石野純也のモバイル通信SE

第26回

2つに分かれる「ハイエンド」 AQUOS R8にみるスマホ市場の変化

AQUOS R7の後継機として用意されたのがAQUOS R8 pro。1インチセンサーは継続して採用しつつ、新たに色合いを正確に補正する14chスペクトルセンサーを搭載した

シャープは9日、フラッグシップモデルのAQUOS R8「シリーズ」を発表した。「シリーズ」をカッコでくくったのは、AQUOS Rとして初の2機種展開になったからだ。標準モデルとしての「AQUOS R8」に加え、よりカメラ機能に優れた「AQUOS R8 pro」も用意し、バリエーションを広げた。

ハイエンドモデル全体の売れ行きが低迷するなか、シャープは機種数を拡大することで市場を広げていく構えだ。

標準モデルとして、AQUOS R8を発売する。カメラ機能はAQUOS R8 proより抑えている一方で、処理能力は同等。MIL規格に対応するなど、proにはない魅力も備えている

2つに分かれる「ハイエンド」の理由

フラッグシップモデルのAQUOS Rシリーズは、シャープの技術力を結集させたモデル。2年前に発売された「AQUOS R6」以降、特にカメラ技術にその力を注いでいる。同モデルでは、スマホとして初めて1インチセンサーを搭載。レンズ開発や画質のチューニングでは、ドイツのライカカメラ社に協力を仰ぎ、ライカブランドを冠している。

22年の「AQUOS R7」もその路線を踏襲。課題だったオートフォーカスの速度を大きく改善するなどして、フラッグシップモデルとしての実力に磨きをかけた。

AQUOS R6以降、1インチセンサーやライカとの協業を売りにしてきたAQUOS R

画質面では好評だったAQUOS R7以降のAQUOS Rシリーズだが、一方で価格も徐々に上がっていた。ドコモ版で比較すると、22年のAQUOS R6が発売時に11万5,632円だったのに対し、23年のAQUOS R7は19万8,000円と、20万円に迫る価格がつけられていた。残価設定型などのアップグレードプログラムを使えば支払いは抑えられるものの、なかなか気軽に手を出しづらい金額になっていたのも事実だ。これは、シャープに限った話ではなく、いずれのメーカーも最上位モデルは20万円に近づきつつある。

こうした状況のなか、シャープはハイエンドモデルを2つに分ける戦略を取った。AQUOS R6から定番となっている1インチセンサーを搭載した端末は、最上位モデルを示す「pro」に位置づけ直し、AQUOS R8 proとして投入。その下に、標準モデルとしてのAQUOS R8を新たに設けた。シャープの通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長 中江優晃氏によると、「AQUOS R8のラインを追加し、ハイエンドモデルをより多くのお客様に体感いただきたい。そういった意図を持って2ライン化した」という。

1インチセンサー搭載モデルをproに昇格させ、その下により手ごろな通常モデルを設けることでラインナップを拡大した

AQUOS R8は、1インチセンサーこそ非搭載だが、カメラはライカが監修。チップセットも上位モデルと同じ、「Snapdragon 8 Gen 2」で、処理能力は高い。ディスプレイには、1Hzから240Hzにリフレッシュレートが可変するpro IGZO OLEDを採用する。センサーサイズ自体は1/1.55インチで、ミッドレンジモデルの「AQUOS sense7」に搭載されていたものと同じだが、処理能力が高まったことで画質も向上しているという。HDRやフォーカスの速度も、AQUOS R7比でそれぞれ40%、100%高速化している。

チップセットは上位モデルと共通。処理能力は高い

6.4インチながら軽量なのもAQUOS R8の魅力だ。スペック表では「測定中」になっているが、プレゼン資料を見ると、170g台であることが分かる。同様に、気軽に使えることを目指し、AQUOS Rシリーズとしては初めてMIL規格に準拠した。

画質を突き詰めていくと、1インチセンサーに加えて14chのスペクトルセンサーを搭載したAQUOS R8 proに軍配が上がる一方で、処理能力やディスプレイ性能に大きな差はない。カメラ機能の一部を抑えて、より手ごろな価格で気軽に使えることを目指したのがAQUOS R8と言えるだろう。

AQUOS Rシリーズとして初めてMIL規格に対応した

“ほどよい“ハイエンドに注目

冒頭で述べたように、海外メーカーもシャープと近い戦略を取り、すでに成果を出している。

代表的なのは、サムスン電子のGalaxyだ。同シリーズも、日本では最上位モデルの「Ultra」と通常モデルの2機種を展開している。23年モデルでは、「Galaxy S23 Ultra」がメインセンサーに2億画素カメラを採用したのに対し、「Galaxy S23」は5,000万画素で前モデルからセンサーは据え置きだ。

一方で、Galaxy S23もチップセットはSnapdragon 8 Gen 2を採用しており、処理能力はGalaxy S23 Ultraに匹敵する。グーグルも、望遠などのカメラ機能を強化した「Pixel 7 Pro」とは別に、標準モデルとして「Pixel 7」をラインナップしている。スタートダッシュを切れるのは最上位モデルだが、年間を通して見ると、コンパクトさや価格を抑えた“ほどよいハイエンドモデル”の方が売れ行きはいい。

ニーズに合わせ、フラッグシップモデルにバリエーションを設けているのはシャープだけではない。むしろ、海外メーカーでは一般的な戦略だ。写真はサムスンのGalaxy S23とS23 Ultra

これは、カメラに最上級の性能までは求めないものの、ハイエンドモデルのパフォーマンスは必要というユーザーに支持されている証拠だ。20万円前後の突き抜けたハイエンドモデルが増えているなか、相対的にリーズナブルに見えるのも、人気を支えている。裏を返すと、これまでのシャープには“ど真ん中のフラッグシップモデル”がなかったと見ることもできる。

ただ、AQUOS R8 proとAQUOS R8の両方を展開するのはドコモだけとなる。ソフトバンクはAQUOS R8 proのみを販売。KDDIや楽天モバイルは、フラッグシップモデルのAQUOS Rシリーズを取り扱っておらず、AQUOS R8、R8 proも販売は行なわない。

メーカー自身が販売するオープンマーケットモデルの比率も徐々に上がっているとはいえ、依然として規模が大きいのはキャリア市場。AQUOS R8の販路をどう広げていくかは、今後の課題と言えそうだ。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya