石野純也のモバイル通信SE
第57回
Pixel 9の誕生 Pro推しのグーグル、無印推しのキャリア
2024年8月21日 08:20
グーグルは、「Pixel 9」「Pixel 9 XL」を8月22日に発売する。また、9月4日は「Pixel 9 Pro」と「Pixel 9 Pro Fold」を時間差で投入。元々は2機種展開だったPixelを、一気に4機種へと拡大した。Proの小型版にあたるPixel 9 Proを新規開発したことに加え、フォルダブルモデルをナンバリングモデルの最上位に位置づけたことでラインナップが拡大した格好だ。
小さくなったPro
中でもグーグルが日本市場での販売に期待を寄せているとみられるのが、新規導入されるPixel 9 Proだ。同モデルは、Pixel 9と同サイズながら、Proモデルの機能を備えている。具体的には、光学5倍相当の望遠カメラを搭載しており、メモリ(RAM)も16GBと大容量。ディスプレイの最低リフレッシュレートが1Hzまで落とせるのも、Proモデルだけとなる。
元々、ProモデルはPixelの中で“大画面版”の役割も担っていた一方で、ノーマルモデルのPixelは小型化を進めていた。この両方の特徴を備えたのがPixel 9 Proというわけだ。
一般的に、海外では大画面スマホはスペックも高くなる傾向があるが、日本では逆に大きすぎる画面サイズはネガティブな要素になりうる。
公共交通機関が発達しており、移動中のすき間時間で操作しやすいことが求められる、フリック入力が片手持ちに最適化されている、そもそも日本人の手が小さいなどなど、さまざまな理由が語られている。
いずれも推測の域は出ないものの、この中のどれかというより、複合的な要因で手のひらへのなじみのよさが重視されるようになったのだろう。いずれにせよ、コンパクトハイエンドのニーズが高い国や地域の1つであることは確かなようだ。
グーグルにもこのような要望は寄せられており、Pixel 9 Proはそれをくみ取って開発されたという。Pixelシリーズは、他の国や地域以上に日本で急成長を遂げていることから、ユーザーの声が通りやすかった事情もうかがえる。確かにPixel 9 ProはこれまでのProモデルと比べると小型で、ノーマルモデルと同様の持ちやすさだった(サイズやデザインが同じなので当然ではあるが……)。
Pro推しのグーグル、無印推しのキャリア
とは言え、コンパクトで高機能だけが売れ筋の要素ではないことも事実。特に端末割引への規制が厳しくなって以降、価格と機能のバランスが重視されるようになっている。約半年遅れで上位モデルと同じチップセットを搭載しながら、価格を大幅に引き下げた廉価モデルのPixel aシリーズが大ヒットしているのはそのためだ。Pixel 9 Proは、その要素は満たしていない。
本体価格は販路別で最安のグーグル直販でも、159,900円から。これは、Pixel 9シリーズだとPixel 9 Pro XLに相当する画面サイズの「Pixel 8 Pro」と同じだ。価格据え置きと捉えることもできる反面、Pixel 8 ProとPixel 9 Pro XLの比較だと値上げになっている。昨年より円安ドル高が進行しているため、致し方がない側面はあるものの、これまでのProモデルより安価なProモデルを期待していた人にとっては、肩透かしになったはずだ。
Pixelシリーズを取り扱うキャリアも、どちらかと言うともっとも価格の安いノーマルモデルのPixel 9を本命視している節がある。その証拠に、ソフトバンクはPixel 9のみ、12カ月間の支払いが毎月わずか3円で済む販売方法を導入している。この価格になるのは、端末の下取りで残債を免除する「新トクするサポート(プレミアム)」を利用した場合13カ月目に下取りを申し込むと、「早トクオプション」で別途19,800円がかかるが、これを含めても2万円を下回る。
割賦の金額を12回目までとそれ以降を不均等にして、下取りで高い方の36回分を免除することでこの実質価格を実現している。さらに、キャンペーンとして抽選でPayPayポイントを5,000~2万ポイント還元する。1等が当たった場合に限定されるが、ここまで加味すると、1年での実質価格は最低で0円を下回る。新トクするサポート(プレミアム)はPixel 9 Proにも導入されているものの、早トクオプション利用料込みで実質価格は71,280円になり、Pixel 9ほどのお得感はない。
ソフトバンクは、Pixel 8も発売直後から近い手法で実質価格を抑えていたが、他キャリアもこの動きに対抗。本体価格の値下げなどを組み合わせることで値下げしてきた。結果として、廉価モデルの「Pixel 8a」が登場したタイミングでは、(上位機の)Pixel 8がほぼ同額かより安いということすらあった。
この価格差を考えると、キャリアの販路では引き続きノーマルモデルのPixel 9がシリーズ全体の売れ行きをけん引する可能性は高い。現状では、Pixelが売りとするAIを活用した新機能も、ノーマルモデルとProシリーズでの差分はほぼない。Pixel 9は引き続き動画ブーストに非対応などの違いはあるが、新機能の「一緒に写る」や編集マジックの「オートフレーム」などはPixel 9でも利用可能だ。
また、Pixel 9もチップセットにはProシリーズと同じ「Tensor G4」を搭載しており、オンデバイスAIの「Gemini Nano」も利用できる。残念ながら、発売時点では日本ではスクリーンショットを検索する「Pixel Screenshots」や電話の要約「Call Notes」などは非対応なものの、米国ではシリーズ全体の新機能に位置づけられているため、日本語への対応が完了すれば、Pixel 9での利用も可能になるはずだ。
もっとも、Pixel 9はメモリの容量が12GBと、Pixel 9 Proシリーズの16GBと比べるとやや少ない。将来的に、よりメモリを必要とするAIの新機能が登場した場合、ノーマルモデルのみ非対応になる機能が出てくる可能性もある。現にPixel 8も、当初はGemini Nanoに対応しておらず、レコーダーの要約機能も使えなかった(が、この機能も現時点で日本語には対応していない)。購入時には、こうしたProだけの機能が今後出てくる可能性も念頭に置いておきたい。