石野純也のモバイル通信SE
第16回
ドコモの“穴”を埋める「エコノミーMVNO」
2022年12月7日 08:20
NTTドコモは、エコノミーMVNOにTOKAIコミュニケーションズの「LIBMO(リブモ)」を加えた。12月21日から、ドコモショップでの取り扱いが始まる。
エコノミーMVNOは、ドコモショップでドコモと連携を取ったMVNOのSIMカードを販売していく取り組みのこと。'21年10月にNTTレゾナントの「OCN モバイル ONE」がサービスを開始したのを皮切りに、同年12月にはフリービット傘下の「TONEモバイル」が加わっている。この枠組みに、新たなMVNOが参画するのは1年ぶりのことだ。
エコノミーMVNOとはなにか
MVNOにとって最大のメリットと言えるのが、ドコモショップというリアルな販路だ。ショップ数は'25年3月までに全体の約3割にあたる700店舗を削減していく方針のドコモだが、それでも1,600店舗は残る計算になる。オンラインでの販売が主戦場だったMVNOが、リアルな店舗で販売できるインパクトは大きい。初期設定などの一部サポートを請け負ってもらえるのも、MVNO側の負荷を軽くする取り組みと言えるだろう。
その証拠に、エコノミーMVNO開始以来、OCN モバイル ONEはユーザー数を順調に伸ばしている。9月に総務省が発表した事業者別シェアを見ると、OCN モバイル ONEが、21年12月からシェアの伸びが高くなっていることが分かる。子どもやシニアにターゲットを絞ったTONEモバイルは、ドコモショップで展開することで、ティーンエイジャーは狙いどおり獲得しつつ、その親となる現役世代にもユーザー層を広げているという。
ドコモのメリットは、自身で展開できていない料金プランやサービスを、MVNOで補完できるところにある。例えば、OCN モバイル ONEがエコノミーMVNOに合わせて投入した500MBコースは、月額料金がわずか550円。月10分までの無料通話もつく、格安の料金プランだ。トーンモバイルは、月額1,100円で動画以外が使い放題になることに加え、ドコモが手薄なティーンエイジャー向けの見守りサービスも展開している。
LIBMOがエコノミーMVNOで狙うもの
翻って、21日からエコノミーMVNOで連携する「LIBMO」はどうか?
同社は、静岡県に本拠地を構えるMVNOで、20GBや30GBの中容量プランを売りにしていた。20GBプランの料金は1,991円。同容量の3.000円弱で20GBを提供しているドコモのahamoや、KDDIのpovo2.0、ソフトバンクのLINEMOより、一段安いのが魅力だ。また、端末と3GBプランがセットになった「一択モバイル」のような企画で、ネットの話題を集めることもあった。
ただ、中容量プランをそのまま展開するだけだと、ドコモ自身の料金プランと完全にバッティングしてしまう。
そこでLIBMOは、「5分かけ放題」や「10分かけ放題」「かけ放題マックス(完全定額)」がセットになった「ゴーゴプラン」をエコノミーMVNOの主軸に据えた。料金は5分かけ放題セットが1,100円、10分かけ放題セットが1,320円、かけ放題マックスセットが1,980円。5分かけ放題は12カ月間110円、10分かけ放題セットは220円の割引も受けられる。いずれも、データ容量は500MB。ほぼ通話のみというユーザーに向けた料金プランと言える。
通常の料金プランである「なっとくプラン」も、エコノミーMVNOでは3GBと8GBに絞っており、本来LIBMOが主力としていた20GBプランや30GBプランは展開しない。これも、ドコモとのバッティングを避けた結果と言えるだろう。
通話を売りにすることで、ドコモのサブブランド的な位置づけであるOCN モバイル ONEや、子どもとシニアをターゲットにしたTONEモバイルとも差別化を図っている。ドコモ自身とエコノミーMVNOに参画する2社が開拓しきれていなかったのが、格安の音声通話だったというわけだ。
LIBMOは、全国区のMVNOというわけではなく、静岡に特化した地域MVNOと呼べる存在だ。一定規模の人口、言い換えるなら事業が成立する規模の市場がある地域では、このような地域色の強いMVNOが活躍している。九州電力グループで同地域に強いQTmobileや、四国電力グループのSTnetが運営するFiimoなどが有名だが、LIBMOも、そんなMVNOの1社と言える。オンラインで申し込めば全国どこでも契約はできるが、店舗があるなどの理由で、やはり根差す地域の比率は突出している。
一方で、ドコモのエコノミーMVNOは全国区のサービス。当初は、SIMカードと端末を自宅に配送する形になるが、準備ができ次第、店頭での開通も行なう。
静岡県のユーザー比率が高かったLIBMOにとって、その他46都道府県に市場を広げる絶好のチャンスと言えるだろう。通話が中心のユーザーにとっては魅力的な料金プランなだけに、'26年に停波する3Gからの乗り換えの受け皿になりそうだ。ただ、現時点では全国区の知名度が低い。エコノミーMVNO開始後に、宣伝などを強化していけるかは課題になる。
エコノミーMVNOは完成したのか?
3社でうまい具合に住み分けができているエコノミーMVNOだが、残りのパイは少なくなっている印象も受ける。低容量、低料金を軸にしているため、それ以外の要素でしか差別化ができないからだ。同じようなMVNOが並んでいても、店頭でどちらがいいかを勧めるのは難しい。こうした事情もあり、4社目、5社目が続くのかは未知数だ。
可能性としてありそうなのは、データ通信に特化したMVNO。現状のドコモには、PCやWi-Fiルーターなどに特化した単独の料金プランが存在しない。主回線に紐づける「データプラス」は用意しているが、あくまで2回線目のもの。こうした料金プランは、MVNOの方がバリエーションは豊富で、その知見を取り込む価値はあるだろう。
いわゆる“格安スマホ”のカテゴリーにとどまらない展開にも期待したい。