石野純也のモバイル通信SE

第2回

Xperia 1 IVと望遠ズームの時代。スマホカメラ進化の系譜

ソニーは、望遠カメラでの“ズーム”を可能にした「Xperia 1 IV」を発表した

5月11日、ソニーがスマートフォンXperiaの最新モデル「Xperia 1 IV」を発表した。Xperiaは、'19年に発売した「Xperia 1」でフルリニューアルを果たし、ソニーグループの持つ技術をより積極的に取り込むようになった。翌20年に発売された「Xperia 1 II」では、1/1.7型センサーやデジカメの「α」で培ったユーザーインターフェイス(UI)をスマホ用に最適化した「Photography Pro」を導入。'21年の「Xperia 1 III」では、望遠カメラを強化し、70mmと105mm、2つの焦点距離を選択できるようになった。

Xperia 1 IVは、この望遠部分をさらに進化させ、スマホとして初めて望遠カメラに正真正銘の“ズーム”を導入した。

ソニー「Xperia 1 IV」発表、85mm-125mm光学ズームやライブ配信強化

ソニー、世界初の望遠光学ズーム搭載「Xperia 1 IV」

スマホ初 望遠カメラに光学ズーム。これまでの経緯

“望遠カメラ”と限定したのは、ASUSが'16年に発売した「ZenFone Zoom」に光学3倍ズームが搭載されていたため。Xperia 1 IVのメインカメラは24mm固定で従来モデルと変わっていないが、望遠のみ85mmから125mmの間で光学的にズームがかけられるようになっている。

85mmと125mmの間は、光学ズームになる。デジタルズームとは違い、解像感が劣化しないのが最大のメリットだ

逆に言えば、24mmから85mmの間はデジタルズームでつなぐ必要があるが、ここは元々の画質が高く、超解像技術を使えば比較的画像が荒れづらい。センサーサイズが小さく、デジタルズームで解像感が劣化しやすいのはどちらかと言えば望遠側。85mmから125mmの間を光学的にズームできるようにしたのは、それを防ぐためだ。ポケットに収まるサイズ感が求められるスマホでは、望遠カメラの搭載は技術的な難度が高いが、ソニーは新たなアプローチでそれを解決した格好になる。

スマホは薄さが求められるゆえに、長さが必要な望遠レンズを載せづらい。そのために、さまざまなアプローチが取られてきた。写真のXperia 1 IVも、8.2mmと非常に薄型だ

この難度の高さゆえに、スマホでは望遠やズームに対し、さまざまなアプローチが取られてきた。

最初に定着したのが、2つ以上のカメラを搭載し、焦点距離を切り替える方式。「デュアルカメラ」や「トリプルカメラ」がこれにあたる。今ではどちらも比較的当たり前の仕様で、ミドルレンジモデルでも2つ、3つほどのカメラが搭載されているが、ソニーがフラッグシップモデルにトリプルカメラを採用したのは、上記のXperia 1('19年発売)が初めて。

ソニーが望遠カメラ込みのトリプルカメラを採用したのは、'19年発売のXperia 1が初めて。意外と望遠カメラに対する取り組みは遅かった

アップルも、'16年に発売された「iPhone 7 Plus」で初めて約2倍の望遠カメラを搭載している。サムスンは、'18年の「Galaxy S8+」で望遠カメラを採用した。デュアルカメラの先駆け的な存在だったファーウェイも、当初はカラーセンサーとモノクロセンサーのデュアルカメラ構成で、ボケや感度向上のために複数のカメラを利用している。フラッグシップモデルに望遠カメラが搭載されたのは、'18年の「P20 Pro」から。ここ5、6年の間で、一気にスマホの複眼化が進んできたと言えるだろう。

iPhoneが望遠カメラを搭載するのは意外と早く、'16年のiPhone 7 Plusで初採用。以降、徐々に他社にも広がっていった
Galaxyは'18年のGalaxy S8+で望遠カメラを採用

ペリスコープ型レンズの登場

一方で、スマホのボディに収めるため、複数のカメラを載せても、広角側から見て2倍から3倍程度の望遠がスマホの限界だった。それ以上になるとデジタルズームがかかり、どうしても画質が劣化してしまう。望遠におけるブレークスルーになったのが、「ペリスコープ型レンズ」の登場である。

ペリスコープとは潜水艦などに搭載される潜望鏡のこと。光を反射させて方向を変えることで、望遠に必要な長さを稼ぐことができる。スマホの場合、厚みの方向にはどうしても長いレンズが収まらないため、横方向に光を曲げ、距離を稼ぐために使われている。ペリスコープ型のレンズを初めて搭載したのも、上記のZenFone Zoomだが、登場があまりに早すぎたためか、しばらくは定着しなかった。

色々と早すぎてオーパーツ感があるZenFone Zoom。ペリスコープ型で、かつXperia 1 IVと同様の光学ズーム機能を搭載していた

そんなペリスコープ型の望遠カメラが一気に注目されるようになったのは、'19年のこと。OPPOとファーウェイという中国の2大メーカーがしのぎを削り、フラッグシップモデルへの採用が進んでいった。

まずOPPOは、2月にスペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress(現・MWC Barcelona)で焦点距離が159mmのペリスコープ型カメラを発表。デジタルズームと掛け合わせることで、計10倍まで劣化の少ないズームを可能にするとした。

OPPOはペリスコープ型モジュールとそれを使った10倍ズーム技術を19年のMWCで発表

これに対し、ファーウェイはMWC終了直後の3月に、125mmのペリスコープ型望遠カメラを備えた「P30 Pro」を発表。製品化では、OPPOを出し抜いた格好だ。その後、OPPOは上記の技術を採用した「Reno 10x Zoom」を発表。いずれのモデルも日本で発売され、フラッグシップモデルで5倍以上の望遠カメラが徐々に定着していくことになる。これが'19年ごろの話だ。

製品発表はファーウェイの方が早く、P30 Proにペリスコープ型の望遠カメラを搭載した。同機は、国内でドコモが独占的に販売している

ただ、24mm前後の標準カメラとペリスコープ型の望遠カメラを搭載しただけだと、1倍の次が5倍、6倍程度になる。これだと、ちょっとズームしようとカメラを切り替えただけで、被写体の一部が思いっ切りクローズアップされてしまう。

そんな「望遠寄りすぎ問題」を解決するため、メーカーが取った策は非常にシンプル。ある意味力業だが、標準カメラとペリスコープ型望遠カメラの間に、もう1つ望遠カメラを載せるソリューションがそれだ。

例えば、'21年に発売された「Galaxy S21 Ultra 5G」には、通常の3倍望遠とペリスコープ型を採用した10倍望遠の2つが搭載されている。確かにこの方が、段階的に被写体に寄ることができ、使い勝手がいい。10倍ズームを駆使する場面は限定されるため、より現実的なカメラの構成になったと言えそうだ。

Galaxy S21 Ultra 5Gは、1倍と10倍の間に、ポートレートなどで使い勝手のいい3倍望遠カメラを採用

Xperia 1 IV望遠ズームの理由

ただ、そのぶん背面に搭載されるレンズの数が増えてしまい、どうしてもゴテゴテしたデザインになってしまうのが難点。これは、4月に発売されたばかりの後継機である「Galaxy S22 Ultra」でも解決されなかった。

一方で、ソニーは先に挙げたように、Xperia 1 IIIで望遠カメラをペリスコープ型にしつつ、レンズの中を機械的に動かし、70mmと105mmの切り替えを可能にした。2つのカメラを1つにまとめてしまえば、見栄えがよくなるうえに、センサーの数も1つ減らすことが可能になる。

Xperia 1 IIIでは、70mmと105mmを1つのカメラでまかなえるようにうなった

望遠やズームには、これらとは異なるアプローチも存在する。グーグルはデジタルズームによる画質の劣化をAIで強力に補正する「超解像ズーム」を'19年発売の「Pixel 3」に採用。'21年の「Pixel 6 Pro」では、ペリスコープ型の4倍望遠カメラとこの技術を融合させ、最大20倍のズームを実現している。これはほかのメーカーも同じで、例えばGalaxy S22 Ultraでは、10倍望遠とデジタルズームの掛け合わせで、最大100倍までズームすることができる。

それをさらに進化させたのが、今回登場したXperia 1 IVだ。望遠のズームというと唐突な印象を受けてしまう方もいるかもしれないが、スマホカメラの進化の流れを踏まえると、ある意味搭載すべくしてした機能に見える。デジカメのような高倍率のズームができないというのは、スマホメーカー全体に共通した課題だったからだ。

メインカメラでの画質では違いが見えづらくなっている中、望遠やズームでの差別化競争は今後もさらに激化していくだろう。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya