石野純也のモバイル通信SE

第48回

サムスン「Galaxy S24」の登場と“キャリア頼み”からの転換

サムスンが4月3日に発表したGalaxy S24シリーズの国内モデル。写真はキャリア版

サムスン電子は、4月11日に「Galaxy S24」「Galaxy S24 Ultra」の2機種を日本で発売する。Galaxy S24シリーズは、グーグルのGeminiをベースに開発した「Galaxy AI」を初めて搭載するモデル。音声通話の翻訳や、ボイスレコーダーの文字起こし、要約、Samsung Notesアプリの文字認識など、スマホの基本となる機能の多くをAIでブラッシュアップしているのが最大の特徴だ。画像編集やスローモーション動画の撮影にも、AIを活用している。

キャリア版とSIMフリー版が同時発売

Galaxy S24、S24 Ultraは、ドコモとauが取り扱う。販売するカラーバリエーションやデータ容量に差分はあるものの、ここまでは'23年に発売された「Galaxy S23」シリーズと同じだ。一方で、Galaxy S24では、サムスン電子自身がメーカーモデル(SIMフリーモデル)を同時に発売する。Samsungオンラインショップがその販路だ。

写真がオープンマーケット版。開発中のためロゴなどのあしらいは変わる可能性があるというが、細かなところではおサイフケータイのロゴが入らない

サムスン電子は、これまで、販売ボリュームの大きいキャリアモデルに特化した戦略を貫いてきたが、'22年に方針を転換。主にAmazonのユーザーをターゲットにした「Galaxy M23 5G」を、メーカーモデルとして発売した。Galaxy M23 5Gはミッドレンジモデルで、おサイフケータイやn79(ドコモが運用する4.5GHz帯の5G)に非対応と、日本向けのローカライズは手薄だったが、コストパフォーマンスは比較的高かった。グローバルモデルに近い端末を投入し、需要の大きさを測っていたというわけだ。

初のオープンマーケットモデルとして発売されたGalaxy M23 5G。ローカライズもほどほどにした価格重視のモデルだった

一方で、Galaxyと言えば、スマホ黎明期から人気のあるハイエンドモデルという印象が強い。実際、サムスン電子にも、Galaxy Sシリーズをはじめとするフラッグシップモデル投入を望む声が届いていたという。こうしたニーズにこたえる形で、同社は'23年7月に最上位モデルの「Galaxy S23 Ultra」のメーカーモデルを発売している。

ただし、「Galaxy S23」シリーズのキャリア版が登場したのは'23年4月のこと。メーカーモデルの発売までに、約3カ月の開きがあった。グローバル版は2月に発表され、同月中に発売されていたが、ここを起点にすると約5カ月遅れになってしまっていた。スマホの新モデルは投入サイクルが1年に1回。次投入までの間隔が短くなりすぎてしまっていた。12月に発売された「Galaxy Z Flip/Fold5」でも、このサイクルが踏襲された。これを一気に縮め、Galaxy S24、S24 Ultraのメーカーモデルはキャリアモデルと同時に発売される。

メーカー版として初めてのフラッグシップモデルとなるGalaxy S23 Ultra。ただし、発売はキャリア版より3カ月遅れだった

しかも、Galaxy S23 Ultraだけだった'23年に対し、'24年は2モデルともにメーカーモデルが存在する。細かく見ていくと、UltraがつかないGalaxy Sシリーズのメーカーモデルを投入するのは初めてのことだ。カラーバリエーションやストレージ容量のバリエーションも増え、ターゲット層も広がっている。突出したスペックを求めるごく一部のユーザーに向けた端末ではなく、より幅広い人が購入できる“普通”のラインナップになったと言えそうだ。

最上位モデルのGalaxy S24 Ultraは、「チタニウム グレー」「チタニウム バイオレット」「チタニウム ブラック」の3色展開。ストレージの基本容量は256GBだが、チタニウム ブラックのみ512GBと1TBを選択できる。これに対し、Galaxy S24は「アンバー イエロー」「コバルト バイオレット」「オニキス ブラック」の3色展開。こちらもストレージは256GBが基本だが、オニキス ブラックのみ512GBを選択することも可能だ。

Galaxy S23 Ultraは1色展開で、写真の1TB版のみだった。一方のGalaxy S24シリーズはカラバリ、ストレージ容量ともに選択肢がきちんと用意されている

これに対し、ドコモ版はGalaxy S24 Ultraのチタニウム ブラックに256GBの選択肢がなく、Galaxy S24のコバルトバイオレットも512GBを選択できない。au版のGalaxy S24 Ultraには、そもそもチタニウムバイオレットがない。Galaxy S24もコバルト バイオレットを採用していない。ドコモ版、au版、サムスン版の中でカラーやストレージ容量のバリエーションがもっとも多いのが、メーカーモデルになっているというわけだ。こうした点からも、サムスン電子がメーカーモデルの販売に本腰を入れるようになったことがうかがえる。

au版Galaxy S24 Ultraの背面。写真はチタニウム グレーで、auはこの色とチタニウ ブラックの2色展開となる

戦略変化にみる“キャリア頼み”の限界

とは言え、販売はあくまでオンライン中心。全国にそれぞれ2,000店舗近くキャリアショップを抱え、さらには家電量販店などでの販売もしているドコモやauに比べると、まだまだメーカー版の影響力は限定的と言えるだろう。キャリアの場合、「いつでもカエドキプログラム」や「スマホトクするプログラム」といった残価設定型のアップグレードプログラムを使って、比較的リーズナブルに機種変更していく選択肢もある。

対するサムスン電子は、ペイディの分割払いが可能だが、その回数は12回しか選べない。ハイエンドモデルだと、分割回数が少なく、1回あたりの支払いが高額になりがちだ。また、Galaxy Z Fold5やGalaxy Z Flip5はオープンマーケットモデルをドコモショップで修理できるようになったが、保証サービスの「Galaxy Care」はキャリアのそれと比べると見劣りする。端末のバリエーションを増やしただけでは、キャリアモデルの対抗馬にはなりづらい。

ペイディによる分割払いは可能だが、アップグレードプログラム的な買い方はできない

一方で、キャリア頼みにも限界が見えつつある。'23年はスマホの総出荷台数が2,628.6万台(MM総研調べ)と、'07年以降で初めて3,000万台を下回った。割引規制の影響もあり、各社とも販売は以前より抑制的だ。例えば、ドコモ代表取締役社長 井伊基之氏は、'23年11月の決算説明会で「数が多少減ってもきちんと利益が出る水準で売ることを徹底した」と語っている。

特にAndroid陣営のメーカーは、グーグルのPixelが急速に台頭した結果、そのパイを奪われている側面がある。キャリア各社もPixelを軸に実質価格の安さで競争しており、メーカー各社はその割を食っている印象も受ける。このような中、メーカーが自身で販売する端末のラインナップを強化するのは必然の動きと言えそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya