石野純也のモバイル通信SE

第36回

Pixel 8の“小ささ”は日本市場を意識したのか

グーグルは、Pixel 8(左)とその上位モデルであるPixel 8 Pro(右)を発表した

グーグルは、Pixelシリーズの最新モデル「Pixel 8」「Pixel 8 Pro」を発表した。チップセットに自社で設計した「Tensor G3」を採用し、その処理能力とAIを生かした「音声消しゴムマジック」や「編集マジック」を新機能として搭載。音声入力やレコーダーアプリで、言語の切り替わりを自動で検知できるようになるのも、Tensor G3のお陰だ。カメラもセンサーを刷新しており、ハードウェアとソフトウェアの両面で磨きをかけた端末に仕上がっている。

Pixel 8最大の特徴「小さい」と日本のニーズ

それ以上にインパクトが大きかったのは、そのサイズ感や軽さだ。特にPixel 8は、前モデルの「Pixel 7」と比べて、一回り小さなボディに仕上がっている。ディスプレイサイズは6.2型。6.3型だったPixel 7より0.1インチほどコンパクトになっているが、そのボディの小ささから与える印象は数値以上に大きかった。これは、ディスプレイ周りのベゼルが細くなっているためだ。

また、2機種を見比べてみると、ディスプレイの四隅の丸みが、より強調されていることが分かる。手に取ったときには、その差が分かりやすい。コンパクトになり、より丸みを帯びているため、持ち心地がいい。小型モデルと呼べるほどのサイズ感ではないが、Pixel 8 Proの対比では、より小型さが際立ったと言える。そのPixel 8 Proも、重量は前モデルの「Pixel 7 Pro」より軽量化している。

左は筆者私物のPixel 7。2機種を比べてみると、サイズ感が大きく変わっていることが分かる。ディスプレイの四隅の丸みも強くなった

Pixelは、デザインを刷新し、初めて背面にカメラバーを採用した「Pixel 6」で一気にディスプレイサイズを0.4インチ大型化した。一方で、Pixel 7ではディスプレイを0.1インチ、幅を1.6mm削減するなど、コンパクト化を進めていた。Pixel 8では、それをさらに推し進めている。では、なぜグーグルは無印Pixelをよりコンパクトな端末に仕立て上げたのか。

グーグルでPixel製品管理担当のシニアディレクターを務めるピーター・プルナスキー氏によると、「日本は本当に厳しい市場でとても要求が高い。そういったところからフィードバックをいただいた」という。バッテリー容量を上げつつ、ベゼルを細くすることで「デザインの中で効率を上げ、ホームファクターをよりコンパクトにした」。逆に、Pixel 8 Proのサイズ感を大きく変えていないのは、Proモデルのユーザーが「より大きな画面を好むから」だという。

グーグルのプルナスキー氏は、日本市場のフィードバックなどをPixel 8に反映させたと語る

確かに、日本では手にフィットする小型端末を求めるニーズが根強い。例えば、iPhoneはiPhone 14シリーズから6.1型モデルと6.7型モデルの2つに分かれているが、人気が高いのは前者。無印では「Plus」、Proモデルでは「Max」がつくモデルがそれぞれ6.7型のディスプレイを採用しているが、売れ行きは6.1型モデルの後塵を拝している。海外ではMaxに人気が集中する国もあるなか、コンパクトなモデルが求められている証左と言えるだろう。

iPhoneのProモデルも、諸外国と比べると通常サイズの人気が高い。写真はiPhone 15 Pro

Galaxyについても同様で、機能的には最上位モデルの「Ultra」が注目を集める一方、販売的には手になじむ通常モデルの勢いが強い。通勤電車に乗りながら片手で使うニーズが高い、体型的に手が小さくコンパクトモデルの方が操作しやすい、フリック入力が片手持ちと相性がいいなど、理由は様々だが、片手操作に最適化されていたフィーチャーフォン(ガラケー)の文化の残る日本では、他国以上にコンパクトな端末が求められていることは確かだ。

日本市場のPixel人気。不安要素は「価格」か

グーグルが、日本市場の声を重視する理由もある。販売数を急速に伸ばしているPixelシリーズだが、中でも日本市場での成長が著しいからだ。調査会社MM総研が5月に発表した2022年度('22年4月から'23年3月)のスマホ出荷台数調査では、グーグルのシェアがスマホ全体で6位につけている。直近ではその影響力がさらに強まっており、IDC Japanが8月に発表した第2四半期のメーカー別シェアでは、グーグルが他のAndroidメーカーを抜き去り、アップルに次ぐ2位を獲得した。

IDC Japanが8月に発表した国内スマホのメーカー別シェア。グーグルはシェア15.4%を取り、2位につけている

一方で、この現象が世界的なものかというと、必ずしもそうではない。同じくIDCが8月に発表した第2四半期の世界でのシェアを見ると、1位はサムスン、2位はアップル、3位はシャオミ(Xiaomi)で、OPPOとアフリカでシェアを高めるTranssion(伝音科技)がそれを追う。グーグルは、依然として“その他”のくくりから脱していない。

おひざ元の米国では4位につけているが、第2四半期でシェア3%程度と日本ほどの勢いはない(Counterpoint調べ)。最大の市場である日本の声を反映させるのは、必然と言えるだろう。

こちらは、IDCが8月に発表した四半期ごとのメーカー別シェア。顔ぶれは基本的に変わっておらず、グーグルはトップ5に食い込めていない

ただ、残念ながら、そんなグーグルでも円安の波を押し返すことはできなかった。

Pixel 8の価格は112,900円から、Pixel 8 Proは159,900円からで、Pixel 7/7 Pro発売時の82,500円/124,300円よりも大幅に高くなってしまった。米国での価格はそれぞれ699ドル、999ドルからで、こちらもそれぞれ100ドルずつアップしてはいるものの、日本での値上げ幅はそれ以上に大きい。Pixel 7/7 Proのときに反映しきれていなかった最新の為替レートに近づけた結果、日本円での価格が一気に上がってしまった格好だ。

Pixel 7/7 Proは、その価格の安さも衝撃的だった。これに対し、Pixel 8/8 Proはベースの価格が上がったうえに、円安基調の為替レートが反映されている

Pixelは、その性能はもちろん、コストパフォーマンスの高さも評価されてきた端末だ。廉価モデルのPixel aシリーズはもちろん、フラッグシップモデルもその位置づけの割にはリーズナブルだった。そんな価格設定も、日本で人気が急上昇した理由の1つ。割引規制が強まるなか、リーズナブルな端末を提供できていたのは大きい。グーグルでは、下取りとの組み合わせで両モデルが実質39,800円になるキャンペーンを実施するが、こうした取り組みに対する評価も売れ行きを左右しそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya