石野純也のモバイル通信SE
第4回
au経済圏の起爆剤? デリバリーに強いサブスクで攻める「auスマプレ」
2022年6月8日 08:20
auスマプレ契約者は配送料無料
KDDIは、6月1日にフードデリバリーサービスのmenuに追加で出資し、連携を強化した。これまでも、menuはKDDIの持分適用関連会社だったが、追加出資に合わせ、「auスマートパスプレミアム」契約者向けの特典を刷新している。これまでは上限5,000ポイントまで30%還元を行なっていたが、6月1日からは、配送料無料と上限5,000ポイントの10%還元に変更。ポイント還元の上限額はそのままのため、利用頻度や注文額の高いユーザーがお得になるサービスと言えそうだ。
menuの配達料は基本料金300円だが、距離に応じた追加配達料もかかる。混雑時の手数料や、「少額取扱料」「長距離少額手数料」なども設定されている。コンビニなどの小売店では、「取扱サービス料」もかかる。
例えば、6月6日の19時30分時点で、麻布十番にあるローソンから高輪の自宅まで、「からあげクンレギュラー」を1つだけ配達してもらおうとすると、配達料が650円、少額取扱料が150円、取扱サービス料が29円かかり、からあげクンの価格である298円を大きく上回ってしまう。
これは比較的距離の離れた店舗から、少額の商品1つだけを取り寄せるという極端な例だが、通常でも400円から500円程度の配送料はかかる。auスマートパスプレミアムに加入している場合、これらの配達料や手数料が無料になる。上記の例で言えば、からあげクンを取り寄せる際にかかっていた629円が無料になるというわけだ。
回数に制限はなく、何度でも利用可能。高級店などを集めた「至高の銘店」のみ対象外だが、auスマートパスの“元が簡単に取れる”特典として注目度は高い。
例えば、週に2回デリバリーを利用し、1回につき500円の配達料がかかっていたとする。月にかかる配達料は、計4,000円だ。これに対し、auスマートパスプレミアムの料金は月額548円。差し引きすると、配達料や手数料だけで3,452円のプラスになっていることが分かる。これに加えて10%還元もある。1回の注文で3,000円使っていたとすると代金は2万4,000円で、ポイント還元は2,400ポイントにのぼる。
ちなみに、この試算は脳内で適当に数字をでっち上げたものではなく、筆者の利用スタイルに近い。子どもの幼稚園が休みになる土日の昼食もしくは夕食に、1回ずつフードデリバリーを利用するという計算だ。実際、5月は7回ほどサービスを利用していたため、当たらずとも遠からずといったところだろう。KDDIとmenuにとって残念なのは、その際に使ったサービスがmenuではなく、ソフトバンク傘下、LINE子会社の出前館だったところかもしれない(笑)。
menuのメリット、auのメリット
今回の特典強化は、そんな筆者に、出前館からmenuへの乗り換えを検討させるほどお得なものだ。
配達料が無料となれば、これまでフードデリバリーサービスでオーダーしていなかったものを取り寄せることも考えられる。最初に挙げた、ローソンはその一例。忙しくてどうしても手が離せないときに、電池1パックなり、ティッシュ1箱なりを持ってきてもらうことも十分ありえる。1人だと注文しづらかったランチにも、利用できそうだ。
その意味で、menuにとってのメリットは明らかだ。auスマートパスプレミアムには、3月末時点で1,246万人の会員がいる。このユーザーの一部をmenuに送客できる効果は大きい。過去の特典でも、「au ID連携済みの方は初回注文率が1.6倍、注文単価が1.3倍、さらに大きいのは継続注文率が3倍以上に伸びている」(KDDI パーソナル事業本部 サービス統括本部 副統括本部長 大野高宏氏)といい、影響のほどがうかがえる。
提携強化の発表やその後の反響を見ると、menuが主体になった解説が比較的多かった印象を受ける。一方でKDDIとmenuが「相互送客」をうたっているように、auスマートパスプレミアムを伸ばす効果もありそうだ。上述のように、auスマートパスプレミアムは1,246万契約と規模が大きいものの、auのユーザー数を考えると、まだまだ開拓の余地があるからだ。
KDDIが開示している「マルチブランドID数」は3,097.4万。同社代表取締役社長、高橋誠氏によると、auユーザーはそのうちの8割程度だという。ざっくり計算すると、2,500万弱がauユーザーで、auスマートパスプレミアム付帯率は50%に満たない。auと銘打ってはいるが、auスマートパスプレミアムはキャリアフリーのサービス。UQ mobileやpovo2.0はもちろん、ドコモやソフトバンクのユーザーも契約できる。こうした点を踏まえると、1,246万という数はまだまだ伸ばせるようにも見える。
「auのサブスク」の価値を高められるか
そもそもの話をすると、auスマートパスプレミアムは、さまざまなコンテンツやお得なポイント還元、さらには端末の修理補償などをパックにしたサブスクリプションのサービスだ。直接的な割引には、TOHOシネマズの映画が月曜日に800円割引になったり、ローソンで使えるau PAYのクーポンが毎週50円ぶんもらえたり、au PAYマーケットで一部商品の送料が無料になったりといったものがあり、月額料金の元を取れるような特典は多い。menuの特典も、こうしたものの一環と言える。
ただ、映画を特定の曜日に見られないことはままある。近所にあるコンビニも、ローソンとは限らない。さらに、ECはやっぱり楽天やYahoo!と決めていたりすると、お得さを感じづらいのも事実だ。
複数のサービスがバシッとライフスタイルにはまればいいが、どれか1つか2つぐらいだと、月額料金を払うサービスとしては少々弱い。iPhoneの補償サービス目当てに入り、アクティブには使っていないというユーザーもいるはずだ。
nemuはフードデリバリーという特性上、どうしても都市部に強いサービスになるが、47都道府県への進出が競合のUber Eatsより早く、全国区のサービスだ(ただし3月に一部地域でサービスを中断)。配達料が無料になるのであれば、auスマートパスプレミアムの月額料金の“元”は簡単に取れる。この特典を目当てに、auスマートパスプレミアムに加入するのもアリになったというわけだ。
KDDIはmenuとの提携を強化するにあたり、「デリバリーに強いサブスクへ」とうたっているが、これはauスマートパスプレミアム自体の売りをより明確にしたい意思の表れと言えるだろう。
競合のサービスを見ると、Yahoo!のYahoo!プレミアム会員は2,300万を超える。Yahoo!プレミアムは、ソフトバンクやワイモバイルのユーザーに無料で提供しているため、その上乗せがあり、単純には比較できないが、規模感ではauスマートパスプレミアムより大きく、Yahoo!ショッピングなどの経済圏活性化に寄与している。menuの特典だけでauスマートパスプレミアムがその状況を挽回できるわけではないものの、このようなお得感のあるサービスをいかに提供していけるかに、今後のゆくえが左右されそうだ。