本格的に伝えた初めての戦争である。1960年代ケネディ大統領暗殺後、アメリカはベトナムに深入りする一方で、国民は繁栄の裏に巣くう貧困や権力者の欺瞞(ぎまん)に疑いの眼を向ける。ヒッピーなどのカウンターカルチャーが生まれた時代だ。ベトナム戦争で価値観が大きく揺らぎ始めたアメリカ社会の変貌とベトナム介入から撤退までの「アメリカ支配の終焉(しゅうえん)」を描く。

第10集 民族の悲劇果てしなく 絶え間ない戦火、さまよう民の慟哭があった

冷戦終結、ソ連が崩壊した後、世界に再燃した民族紛争や内戦は、再び膨大な数の難民を生み出している。この難民問題は、植民地支配に対する民族運動の勃興(ぼっこう)、2度の世界大戦、社会主義国家の誕生と衰退などに端を発しており、20世紀始まって以来の最大の課題となっている。第10集では、今世紀初頭の映像を織り込み、国家に翻弄(ほんろう)される人々の絶え間ない民族対立の悲劇を伝える。

第11集 JAPAN 世界が見た明治・大正・昭和

20世紀、日本が国際社会の一員としての地位を確立した。日露戦争での勝利をきっかけに檜舞台に立ち、その後の韓国併合、シベリア出兵、満州国建国で孤立する。さらに太平洋戦争、敗戦、戦後復興へと至る日本の歩みは、世界にいかに伝えられたのだろうか。外国人のカメラマンが記録した明治末期から昭和20年代末までの日本の映像と外国人が記した記録を軸に世界が見つめた「JAPAN」を描く。

*収録時間812分/1920×1080i Full HD/ステレオ・リニアPCM/一層11 枚組/モノクロ(一部カラー)/日本語字幕付

杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。