石野純也のモバイル通信SE
第31回
「手頃プレミアム」というスマホ新市場 Nothing新型とチップセット事情
2023年7月12日 08:20
英Nothing Technologyは、スマホの第二弾モデルとなる「Nothing Phone(2)」を発表した。同モデルは、初代「Nothing Phone(1)」に続き、日本市場でも発売される。価格は、メモリ8GB、ストレージ128GBの最小構成で79,800円。背面が光る「Glyph Interface」をより細やかにしているほか、パフォーマンスやカメラなど、各種スペックも向上している。
ミッドレンジからハイエンドに寄った「Nothing Phone」
昨年7月に発売された初代Nothing Phone(1)は、「Snapdragon 778G+」を搭載したミッドレンジモデルだった。これに対し、Nothing Phone(2)は、ハイエンドモデル向けの「Snapdragon 8+ Gen 1」を採用。パフォーマンスを維持するためか、筐体はやや厚くなっている一方で、丸みを帯びたガラスを採用し、手に取ったときにはそれを感じさせないデザインに仕上げている。
ハイエンドモデル向けのチップを採用したことで、ISP(画像処理プロセッサ)も強化され、18ビットの画像を扱えるようになった。RAW合成によるHDRの強化も、チップセットを強化したためと言えるだろう。Snapdragon 8+ Gen 1を搭載したことで、前モデルでの不満点が解消された格好だ。モデルチェンジに伴い、製品カテゴリーをミドルレンジからハイエンドに格上げするのは、珍しい事例と言える。
あえて型落ちチップセットを選ぶ理由は「価格」
ただ、Snapdragon 8+ Gen 1は、'22年に展開されていたチップセット。クアルコムは、同年11月に、その後継となる「Snapdragon 8 Gen 2」を発表している。サムスン電子の「Galaxy S23」シリーズや、ソニーの「Xperia 1 V」など、'23年に発表・発売された多くのフラッグシップモデルは、こちらを採用する。Snapdragon 8+ Gen 1は、いわば型落ちとも呼べるチップセットだ。
では、なぜNothingは、あえて23年に発売するスマホに、Snapdragon 8+ Gen 1を搭載したのか。同社でマーケティング責任者兼共同創立者のアキス・イワンジェリディス氏は、「リーズナブルな価格とバランスを取ることを考えた」と語る。実際、Nothing Phone(2)は、ハイエンドモデルでありながら、冒頭で述べたように約8万円からで、20万円に迫るモデルが増えているなか、コストパフォーマンスは非常に高い。
型落ちといえども、そこはSnapdragon 8シリーズ。ミドルレンジモデルと比べると、やはりパフォーマンスは高い。「クアルコムもSnapdragon 8のアップデートを続けているが、より最適な、成熟したチョイスがSnapdragon 8+ Gen 1だった」(同)というわけだ。特に、Nothing Phoneは、そのパフォーマンスが最優先事項になるような端末ではない。背面が光るGlyph Interfaceや、それを見せるためのスケルトンデザインにこそ、価値がある。
こうした型落ちハイエンド向けチップを採用する端末は、徐々に増えている。
日本で発売される端末では、モトローラが発表した「motorola razr 40 Ultra」も、Nothing Phone(2)と同じSnapdragon 8+ Gen 1を内蔵する。同モデルは、縦折り型のフォルダブルスマホ。やはり、最大の特徴はパフォーマンスではなく、そのデザインやフォルダブルというギミックで、チップセットを最新のものにする理由は薄い。
razr 40 Ultraの価格は、モトローラ直販で155,800円だが、同モデルを独占販売するIIJmioでは、139,800円とよりリーズナブルに設定されている。「サプライサービスセール」として、10月31日までは119,980円とより安価。MNPでIIJmioを契約しても割引を受けることができ、109,800円で購入できる。10万円を超えてしまってはいるものの、発売直後のフォルダブルスマホとしては、購入しやすい価格設定と言えそうだ。
求められる「手頃なプレミアム」
実は、クアルコムも、型落ちのチップセットを継続的に販売し、規模を拡大する戦略を取っている。22年11月に開催されたSnapdragon Summitで、クアルコムのシニアバイスプレジデント、アレックス・カトージアン氏は、日本の報道陣とのグループインタビューにこたえる形で、「(Snapdragon 8シリーズのような)プレミアム・ティアのチップは、以前にも増して規模感が拡大している」と語っている。その理由が、過去モデルの継続販売だ。
「2年間という長期間になれば、試用する部材のコストは下がり、チップセットの価格もおのずと下がっていく。結果として、ユーザーにとってはより手ごろなプレミアム・ティアになる。市場を拡大するため、最新のプレミアム・ティアを販売するだけでなく、過去のプレミアム・ティアの寿命を延ばしていると言えるでしょう」
カトージアン氏の話の趣旨は、メーカーが過去のモデルを値下げし、継続販売するということだが、クアルコム自身も、チップセットを継続的に納入している事実を示唆している。それを最新モデルに搭載したのが、Nothing Phone(2)なり、razr 40 Ultraなりのスマホだったというわけだ。
また、ハイエンドモデルの継続販売も、以前より注目を集めるようになった。例えば、ドコモはサムスン電子の「Galaxy S22」を現在も継続販売しており、6月から、残価設定型プログラムの「いつでもカエドキプログラム」における2年後の残価を増額。返却前提ではあるものの、機種変更で実質約4万円、新規契約やMNPで約2万円と、リーズナブルに購入できるようになっている。
円安や部材費の高騰でハイエンドモデルの価格が上昇するなか、型落ちチップのハイエンドモデルという新たな選択肢が登場した格好だ。ハイエンドとミッドレンジ以下で価格が二極化しているスマホだが、型落ちチップのハイエンドは、その“間”を埋める存在になれる可能性がある。こうした端末の今後の動向にも注目したい。