石野純也のモバイル通信SE
第60回
30GBが新スタンダード 「ahamoショック第2波」の影響
2024年10月1日 08:20
ドコモは、10月1日にオンライン専用料金プランahamoのデータ容量を、20GBから30GBに拡大した。料金は据え置きで、1回5分の音声通話定額込みで2,970円。新規契約者だけでなく、既存のユーザーにもこの容量アップは自動的に適用される。
また、大盛りオプションを契約している場合のデータ容量も、100GBから110GBに拡大する。さらに、ahamoは国際ローミングが無料だが、この際のデータ容量も30GBに増加。改定により、料金プラン自体の魅力が増した格好だ。
「20GBでは足りない」という現状
背景には、ユーザーのデータ使用量がここ数年で急増していることがある。ドコモの代表取締役社長、前田義晃氏によると、前年度は約2割程度、データ容量が増加しており、今年度はその傾向に拍車がかかっているという。「今年度は、8月時点ですでに2割弱のところまできている」といい、データ容量が20GBでは足りないユーザーが顕在化していた。
「ahamoのユーザーの声を調査したところ、経年的な利用量の増加に対してデータ容量が不足していた」という。
結果として、ドコモの他の料金プランに比べ、「特にahamoの解約率が高かった」という課題があった。データ容量が足りず、快適に使えないのであれば、他社に移ってしまおうと考えるユーザーが多かったというわけだ。オンライン専用プランのため、より手軽にMNPで他社に移れることも影響している可能性がありそうだ。
ahamoのデータ容量拡大は、その引き留め策として実施した形だ。実際、30GBへの増量でお得感は高まっており、他社のオンライン専用ブランドと比べても魅力は増している。新規ユーザーに関しては、「中小容量のahamoやirumoでの獲得が順調に進んでいる」ため、ahamoからの離脱の“止血”ができれば、純増数をさらに伸ばせるというわけだ。
20GBを「スタンダード」にしたahamoの衝撃 3年半の変化
2021年に登場したahamoは、その料金の安さからユーザーはもちろん、モバイル業界全体に衝撃を与えた。
大手キャリア他社は対抗を余儀なくされ、いずれも20GBプランを導入。これらのキャリアから回線を借りるMVNOも、料金値下げや中容量プランの導入を余儀なくされた。特に料金の安さを売りにしていたMVNOに移るユーザーはその数を大きく減らすなど、影響は多方面に波及した。中容量のスタンダードが20GBになったのも、ahamoの功績と言っていいだろう。
そんなahamoだが、登場以来約3年半に渡ってデータ容量は拡大してこなかった。その間、5Gのエリアが拡大したり、スマホでの動画視聴などが一般化したりと、通信環境やユーザーの行動が大きく変わっている。
結果として、前田氏が挙げたように年間2割を超えるペースでデータ使用量が増加することになる。仮に当初のデータ使用量が10GB程度に収まっていたとしても、翌年('22年)には12GB、その翌年('23年)には14.4GB、さらにその翌年('24年)には17GBに達する。同程度のペースを維持していたとしても、'25年には20.7GBになり、ahamoのデータ容量を超えてしまう。
一方でデータ容量を増加させる「大盛りオプション」は、80GBを追加することもあり、月額料金は1,980円と高い。単身で契約してもこの料金が適用されるのがahamoの魅力だが、料金面で、割引適用時のeximoと大きな差がなくなってしまうのも事実だ。素のahamoと大盛りオプションの間に、大きなギャップが空いていたと言えるだろう。10月1日からのデータ容量増加は、そのすき間を埋めるための施策だ。
競合に与える影響「ahamoショック第2波」
前田氏が「攻めの姿勢をしっかり作っていく」と語っていたように、料金そのままでデータ容量を一気に10GB引き上げた戦術は他社に対してもアグレッシブだ。
ahamoでデータ容量が足りないユーザーをターゲットにしていたキャリアやMVNOは、その影響をもろに受けることになる。
7月に料金を改定したソフトバンクのLINEMOは、そんな1社だ。同社は20GBの中容量プランである「スマホプラン」を改定し、「LINEMOベストプランV」を導入していた。料金は20GBまでが2,970円、それを超えると30GBまで3,960円になる。20GBを超えたぶんもカバーできるというのが、同料金プランの売りの1つだった。
ところが、ahamoが2,970円で30GBになったことで、一気に競争力が失われてしまった。LINEMOは、ahamo対抗策として、20GBを超過しても料金が2,970円になるキャンペーンを10月1日に開始したが、こちらは新規契約や料金プラン変更したユーザーが対象でかつ6カ月間限定。経年でデータ容量が増える状況には、対応できなていない。KDDIのpovo2.0も、20GBトッピングはそのままだ。
MVNOはさらに深刻だ。9月に料金プランを改定したHISモバイルは、20GBをahamoより安い2,090円に設定。30GBをahamoと同額の2,970円にすることで、9月までのahamoと同じデータ容量なら安く、ahamoと同額ならデータ容量が多いという料金体系を打ち出していた。この料金プランを発表した数日後に、ahamoがデータ容量を改定したことで料金が横並びになってしまった。金額やデータ容量が同じなら、あえてMVNOを選ぶユーザーは少ない。料金の再改定が必要というわけだ。
HISモバイルを支援する日本通信は、いち早くahamoのデータ容量増量に反応しており、9月30日に2,178円の「合理的30GBプラン」を50GBに改定し、名称も「合理的50GBプラン」に改めた。ahamoに触発され、老舗MVNOが動いたことで、他社も追随する可能性はありそうだ。MVNO 2位のシェアを持つオプテージのmineoは、「マイピタ」の20GBプランを3カ月間、30GBに増量するキャンペーンを発表。こちらも、新規契約や料金プラン変更が対象だが、タイミング的にはahamo対抗と見ていいだろう。
ahamoの30GB化が発表されたのは、9月12日のこと。発表からサービスインまでに4カ月程度の時間があった'21年の導入当時と比べると、競合他社が準備に要する時間は少ない。そのため、現時点では十分な対抗策を打ち出せているMVNOは一部に限定される。
とは言え、中容量プランの魅力がそがれているMVNOは多く、今後、雪崩を打つように“ahamoショック第2波”への対抗策が発表される可能性は高い。20GBプランの先鞭をつけたahamoが動いたことで、料金プラン改定の機運が業界全体で高まっていると言えそうだ。