いつモノコト
フライパンの温度が知りたい。触れずに測れる放射温度計
2021年3月20日 10:00
自身の引っ越しや外出自粛、世間の在宅リモートワークの常態化といったことが重なって、一人暮らしの我が家でも徐々に自炊を始めています。フライパンで料理をする機会も増えてきましたが、料理の経験に乏しいせいか、慎重にやったつもりでもフライパンを焦げ付かせることがあり、腑に落ちない思いをすることがままあります。
そこで、手っ取り早くフライパンの温度が分かる方法として、放射温度計を買ってみました。エー・アンド・デイ(A&D)のレーザーマーカー付き赤外線放射温度計「AD-5619」です。測定範囲は-38℃~+365℃で、ワンボタンで使いやすいというモデルです。Amazon.co.jpで5,517円でした。
このメーカーは信頼できる国内メーカーですが、製品は基本的に業務用のため、メーカーのWebサイトで公式な情報を調べてもスペック以外は簡素な説明しか出てこず、自分が考えている用途に合っているのか、いまいち分かりません。なので、性能が近いモデルとの差は何なのかじっくりと調べた上で、機能がシンプルで、なおかつキッチンに置いてもギリギリ“アリ”かなと思えそうな、イエローな外観のこのモデルを選びました。
届いてみると、商品のブリスターパッケージの台紙には「機械・設備の点検に」「食品の温度管理に」「瞬間測定! 安全!」などといった店頭向けの宣伝文句が並んでおり、事前にこういう公式筋の“ウリ文句”が知りたかったんですけど……とか思いつつ、どうやら私の目的に合っているらしいと確認できてホッとしました。台紙によれば、設備、食品、調理、水・土と、幅広く利用できます。
この製品に限らず、専門性の強い製品は目的をもって設計され仕様が決められており、目的から逸れた使い方をしても良い結果は得られません。先に触れておきますが、この製品は人の「体温」は測れません(皮膚の表面温度は医療に使う「体温」とは異なります)ので、以下でもそういう使い方はしていません。
私の目的はシンプルで、冒頭にもあるように加熱しているフライパンの温度が何度なのか知りたいというもの。パッケージの台紙にも一例として「調理鉄板の温度管理」と紹介されており、仕様の面でもひとまずこの使い方は問題なさそうです。
使ってみる
ガスコンロに火をつけ、鉄のフライパンをセットして表面の温度を測ると、みるみる温度が上がっていくのが分かります。コンロの火が直接当たる外周や縁は先に温度が上がり、中心は遅れて温度が上がっていきます。
キッチンのコンロには、フライパンや鍋の底に接地する温度センサーが装備されており、加熱しすぎを防ぐようになっています。具体的には、センサーで検出する温度が220℃(高温炒めモードでは290℃)を超えると「ピピッ」と警告音が鳴って、自動的に弱火になります。
最近になって調べたところによれば、鉄のフライパンの調理、予熱はだいたいの場合で160~180℃が最適温度とされています。つまりコンロのセンサーが働くぐらいまで加熱するのは、特殊な場合を除いて、やりすぎということになります。
さらにコンロのセンサーはフライパンの中心を測っているので、強火で加熱していた場合、先に加熱される外周は、コンロのセンサーが警告音を鳴らした時点で250度を超えるようなことになります。この250℃というのは油から白い煙が出始める温度です。
今までは、このピピっというコンロの警告音が鳴ってからちょっと冷ますなどしていたのですが、それでも加熱しすぎだった模様です。鉄のフライパンの予熱は、通説として、手をかざしてみて熱すぎず~とか、ひいた油が波打つ頃~とかいうのが最適な調理温度を推し量る目安といわれていますが、経験値が少ない私には、いまいち最適温度にするコツがつかめていません。
しかし赤外線放射温度計があれば、数秒で正確な答えが手に入ります。
予熱なのに加熱しすぎてしまっても、落ち着いて火を止めるか弱火にして、温度を測ればいいだけです。加えて、フライパンの中心と外周の温度の違いも分かるので、加熱中で温度にムラがある状態なのか、蓄熱が進んでムラがなくなっているのかも分かります。これは特に、フライパンに最初に材料を入れるタイミングが客観的に分かって、かなり重宝します。
仮に調理の過程で焦げ付かせてしまっても、原因をひとつ排除できるという点では有用です。つまりフライパンの加熱しすぎが問題ではなく、油の量、具材の向きや相性、経過時間といった、そのほかのことを先に疑えばいいわけです。
具材を入れれば温度は下がりますが、考えているような温度になっているのか、調理中に逐一温度をチェックすることも可能です。ただ、「具材を入れた後はフライパンを○○℃に保ちながら炒めましょう」などと書いているレシピはほとんどみかけないので、結局は「〇〇℃で炒めたらうまくいった」とかの、最適な温度を自分で経験していく必要がありますが……。
フライパン以外にも、熱くなったオーブンレンジの庫内の床や壁が何度になっているのかも分かります。例えば、スーパーで買ってきた惣菜のから揚げをオーブンで10分ぐらいかけて温めた直した後、冷凍しておいたご飯や買ってきたお弁当を電子レンジで温めたいというケースがあります。オーブンを使った後の庫内の床や壁は200℃を超える高温で、そのまま容器を置くと接地面が溶けたり全体がふにゃふにゃに変形したりするので注意が必要です。放射温度計を使えば、もう冷めたかどうか、手で触れずに床や壁の温度を調べられるので、安全で便利です。
放射温度計は、ピカピカの金属など、そもそも計測しにくい(誤差が大きくなる)対象があるのですが、水の表面温度はこれに当てはまらず、誤差の少ない計測が可能です。レーザーマーカーが水を貫通して鍋の底や内側などに当たるため、ちゃんと測れているイメージが湧きにくいですが、沸騰した熱湯も、水温計とほぼ同じ温度を表示できました。一般的な水温計は差し込んでから結果が出るまで少し時間がかかるので、たった2~3秒でお湯の温度が分かるのは非常に手軽です。精度が±2℃などとなっているので厳密な計測はできませんが、コーヒーやお茶の抽出で、沸騰させてから少し冷ますといった場合にも便利そうです。
また、肉や野菜といった食材全般も、表面温度ですが、少ない誤差で測れるようです。
少し気をつけたいのは、防水性能は備えていない点です。派手に濡らしてしまわないように気をつける必要があります。
放射温度計は概して調理全般で、なんとなく勘に頼る温度の部分をしっかりと可視化でき、便利に使えるアイテムといえそうです。