石野純也のモバイル通信SE

第49回

“家族”を拡げた楽天モバイルの狙い 黒字化への秘策と課題

楽天モバイルの契約回線数が650万を突破した。約3カ月で50万回線を上乗せした格好だ

楽天モバイルの契約数が、4月8日に650万を突破した。'23年12月26日に600万契約を達成してから、3カ月強で50万回線を上乗せした格好だ。多少の波はあると思われるが、1カ月あたり16万契約以上、純増している形になる。

今後もこのペースを維持できれば、楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史氏が挙げていた損益分岐点の最低ラインとなる800万契約を、年末に近い時期には達成できる見込みだ。

家族を“拡げた”「最強家族プログラム」

650万契約には、個人向けの「Rakuten最強プラン」だけでなく、法人向けの「楽天モバイル法人プラン」や、固定回線代替サービスの「Rakuten Turbo」が含まれている。

中でもユーザー数の伸びをけん引しているのが、楽天市場出店者などを中心にした法人契約。すでに1万社を超えているという。出展者向けに5回線を無料にするなど、お試し施策も本格化している。

一方で、個人向け回線の獲得にも、本腰を入れ始めた。2月には、楽天モバイル流の家族割とも言える「最強家族プログラム」を開始。家族で2回線以上契約した際に、料金が一律110円割引になる仕組みを導入した。3月には、22歳以下のユーザーが契約すると、毎月110ポイントの還元を受けられる「最強青春プログラム」を始め、若年層の取り込みも強化している。

2月には、最強家族プログラムを導入した
3月には、22歳以下のユーザーを対象にした最強青春プログラムを開始している

その最強家族プログラムは、当初、「名字が一緒」であれば適用される比較的“緩い”仕組みだったが、それがゆえの課題もあった。事実婚や同棲パートナーで別姓のケースがカバーできていなかったほか、同姓の夫婦でも、名字を変えた側が親を最強家族プログラムに組み込むことができなかった。名字の一致だけでは不十分との認識は楽天モバイル側にもあり、当初から仕組みを改める計画があることは明かしていた経緯がある。

導入当初の最強家族プログラムは、同一名字限定という縛りがあった

4月10日に発表されたのが、仕組みの改定だ。楽天モバイルは、同一名字という条件を撤廃。代表者が「my楽天モバイル」上でグループを作成し、その招待リンクを最強家族プログラムを組む相手に送るだけで済むようになった。リンクが送られてきた相手は、そこから承諾するだけと、手続きも簡単だ。仕組みとしては、名字の一致という条件だけが撤廃された格好だ。

他社のように、家族であることを証明する書類などの提出は求められない。楽天モバイル側が挙げている条件は「Rakuten最強プランを契約している」「別のグループを作成していない」「別のグループに参加していない」「グループの人数が定員(20名)に達していない」の4つだけで、以前にも増して適用方法が緩くなっている。

サイトに記載されている最強家族プログラムの適用条件。家族の定義や適用範囲などの注意事項は見当たらない

グループ参加者に名前や電話番号が共有されるシステムになっているため、赤の他人をグループに招待するのは難しいものの、これだと、「小室ファミリー」や「めざましファミリー」のような比喩的な家族にも割引が適用されてしまう。そこまで結びつきが強くない友だちでも、グループに入れることは可能。極端な話、「人類皆兄弟」と言い張ってSNSでリンクを拡散する……といったこともできなくはない仕様だ。

楽天モバイルの広報によると、「ご家族以外で本プログラムの利用が多く見受けられた場合には、適切な対応を検討していく」というが、現時点で、「家族の定義は公開していない」といい、あくまでユーザー本人の申告に基づいているという。他社のように1,000円以上の割引ではなく、110円と額も小さいため、細かい点には目くじらを立てていないのかもしれない。少なくとも、利用条件が緩和されたことで、割引利用者は確実に増えるはずだ。

課題のARPU向上に秘策はあるか

ただ、楽天モバイルが黒字化を果たすには、契約者数だけでなく、ARPU(1利用者あたりの平均収入)を上げていかなければならない。楽天モバイルが損益分岐点を超えるのに必要としているARPUは、2,500円から3,000円の間。これに対し、'23年末時点でのARPUはオプション料などまで含めて1,986円。目標値に対して、最低でも500円、最大で1,000円程度の開きがある。

楽天モバイルのARPUは、23年末で1,986円。目標には500円以上足りない

割引の範囲拡大は契約者を獲得しやすくなる側面がある一方で、ARPUの観点では、目標がさらに遠ざかってしまう諸刃の剣だ。また、楽天モバイルのRakuten最強プランは、データ通信を20GB超使ったとしても、料金は3,278円で打ち止めになる仕組みだ。仮に契約者の半分が上限に到達したとしても、残りが3GB以下の下限にとどまっていたら、データARPUは2,000円程度で音声通話やオプションを入れても最低目標である2,500円に届かない。

料金を一斉に値上げしてしまえば達成はできるが、1GB以下0円を廃止した際にユーザーが大量流出したことを踏まえるとなかなかそこには踏み出しづらい。三木谷氏は、2月に開催された決算説明会でオプションサービスの強化や、無料通話アプリ「Rakuten Link」への広告掲載を示唆していた。とは言え、ARPUを500円底上げするには、ユーザー全員が500円のオプションを契約する必要がある。そこまで強力なサービスを開発できるのかは未知数だ。

回線数の目標は達成できそうだが、ARPUは不透明。強力なオプションサービスの導入が必要になりそうだ

ありえそうなのが、ドコモ、au、ソフトバンクが導入している決済サービス連動でポイント還元率を上げるようなオプション。ポイントという形で利益は流出してしまうおそれはあるが、ARPUを上げつつ、ユーザーに対してはお得感を演出できる。Rakuten Linkから広告を除外するオプションなども、考えられそうだ。

目標達成には、大胆な策が求められる。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya