石野純也のモバイル通信SE

第56回

シャオミが「無印良品」化? 普通のサングラスやスーツケースを売る理由

8月5日に発売したサングラスとブルーライトカットグラス

ライカとカメラ機能を共同開発した「Xiaomi 14 Ultra」や、ミッドレンジモデルのコスパの高さで話題を集めるシャオミが、7月から8月にかけ、新製品を続々と発売してラインナップを広げている。

ただし、スマホではない。それどころか、タブレットやPC、スマートウォッチですらなく、通電しない製品も取り扱っている。

シャオミが発売する“普通”な製品 サングラスやスーツケース

直近の8月5日に発表されたのが、サングラスとスーツケースだ。サングラスはUVカット対応のティアドロップ型やスポーツ型、さらにはメガネの上に装着できるオーバーグラスまで備える。ブルーライトカットメガネも用意。公式のオンラインストアでは、サングラスが4,580円、ブルーライトカットグラスは2,280円で販売されている。

その価格設定は、ユニクロや無印良品よりは高いが、ZoffやJINSなどのメガネ量販店よりやや安い。

ティアドロップ型をかけた筆者。スーツを着たら、大物地面師に見えなくもない

スマホメーカーでサングラスというと、スピーカーを組み込んで音楽を聞くことが可能なファーウェイの「HUAWEI Eyewear」シリーズを思い出す向きもありそうだが、シャオミの新製品は純粋なメガネ。ARグラスのように映像を表示できないのはもちろん、音楽も聞けない。日差しは防げるが、IT製品ですらないとういうわけだ。

スポーツタイプも着用してみた。サングラスは、少々クセが強いラインナップが多い印象だ

同様に、8月5日に発売されたスーツケースも、ただのスーツケース。車輪がついて走ったり、ケーブルが挿せてスマホやタブレットを充電できたりといった機能は存在しない。荷物を詰めて、目的地に持っていくための、純然たるスーツケースだ。

カラーはブラックとグレーの2色。サイズは20インチ、24インチ、26インチ、28インチの4つで、価格は12,800円から21,800円になる。

スーツケースも2色、4サイズラインナップする。TSAロックにも対応

スーツケースブランドとして有名なリモワと比べると、価格は1/10程度。サムソナイトと比べても安い。価格帯で競合しそうなのは無印良品だが、それよりもやや低い値段に設定されている。ボディはポリカーボネート。24インチ以上は片面がベルトだけになっている点が少々残念なポイント(欲を言えば20インチのように、両面にカバーをつけたい)だが、安いので、航空会社に預け入れをした際に破損してもショックは少ない。

7月に発売になったのは、大容量ジェルペン。5色入りの5本パックと、赤のみの10本パックの2つが販売されている。前者は480円、後者は580円で、1本あたりの単価は96円と58円。もちろん、このペンは紙に書くための文字通りのペンで、タブレットに書き込むことはできない。単価が非常に安く、インクがギッシリ詰まっていて長持ちするのが特徴だ。

7月にはジェルペンも発売した。赤の10本セットは580円で、単価にすると1本58円と安い

唐突に登場したかのように思われるシャオミの雑貨だが、実は海外では、一般的に取り扱われている。スマホメーカーとして創業したシャオミは、そのバリエーションをタブレットやスマートウォッチに広げ、さらには家電にも拡大。日本でも掃除機や監視カメラなどが販売されている。その延長線上にあるのが、サングラスやスーツケース、ジェルペンというわけだ。

実際、海外ではリアルなショップも構えており、こうした製品がところ狭しと陳列されている。“中国の無印良品”と評されることもあるほどだ。売上高は、スマホが全体の6割前後、次に続くのが3割前後のIoT製品で、通電しない雑貨は単価が低いぶんまだまだ規模は小さいものの、総合的なライフスタイルブランドを志向していることは間違いない。

日本でも徐々に同社のスマホが浸透していく中、海外同様、製品バリエーションを拡大している。

“普通”の商品はリアル店舗展開の布石か

こうしたラインナップ全体を訴求するのに重要なのが、店舗の存在だ。同社は世界各国に「シャオミストア(中国語圏では小米之家)」を展開しており、実店舗の数は1万を超えている。日本には現状、正式な店舗は存在しないが、東京・渋谷にポップアップストアを2回出展しており、方向性を模索している。

23年12月には、渋谷PARCOの目の前にポップアップストアをオープン。当時はまだラインナップが少なく、店内は若干寂しい印象もった

5月に渋谷PARCOに出展したポップアップストアは、Xiaomi 14 Ultraの登場と相まって好評を博しており、元々9月1日までの予定だったが、終了の時期を9月30日に延長している。渋谷PARCOのポップアップストアは、海外の店舗とトーンを統一しており、スマホやタブレットを中心としながら、上記のように新たに発売された雑貨もきちんと並んでいる。

5月に出店した渋谷PARCOのポップアップストア。海外の店舗とイメージを統一している

ブランド力を訴求できる店舗だが、海外メーカーではアップルが有名。2001年に東京・銀座に「Apple Store」をオープンして以降、日本全国に店舗を徐々に広げている。おひざ元の米国ほどではないものの、端末の購入から修理、使い方の学習まで、ユーザーの幅広いニーズにこたえている。サムスン電子も、ショールームを兼ねた「Galaxy Harajuku」を展開。SIMフリースマホの販売も行っている。日本メーカーでは、ソニーが「ソニーストア」で一部Xperiaを販売している。

日本ではスマホ販売の9割近くをキャリアが占めているため、メーカーが単独でショップを出しづらい事情もある。一方で、キャリアショップでは競合他社のモデルと横並びで展示され、世界観を訴求しづらい。いくらiPhoneが売れるといっても、キャリアではMacを取り扱っていない。製品同士の連携機能などをユーザーに理解してもらうための場として、キャリアショップでは物足りないと言えるだろう。

製品連携などのエコシステムを披露するには、やはり自社ショップが欠かせない

シャオミのスマートTVを販売したKDDIのようなケースはあるが、広いバリエーションの製品を訴求するには、やはり自社店舗が有効になる。裏を返せば、スマホでもIoTでもない製品を拡充しているのは、日本でもショップ展開の機運が徐々に高まりつつあることを示唆している。渋谷PARCOのポップアップストアに続く、次の一手にも注目したい。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya