石野純也のモバイル通信SE
第6回
Nothing Phone(1)登場。スマホ再定義の挑戦とバルミューダ感
2022年7月13日 08:20
Nothing Phone(1)とはなにか?
英国に拠点を構える新興企業・Nothing Technologyが開発した「Nothing Phone(1)」が、日本に上陸する。同社は、OnePlus(現在はOPPOが統合)の共同創業者であるカール・ペイ氏が立ち上げた企業。第一弾の製品として発売した「Nothing Ear(1)」も、'21年8月に日本で発売されている。Nothing Phone(1)は、これに続く製品で、同社が初めて手掛けたスマートフォンだ。価格は69,800円となる。
独創的な光るバックパネル「Nothing Phone (1)」ついに発表
最大の特徴は、スケルトン(シースルー)のボディにある。背面はワイヤレスチャージ用のコイルやネジが見えている状態だが、雑然としているわけではなく、ほとんどのパーツは白または黒のカバーでおおわれている。見せるための中身に透明のケースをつけた状態と言えるだろう。ここに、一般のスマホよりはるかに多い、900ものLEDを内蔵した。
同社では、これを「Glyph Interface(グリフインターフェイス)」と呼ぶ。インターフェイスと銘打たれているのは、光り方でさまざまな情報をユーザーに伝えることができるからだ。もっとも分かりやすいのは電話の着信だが、充電やGoogleアシスタントのフィードバックなども、Glyph Interfaceを通して知ることができる。本体の画面を伏せたままでも、光で情報を取れるというわけだ。
光量が多いため、カメラ撮影時にもGlyph InterfaceをLEDライト代わりに利用できる。通常のフラッシュは、強い光を1カ所から当てるだけだが、Glyph Interfaceを使うと優しい光が広い範囲に広がる。フラッシュを当てたときのように、光と影がパッキリと出ず、自然に明るさを上げられるのがこの仕組みのメリットと言えるだろう。
単に特徴的な外観を採用しただけでなく、ユーザーとスマホの付き合い方を変えようとしているところに、Glyph Interfaceのおもしろさがある。CEOのペイ氏は、「最近のスマホは表面の50%ぐらいしか実際の役に立っていない」と語り、もう50%の裏側をどう活用しようかを考え、このアイディアにたどり着いたことを明かす。
「デッドスペースでどうやったらスマホをおもしろくできるかを考えた。頻繁に利用されるシナリオを考え、ライトでそれを表そうと挑戦した。(光を採用することで)部屋の反対側にいてもすぐに見分けられるアイコニックなものになった」
OSには、Androidをカスタマイズした「Nothing OS」が採用されている。一見すると、ユーザーインターフェイスは“素のAndroid”に近いようにも思えるが、ドットをモチーフにした文字などのデザインや、ウィジェット、サウンドなどに手が加えられているほか、同社のNothing Ear(1)に加え、アップルのAirPodsやテスラの自動車を簡単に接続できる機能が盛り込まれている。逆にプリインストールアプリはあえて減らし、Androidのよさを生かしているという。
では、なぜペイ氏はスマホを開発しようとしたのか。その理由を問われた同氏は「業界をおもしろいものにしたかった」と語る。かつては、「色々な会社が新しいアイディアにトライし、成功したものも失敗したものもあったが、今の状況はまったく違う」(同)。Nothingの共同創業者でマーケティング部門を統括するアキス・イワンジェリディス氏も、「ユーザーには色々な製品が同じように見えてしまっている」と語る。
こうした製品と差別化を図るために生み出されたのが、Nothing Phone(1)だった。Glyph InterfaceやNothing OSは、それを実現させるためのデザインであり、インターフェイスだったというわけだ。Nothingには、こうした思いに共感した開発者が、業界各社から集まってきているという。
BALMUDA Phoneと共通する「スマホとの関わり再定義」
ペイ氏やイワンジェリディス氏の話を聞き、「デジャブのようだ」と思ったのは筆者だけではないはずだ。彼らの動機が、BALMUDA Phone発表時に語られたそれと非常に似ていたからだ。バルミューダの寺尾玄社長も、同モデルの発表時に「今の世の中のスマホはあまりに画一的になってしまった」と語っており、BALMUDA Phoneでユーザーとスマホとの関わり方を再定義しようとしていた。
BALMUDA Phoneが大画面化に逆行する4.9インチのコンパクトなディスプレイを採用したのは、「画面に没頭している我々は、本当にスマートになったのか」という寺尾氏の問題意識を反映してのこと。計算機やスケジューラーなどの基本アプリを見直し、ソフトウェアで差別化を図りながら、ユーザーとスマホとの“距離感”を変えようとしていたところは、Nothing Phone(1)と共通点している。
ただ、その意図が伝わりきらなかったことや、スペックに対して価格が高すぎたことが仇となり、BALMUDA Phoneは投げ売り状態になっている。同モデルを販売したソフトバンクのショップでは、一括1円まで価格が下げられている。端的に言えば、セールスはバルミューダ側の想定以上にふるわなかったように見える。
Nothing Phone(1)はどうか。確かにコンセプトは近いものの、6.55インチ、120Hzのディスプレイを採用していたり、広角と超広角のデュアルカメラを搭載していたりと、ユーザーが今のスマホに求める基本スペックは一通り満たしている。初手で10万円を超える価格を打ち出してしまったBALMUDA Phoneに対し、Nothing Phone(1)は69,800円と控えめ。デザインにひかれた感度の高いユーザーが、手を伸ばしやすい。
押さえるところはきっちり押さえているのは、やはりペイ氏がOnePlusで経験を積んでいることが大きいのかもしれない。
ただ、OnePlusが日本未上陸だっただけに、ローカルなニーズをどこまでくみ取れているのかは不透明だ。実際、Nothing Phone(1)は、おサイフケータイに非対応。防水・防じんもIP53にとどまる。
最近では、OPPOやXiaomi、モトローラなどがミドルレンジのオープンマーケットモデルにおサイフケータイや防水・防じんを採用している。最低限の“日本仕様”を満たした海外メーカーの端末が増えているなか、Nothing Phone(1)はグローバル版そのままのスペックで戦えるのか。濃いユーザーに受け入れられる素地はあるものの、さらなる広がりを期待するには、次機種以降でローカライズも進めていく必要がありそうだ。