石野純也のモバイル通信SE
第26回
2つに分かれる「ハイエンド」 AQUOS R8にみるスマホ市場の変化
2023年5月10日 08:20
シャープは9日、フラッグシップモデルのAQUOS R8「シリーズ」を発表した。「シリーズ」をカッコでくくったのは、AQUOS Rとして初の2機種展開になったからだ。標準モデルとしての「AQUOS R8」に加え、よりカメラ機能に優れた「AQUOS R8 pro」も用意し、バリエーションを広げた。
ハイエンドモデル全体の売れ行きが低迷するなか、シャープは機種数を拡大することで市場を広げていく構えだ。
2つに分かれる「ハイエンド」の理由
フラッグシップモデルのAQUOS Rシリーズは、シャープの技術力を結集させたモデル。2年前に発売された「AQUOS R6」以降、特にカメラ技術にその力を注いでいる。同モデルでは、スマホとして初めて1インチセンサーを搭載。レンズ開発や画質のチューニングでは、ドイツのライカカメラ社に協力を仰ぎ、ライカブランドを冠している。
22年の「AQUOS R7」もその路線を踏襲。課題だったオートフォーカスの速度を大きく改善するなどして、フラッグシップモデルとしての実力に磨きをかけた。
画質面では好評だったAQUOS R7以降のAQUOS Rシリーズだが、一方で価格も徐々に上がっていた。ドコモ版で比較すると、22年のAQUOS R6が発売時に11万5,632円だったのに対し、23年のAQUOS R7は19万8,000円と、20万円に迫る価格がつけられていた。残価設定型などのアップグレードプログラムを使えば支払いは抑えられるものの、なかなか気軽に手を出しづらい金額になっていたのも事実だ。これは、シャープに限った話ではなく、いずれのメーカーも最上位モデルは20万円に近づきつつある。
こうした状況のなか、シャープはハイエンドモデルを2つに分ける戦略を取った。AQUOS R6から定番となっている1インチセンサーを搭載した端末は、最上位モデルを示す「pro」に位置づけ直し、AQUOS R8 proとして投入。その下に、標準モデルとしてのAQUOS R8を新たに設けた。シャープの通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長 中江優晃氏によると、「AQUOS R8のラインを追加し、ハイエンドモデルをより多くのお客様に体感いただきたい。そういった意図を持って2ライン化した」という。
AQUOS R8は、1インチセンサーこそ非搭載だが、カメラはライカが監修。チップセットも上位モデルと同じ、「Snapdragon 8 Gen 2」で、処理能力は高い。ディスプレイには、1Hzから240Hzにリフレッシュレートが可変するpro IGZO OLEDを採用する。センサーサイズ自体は1/1.55インチで、ミッドレンジモデルの「AQUOS sense7」に搭載されていたものと同じだが、処理能力が高まったことで画質も向上しているという。HDRやフォーカスの速度も、AQUOS R7比でそれぞれ40%、100%高速化している。
6.4インチながら軽量なのもAQUOS R8の魅力だ。スペック表では「測定中」になっているが、プレゼン資料を見ると、170g台であることが分かる。同様に、気軽に使えることを目指し、AQUOS Rシリーズとしては初めてMIL規格に準拠した。
画質を突き詰めていくと、1インチセンサーに加えて14chのスペクトルセンサーを搭載したAQUOS R8 proに軍配が上がる一方で、処理能力やディスプレイ性能に大きな差はない。カメラ機能の一部を抑えて、より手ごろな価格で気軽に使えることを目指したのがAQUOS R8と言えるだろう。
“ほどよい“ハイエンドに注目
冒頭で述べたように、海外メーカーもシャープと近い戦略を取り、すでに成果を出している。
代表的なのは、サムスン電子のGalaxyだ。同シリーズも、日本では最上位モデルの「Ultra」と通常モデルの2機種を展開している。23年モデルでは、「Galaxy S23 Ultra」がメインセンサーに2億画素カメラを採用したのに対し、「Galaxy S23」は5,000万画素で前モデルからセンサーは据え置きだ。
一方で、Galaxy S23もチップセットはSnapdragon 8 Gen 2を採用しており、処理能力はGalaxy S23 Ultraに匹敵する。グーグルも、望遠などのカメラ機能を強化した「Pixel 7 Pro」とは別に、標準モデルとして「Pixel 7」をラインナップしている。スタートダッシュを切れるのは最上位モデルだが、年間を通して見ると、コンパクトさや価格を抑えた“ほどよいハイエンドモデル”の方が売れ行きはいい。
これは、カメラに最上級の性能までは求めないものの、ハイエンドモデルのパフォーマンスは必要というユーザーに支持されている証拠だ。20万円前後の突き抜けたハイエンドモデルが増えているなか、相対的にリーズナブルに見えるのも、人気を支えている。裏を返すと、これまでのシャープには“ど真ん中のフラッグシップモデル”がなかったと見ることもできる。
ただ、AQUOS R8 proとAQUOS R8の両方を展開するのはドコモだけとなる。ソフトバンクはAQUOS R8 proのみを販売。KDDIや楽天モバイルは、フラッグシップモデルのAQUOS Rシリーズを取り扱っておらず、AQUOS R8、R8 proも販売は行なわない。
メーカー自身が販売するオープンマーケットモデルの比率も徐々に上がっているとはいえ、依然として規模が大きいのはキャリア市場。AQUOS R8の販路をどう広げていくかは、今後の課題と言えそうだ。