石野純也のモバイル通信SE

第40回

MVNOなのに20GBプランが急増? “家族”を繋ぐイオンモバイル

急増するイオンモバイルの20GBプラン。直近では、20%以上がこのプランを選んでいるという

イオンモバイルの20GBプランが、急増している。

大手キャリアはahamoなどオンライン専用プラン/ブランドで中容量の20GBを打ち出し、データトラフィックも伸びているが、イオンモバイルは小容量が主戦場のMVNO。ユーザーの利用するデータ量が増加するのに伴い、各社とも中容量プランを拡充しているが、どちらかと言えばこれから強化していく分野。現時点での構成比で20%以上が20GBプランを選んでいるのは、異例と言っていいだろう。

大容量化が進むMVNO

その理由はどこにあるのか。1つ目は、価格の安さだという。イオンリテールのイオンモバイル商品マネージャー 井原龍二氏によると、22年4月に中容量プランの価格を改定。「当初は6,500円ほどだった20GBプランが、今は2,000円を切って1/3まで下がった」のが1つの要因だ。ahamoやpovo2.0、LINEMOといったオンライン専用プラン/ブランドは、2,000円台後半の価格設定。それより1,000円近く安い価格が、ユーザーに評価されているという。

イオンモバイルの20GBプランは料金が1,958円。大手キャリアのオンライン専用プラン/ブランドよりも、1,000円近く安い

接続料が高止まりしていたこともあり、MVNOは中容量プランを打ち出しづらい状況だった。これが変わったのが、ahamoなどが登場した'21年。大手キャリアが官製値下げに踏み切ったことを受け、MVNO各社が加盟するテレコムサービス協会MVNO委員会は、総務省に算定の精緻化を求めた要望書を提出。こうした動きを受け、'20年度にはドコモで10Mbpsあたり41万円を超えていた接続料が、'21年度には28万円程度まで低下した。'23年度はこれが15万円台まで下がっている。ここ2~3年で、MVNOにとって、より帯域を借りやすい環境になったと言えるだろう。

実際、ユーザーのトラフィックが増加しているのを受け、MVNO各社も中容量プランを強化している。直近では、11月にソニーネットワークコミュニケーションズのNUROモバイルが、コストパフォーマンスを売りにした「バリュープラス」に15GBの「VLLプラン」を追加。日本通信も、20GBだった「合理的20GBプラン」の容量を料金据え置きのまま、30GBに拡充した。いずれも、オンライン専用プラン/ブランドより料金を一段安くすることで対抗馬になろうとしている。

ユーザーのデータトラフィックが増加するのを受け、MVNO各社も徐々に中容量プランにシフトしている。写真はNUROモバイルのVLLプラン

イオンモバイルは「シェアプラン」で伸ばす

一方で、イオンモバイルの20GBは、やや異なる受け入れられ方をしているようだ。先の井原氏によると、「シェアプランが伸び、最初のころと契約の内容がかなり変わってきている」という。

シェアプランとは、主回線の契約のデータ容量を紐づけた別の回線と共有できる仕組みのこと。イオンモバイルの場合、2枚目以降のSIMカードを月額220円で追加し、シェアを組める。このときの料金は、それぞれ1回線ずつで契約するより安い。

20GBプランで伸びているのは、シェアプランだという。契約数とともに、平均の容量も急増している

例えば、夫婦2人で20GBをシェアし、10GBずつ使ったとしよう。イオンモバイルの10GBプランは、料金が1,848円。2人ぶんだと、単純にこの額が2倍になり、料金は3,696円かかる。これに対し、20GBのシェアプランは料金が2,288円。シェアのための追加料金220円を足しても、料金は2,508円で済んでしまう。1人あたりの料金は、1,254円だ。2人での契約は前提ながら、10GBプランとしては破格の安さと言えるだろう。

同様に、20GBのシェアプランを夫婦2人と子ども2人で使うと、1人あたりのデータ容量は平均で5GBになる。料金は2,288円に追加SIMカード代の880円を足した3,168円。1人あたりの料金は、792円だ。単独で契約すると、5GBプランはMVNOでも1,000円前後はかかる。大手キャリアのサブブランドだと4GBで1,000円前後だが、光回線や電気サービスなどのセットが前提だ。シェアという名称だと少々伝わりづらいかもしれないが、どちらかと言えば、「家族割引」に近い料金体系と言えるだろう。

20GBを4人で使うと、料金は3,168円。1人あたり792円で、5GBプランとしては破格の安さだ

イオン店舗という強み 確実な家族ニーズ

同様のシェアプランは、かつてドコモが「シェアパック」という名称で展開していた(2014年~)。データ容量の大きなプランを主回線が契約し、それを子回線で分け合う仕組みは、イオンモバイルのそれに近い。こうした契約はオンラインで個々人が組もうとすると複雑になってしまうため、オンライン主体のMVNOの場合、やや手を出しづらい。これに対し、イオンモバイルは全国のイオン店舗をフル活用しており、リアルな契約の場が多い。

イオンモバイルでは、アプリによる端末のトラブルや経年劣化に対応するため、10月に「スマホメンテナンス」というサービスを導入していた。ここに、最適な料金を提案するための仕組みを組み込んでいく。店舗にフラッと訪れたユーザーに対し、こうした提案ができるのは、イオンという場を使えるMVNOならではだ。家族全体で安さを追求すればシェアプランが最適になるのは必然で、契約比率の高さにも納得できる。

イオンモバイルでは、スマホメンテナスのサービスに料金提案を組み込んでいくという(写真提供:イオンリテール)

一方で、井原氏によると、シェアプランには「例えば5人で20GBを使っているとき、お子さんがいっぱい使ってしまうと、ほかの人の容量が減ってしまう」問題があった。ドコモがシェアパックを主力にしていた際にも近い事例があり、'17年にはそれぞれの回線にデータ容量の上限を設けられるオプションが設けられている。イオンモバイルでも、'24年2月に同様の回線ごとに容量を設定できる機能を導入する。

回線ごとに上限を設定する機能を、2月に実装する

ドコモがシェアパックを展開していたころは、家族契約が一般的だったが、「ギガホ」「ギガライト」の導入で個々人を重視した料金プランに切り替わっている。ahamoのようなオンライン専用プラン/ブランドや、irumoのような低容量を志向した的料金プランでは、家族契約での割引も受けられない。徐々に“家族を解体”してきたドコモだが、イオンモバイルのシェアプランが急増しているデータからは、依然としてそのニーズが残っていることを裏づけるような気がする。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya