いつモノコト

雪でも走れる自転車の「スパイクタイヤ」を買ってみた

スパイクタイヤを装着したミヤタのe-bike「リッジランナー」

自転車に「スパイクタイヤ」を買ってみました。筆者はそもそも自転車用にスパイクタイヤがあるとは考えたこともなかったのですが、以前、タイヤが太いセミファットタイプのe-bikeを自転車専門店で購入する際、「さすがに雪道はこのタイヤでも無理ですよね?」という話をしたところ、「スパイクタイヤありますよ。普通に走れます」と教えてもらったのが切っ掛けで知り、購入しました。

聞けば、その店員さんは雪の日に出勤する際にはロードバイクにスパイクタイヤを使っているそうです。スパイクなのでアイスバーンもへっちゃらとのこと。ちなみにスパイクタイヤはアスファルトを傷つけるなどの理由から自動車では法律で使用が禁止されていますが、自転車では禁止されていません。

筆者は埼玉県南部在住ですが、時々雪は降ります。先日も地味に積もっていました。そうした時は普通の自転車ならそもそも自転車に乗ろうなどとは思いませんが、スパイクタイヤを使うことで普通に乗れるのならアリかなと思い、購入しました。

購入価格はタイヤとホイールがセットで10万円ほどでした。冷静に考えると割と高性能なママチャリの電動アシスト自転車が買えてしまう値段です。

タイヤは45NRTHの「WRATH CHILD 27.5 x 3″」、ホイールはDT SWISSの「M1900 Spline 27.5″」

装着は簡単

スパイクタイヤは交換用のホイールに装着した状態で購入しているので、必要な時にタイヤを交換するだけです。筆者のe-bikeはスルーアクスルタイプですので、工具不要で簡単にタイヤを外して交換ができます。交換自体に5分もかかりません。

ちなみに筆者のタイヤは、ノーマルタイヤもスパイクタイヤもチューブレス仕様にしてあります。通常の自転車のようなチューブがないのでパンクしづらく、クギ穴程度ならタイヤ内に入れてあるシーラント(パンク修理材)が塞いでくれるので便利です。

実はe-bike購入当初、よく河原の土手などで草刈後の「草の茎」がささってパンクしまくり、苦い思いをしました。特に草刈後の乾いた草の茎は意外と硬く、タイヤに刺さって中のチューブを傷つけ、簡単にパンクしてしまいます。さすがに毎週のように修理するのにウンザリし、チューブレス仕様にしてもらいました。そういうところを走らなければいいのですが、それだとマウンテンバイクにした意味がありません。

そして、チューブレス仕様にしてからは一度もパンクしていません、といいたいところですが、自転車屋でメンテナンスの際、クギのようなものがタイヤの中に入っていたそうです。気づかないうちに刺さって、クギは中に入り、いつの間にか穴が塞がっていたようです。ですので、パンクして走れなくなった、という体験はしていません。なかなか優秀です。

筆者の自転車は元々「チューブレスレディ」と呼ばれるホイールでしたので、すんなりチューブレス化できました。これが非対応だとホイールまで購入しなければなりません。雪道でパンクするのも悲惨なのでスパイクタイヤも同じ仕様のホイールを購入し、最初からチューブレス化してもらいました。

大雪でもグイグイ走る

せっかくのスパイクタイヤなので、昨年末、大雪警報が出ているにもかかわらず、長野方面までドライブがてら自転車を搭載して遊びにいきました。一応出発前に宿泊先に状況は確認したのですが「いつものことなので平気ですよ。早朝から除雪車走ってますから」と頼もしいお返事。実際、現地に着くまでなんの問題もありませんでした。もちろん、クルマはスタッドレスを履いた四駆で、万が一に備え非常食と-18度対応の寝袋なども常備しています。

コテージの敷地内の様子

現地は100%雪なので自転車には予めスパイクタイヤを装着してクルマに搭載しました。現地では期待通りの大雪で、除雪した後でもけっこう積もっていました。筆者のクルマも一晩で雪に埋まってしまうほどです。

犬のヒゲも凍る寒さ

e-bikeのタイヤも当然、かなり雪に埋まってしまう状況ですが、いざ出発すると何の問題も無く雪を押しつぶしながら進みます。コテージから車道までは上り坂だったのですが、さすがe-bikeでもあり、さすがのスパイクタイヤです。10cm程度の雪ならe-bikeのモーターが強力に雪を押しのけ、スパイクがグリップしてぐんぐん走ります。そもそもタイヤ形状がオフロード用のゴツゴツとしたもので、幅も2.8インチのセミファットで太く、スパイクと相乗効果でグリップする印象です。平地なら普段のドライ路面と変わらない感覚で走れます。コテージの敷地内で急ブレーキも試しましたが、しっかり止まります。ただ、コテージの周辺は新雪なのでスパイクが無くてもセミファットタイヤならある程度走れそうではありました。

このあたりは頻繁に除雪しているのであまり雪は深くありませんでしたが、少し進むと10cm程度は積もっていました

車道に出ると、除雪車も頻繁に行き来しているのでそこまで雪はないのですが、気温は-7度程度なので、融雪剤がまかれていない路面は凍っているところもチラホラ。そんな道でも「バリバリ」と頼もしく走ってくれます。凍った路面はクルマのスタッドレスでは滑りやすく天敵ですが、スパイクタイヤではなんなく走れてしまいます。このあたりがスパイクの本領発揮というところです。

クルマのスタッドレスでは下り坂では特に滑りやすく慎重な運転が必要ですが、スパイクタイヤなら平気です、と言いたいところですが、さすがに怖いのでスピードは出しません。スピードを出さなければ下り坂の急カーブでも不安はありませんでした。正直、スタッドレスのクルマより安心感があります。

平坦な路面なら怖いシーンはないのですが、時々不安なシーンもあります。溶けかかった雪が層をなしているところなどに乗り上げるとズルっと滑る瞬間があります。クルマが作った轍なども危険です。大抵は滑ったあとすぐにグリップするのでそれほど危ない状況にはなりませんでしたが、過信は禁物。路面状況には気を配りながら走ったほうがよさそうです。

ちなみに、万が一自転車が滑った時に備え、スパイク付きの靴も履いておくことをオススメします。足を着いても滑ってしまっては意味がありませんので。

うるさいのが弱点

雪道では良いことづくめのスパイクタイヤですが、欠点もあります。最大の欠点は「うるさい」ことです。雪道を走っている間はそうでもないのですが、雪のないアスファルトの上を走ると、スパイクが路面に接触する音がすさまじく、「バリバリバリバリ」とものすごい騒音を上げながら走ることになります。道行く人がみな振り返るレベルです。幸い、自動車のスタッドレスと比べて着脱が楽なので、雪が降っていない日は気軽に外せるからよいですが、雪道とアスファルトが交互にあるような状況では気が引けます。ただ、街中を走らない限りは、雪が降っている状況であまり人には会いませんが……。

また、スパイク自体が凶器です。自転車屋の店員さんからは「絶対人にぶつけないでくださいね」といわれました。スパイクタイヤに限らずそもそも人にぶつけたくはありませんが、回転するスパイクタイヤが人に与える傷がどんなものか想像したくもありません。普段よりもさらに慎重に走る必要があります。

雪の日も自転車に乗れる

ちなみに自転車にも「スタッドレスタイヤ」があるのですが、スパイクタイヤはスタッドレスタイヤと違って、「ゴムの劣化による性能低下」があまりありません。スタッドレスタイヤは年数が経ってゴムが硬くなると、タイヤの溝が残っていてもグリップ性能が落ちます。スパイクタイヤはタイヤの表面が削れてもスパイクが有る限りグリップ性能はほぼ維持されるので、寿命もスタッドレスタイヤより長いのもメリットです。

筆者の地元ではそれほど雪は降りませんが、降るときは10cm程度降ることはあります。これまでそうした時には自転車で出かけようなどとは思いませんでしたが、スパイクタイヤにより選択肢が増えました。自転車用のスパイクタイヤは、筆者のようなマウンテンバイク用だけでなく、幅広いラインナップがあります。通勤でタイヤ交換が可能なスポーツタイプの自転車を使っていて、雪が降る日は自転車を諦めているという人は検討してみてはいかがでしょうか。しかし、くれぐれも過信は禁物です。

清宮信志