石野純也のモバイル通信SE

第9回

コロナ禍で変わった海外旅行。モバイル回線はより重要に

夏休みを取り、ハワイに行ってきた。ここでは、コロナ禍ならではのテクニックを紹介していく

夏休みを取り、家族で米ハワイに行ってきた。2月から3月にかけ、スペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelonaを現地で取材していたが、これはあくまで出張。コロナ禍での純粋な海外旅行は未経験だった。2月、3月に比べ、渡航や帰国時の制限がどの程度緩和されているのを確かめたい意味合いもあった。とは言え、規制が完全に撤廃されたわけではなく、'20年2月ごろまでと比べると事前に準備しておかなければならないことは増えている。それに伴い、モバイル回線やスマホの重要性も増している。

ワクチン3回接種者の入国前PCR検査を9月7日から撤廃するなど、政府の水際対策緩和も予定されているが、'22年8月時点の現状をまとめながら、コロナ禍の海外旅行に必要なTIPSをまとめていきたい。

事前準備が重要。子供の接種証明書・保険・PCR予約

コロナ禍以降の海外旅行で必要になったものは、時期によるが主に以下の通り。

・ワクチン接種証明書
・PCR検査(予約)
・陰性証明の提出
・mySOSアプリ

また、こうした手間が発生しているため、海外旅行保険やモバイル通信回線も以前より重要になっていると言える。

米国は、渡航条件を6月に大きく緩和し、入国前のPCR検査や抗原検査が不要になった。ただし、隔離なしですぐに行動する際に必要なのが、ワクチン接種証明書。健康上の理由などで打てない場合は、別途それを申告する必要がある。接種証明書の提示と宣誓書の提出が、現時点でのコロナ禍前との大きな違いだ。接種証明書に関しては、アプリが手っ取り早い。筆者は、2月時点ですでに3回接種を済ませたうえで、アプリも準備していたので、それを活用することにした。

少々厄介だったのが、子どもぶん。接種証明書アプリは、基本的に、1端末1人分しか接種証明書を発行できない。子どもは未就学児ということもあり、まだNFC対応のスマホは所持していない。紙を取り寄せることは可能だったが、1人だけわざわざ紙の接種証明書を使うのは負けだと思い、もう1台の端末にアプリをダウンロード。マイナンバーカードとパスポートを読み取ったところ、通常どおりに発行ができた。

米国入国に必要なのは、ワクチン接種証明書と宣誓書のみ。日本のアプリも有効だ。ただし、1端末につき1人分しか登録できないため、スマホを持っていない子どもがいる場合、紙の接種証明書かもう1台の端末が必要になる

なお、このために発行した子ども用のマイナンバーカードで、しっかりPayPayにマイナポイントをつけておいたことも付け加えておきたい。計2万円ぶんと比較的高額なため、旅の資金になる。今回はPayPayだったが、プリペイドカードやApple Pay経由でドル建て決済ができるau PAYなら、もっと直接的に旅行中の支払いに活用できていた。筆者の場合、自分用のマイナポイントを先にau PAYにつけ、付与初日に使い切ってしまっていたのでそれはできなかったが……。

次に準備としてやっておいたのが、海外旅行保険への加入だ。帰国時のPCR検査で万が一陽性になった場合、無症状だったとしても延泊や航空券の変更を余儀なくなされるからだ。最近になって、ようやく「帰国難民」になる人の事例がテレビや新聞で報道されるようになったが、3月の帰国時にもその懸念はあった。こうしたケースでも、自己隔離の費用等が対象になる海外旅行保険に加入しておけば、最低限、コストの心配はなくなる。

筆者が選んだのは、ソニー損保の海外旅行保険。ジェイアイ傷害火災との提携商品で、何かあった際には「t@biho」というサービスを通じてサポートを受けられる。保険金は自身でカスタマイズ可能なため、コロナ禍で何かあったときの治療・救援費用に全振りしても、ほかを抑えれば保険料はそこまで高くならない。ワクチン接種済みということもあり、重症化の懸念は少なかったが、もしもに備えて医療費は最大で1人3,000万円出るように設定しておいた。クレジットカード付帯保険では足りないぶんを、こちらでカバーするという考え方だ。

万が一に備えて、海外旅行保険には必ず入っておきたい。筆者が選択したソニー損保の場合、治療・救援費用を厚めにして、ほかを削ったところ、保険料は3人で1万円強だった。支払いにはd払いを利用。加入はスマホだけで完結する

また、帰国時のPCR検査も、あらかじめ日本で予約しておいた。現状では、日本に入国する場合、現地出発の72時間前以内にPCR検査を受け、陰性であることの証明書を提出しなければならない。これがないと、航空機への搭乗が拒否されてしまう。この点は、以前から変わっていないが、6月の変更で(悪名高い)厚生労働省フォーマットが「推奨」から「任意」に扱いが変更された。日本が用意した書式に記入してもらえる検査機関が少なく、ハードルもコストも上がっていたが、任意であれば、わざわざそれを選ぶ必要はない。

Google検索を駆使して85ドル(約11,657円、円換算は8月22日時点)の「Nomi Health」という検査機関を探し出し、オンラインで家族分の予約をした。ハワイでの相場は、120ドル(約16,417円)前後。日本語に対応していたり、上記のフォーマットに対応していたりすると、値段が上がることもある。85ドルは割安とは言え、これでも家族3人で3万円を超える出費になってしまうのは痛いところだ。無症状陽性になった際の手間やスケジュール変更まで想定すると、ここが一番のハードルと言える。

帰国前のPCR検査も、あらかじめ予約しておいた。こちらも、事前に調べておけば、ある程度コストを抑えることができる

米国渡航時には、航空会社のカウンターで接種証明書アプリの画面を提示しつつ、プリントアウトした宣誓書を提出するだけでOK。チェックはここで済ませている前提になっているため、米国到着後は、コロナ禍前とほぼ同じ。パスポートを提示し、入国管理官の簡単な質問に答えるだけで、スムーズに入国できた。米国では、レストランや小売店の入店規制も設けられておらず、基本的に、接種証明書アプリを使ったのは空港のカウンターだけ。接種証明書アプリのおかげで紙を持ち運ぶ必要がなくなったが、現状、出番は少ない。

入国のプロセスはコロナ禍前とほぼ同じ。入国審査の列が心なしか短かったこともあり、すぐにハワイに入れた。写真は空港の建物から出た直後の風景

ありがとうソフトバンク

入国後は、海に山に街にとハワイをエンジョイしまくった。ソフトバンクのアメリカ放題に対応するSIMカードを持っていったため、モバイル回線も使い放題。僚誌ケータイ Watchの連載にも書いたが、ソフトバンクの大盤振る舞いにはビックリだ。

ソフトバンクのアメリカ放題が大活躍。詳しくは、ケータイ Watchの記事で

ただ、スマホの2台持ちとなると、アメリカ放題だけでは回線がまかないきれない。ソフトバンクのSIMカードは「Galaxy Z Fold3 5G」に挿していたため、2台目の「iPhone 13 Pro」では海外ローミング専業キャリアのeSIMを活用した。

選択したのは、Airaloというキャリア。米国で有効なeSIMは、1GBで4.5ドル(約618円)、3GBで11ドル(約1,509円)、5GBで16ドル(2,196円)、10GBで26ドル(3,568円)。ドコモやKDDIの国際ローミングがおおむね1日あたり980円のため、1週間程度の滞在なら、どのプランを購入しても割安になる。サブ回線ということもあり、3GBと5GBで迷ったが、ある程度iPhoneを活用することも視野に入れ、5GBを選択した。アプリから購入を済ませると、QRコードが発行されるため、これを読み込むだけ。米国に着いて電波をつかむと、自動で回線がアクティベートされ、日数のカウントが始まる。

iPhoneには、Airaloというローミング専業MVNOのeSIMを設定。5GBプランを購入した

結果論だが、ここで5GBを選んだのは正解だった。というのも、メイン端末のGalaxy Z Fold3 5Gは、防じんに対応しておらず、ビーチでの出番がほとんどなかったからだ。浜辺に到着するやいなや、すぐにヒンジ部に砂を巻き込んでしまいそうになり、以降、ビーチではiPhone以外取り出さないようにしていた。回線速度も、iPhoneの方が速かった。これは対応バンドやキャリアアグリゲーションの有無の違いからだろう。

日本版のGalaxy Z Fold3 5Gだと、一部米国の周波数に非対応で、キャリアアグリゲーションもできていなかった。この点は、SKU(在庫管理の最小単位)を減らしつつ、多数の国で展開しているiPhoneの強みだ。こうした利点もあり、iPhoneを取り出す場面が意外と多かった。Airaloを選んだ筆者だが、データ容量によっては、国際ローミングとの差額は小さくなる。eSIMだったり、デュアルSIMだったりの知識がなく、人柱になるのも御免というのであれば、国際ローミングを選択するのがいいだろう。

ドコモ版のGalaxy Z Fold3 5Gだと10Mbpsを切っていた場所でも、ご覧のとおり、70Mbpsを超えていた。どちらも同じAT&T回線だったため、キャリアグリゲーションの有無によるものだと思われる

帰国前もPCR検査。3月よりは良くなっているが……

帰国便搭乗の約70時間前に、上記のとおり予約しておいたPCR検査を受け、約20時間後に結果がメールで届いた。ダウンロードしたPDFの検査証にはきちんと「Negative(陰性)」と記載されている。これを「mySOS」というアプリで提出して、事前検疫を済ませれば、あとはその画面やQRコードを見せるだけで帰国できるようになる。オミクロン株の潜伏期間を考えると、搭乗の丸3日前に取った陰性証明に意味があるのかはよく分からないが、とりあえずルール通りにやらなければ帰国できない。

予約した時間にPCR検査を受けに行った。3月に有効になった鼻腔ぬぐい液での検査だったため、“鼻綿棒”が大の苦手な筆者も、涙目にならずにすんだ
検査結果が出るとメールが届く。記載されていたサイトから検査証明書のPDFファイルをダウンロードできる。結果はNegative(陰性)

mySOSアプリを通じた陰性証明の提出は必須ではないが、事前に日本側で確認を行なうため、空港で紙の書類を出してもめたりすることがなくなる。スムーズな帰国を実現するうえでは、欠かせないアプリと言えるだろう。ただ、mySOSは元々、自身や家族の救命・健康サポートを目的に開発されたアプリ。水際対策用の機能は、後付けで搭載されている。そのため、アプリをインストール&起動しただけでは陰性証明を登録できず、アプリのモードを切り替える必要がある。

3月に利用した際には、アプリを立ち上げ、厚生労働省のサイトにアップされていた画像内のQRコードを読み込まなければならない意味不明な仕様だった。URLをタップするだけでもよかったのだが、サイトに文字列が画像として掲載されていたため、タップ自体ができないオマケつき。「これが日本のDXか」……と暗い気持ちになったのを覚えているが、いつの間にかこの仕組みは改善され、アプリ内から帰国用モードへの切り替えが可能になっていた。

mySOSアプリを帰国用モードに切り替える。いつの間にかアプリ内からできるようになっていた
検査証明書などを提出する前の画面。画面が赤くなっている。審査が進むと、最終的にここが青に変わる

ワクチン接種証明書とは異なり、こちらは12歳以下の子どもも同行者としてまとめて登録できる。同行者登録を済ませてから、2人ぶんの宣誓書の質問に答え、陰性証明書をアップロード。これで画面が「審査中」を意味する黄色に変わった。数時間で審査が終わり、今度は画面が青色になった。

スマホを持っていない12歳以下の子どもは、同行者としてまとめて登録できる

なお、提出した陰性証明書は、上記の通り検査機関が発行した英語のものだが、必要事項を満たしているため、特に問題なく審査を通っている。スマホに届いたPDFをそのままアップロードするだけで、間に紙を一切挟まないのも効率的。出先でサッと登録を済ませられる点では、3月から大きく進化している。ただ、これでも、米国入国時に比べると手続きが煩雑であることは確か。政府には、早く首相の「G7並み」という約束を果たしてもらいたいものだ。

mySOSの画面が青に変われば、後はそれを見せるだけ。3月の帰国時には紙の陰性証明書やワクチン接種証明書アプリの画面などの提示を一通り求められたが、今回はそれも一切なし。空港のカウンターでチラッとアプリを見せただけで、コロナ禍前のように搭乗手続きが完了した。

日本到着後は、アプリに表示されたQRコードを読み込ませるだけ……と思いきや、ここでもなぜかアプリの画面を提示するよう求められた。2回も3回もアプリの画面を係員が確認する意味がよく分からず、しかも最後にペラ1枚の紙を手渡されたのには思わず苦笑してしまった(笑)。そんなこんなで無駄なプロセスがかなり多いように見えたが、到着直後の抗原検査もなくなったおかげで、着陸から約1時間で税関を通過。無事に帰国することができた。

まるで水戸黄門の印籠のように画面を見せつつ、最後にQRコードを読み込ませると、ペラ1枚の紙が手渡される。これ、本当に必要なんでしょうか……?

コロナ禍の旅にはモバイル回線の準備が必要

紙の陰性証明書があれば帰国はできるが、確認作業にさらなる時間がかかっていたと思うと、mySOSアプリを利用した事前検疫は半ばマスト。その意味で、以前より海外旅行時のスマホの重要性は増していると言えるだろう。また、いちいちWi-Fiを探すのは手間が大きく増えるため、国際ローミングなりeSIMなりで回線を確保しておくことも必要になる。スマホをどこまで使いこなせるかで、旅の難易度が大きく変わると言えるだろう。

一方で、やはり帰国前のPCR検査が最大の関門であることに変わりはない。無症状感染での陽性や擬陽性が出てしまうリスクを考えると、安易に海外旅行をお勧めすることはできない。費用面は保険でほとんどまかなえるが、帰国後すぐに仕事などがあった場合、予定が大きく崩れることになるからだ。もちろん、症状が出て治療が必要になってしまうケースもある。日本側の各種規制が残っている限り、海外旅行が本格的に復活するのは難しそうだと感じた。

【更新】水際対策の緩和について追記(24日23時)

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya