石野純也のモバイル通信SE
第2回
Xperia 1 IVと望遠ズームの時代。スマホカメラ進化の系譜
2022年5月12日 00:01
5月11日、ソニーがスマートフォンXperiaの最新モデル「Xperia 1 IV」を発表した。Xperiaは、'19年に発売した「Xperia 1」でフルリニューアルを果たし、ソニーグループの持つ技術をより積極的に取り込むようになった。翌20年に発売された「Xperia 1 II」では、1/1.7型センサーやデジカメの「α」で培ったユーザーインターフェイス(UI)をスマホ用に最適化した「Photography Pro」を導入。'21年の「Xperia 1 III」では、望遠カメラを強化し、70mmと105mm、2つの焦点距離を選択できるようになった。
Xperia 1 IVは、この望遠部分をさらに進化させ、スマホとして初めて望遠カメラに正真正銘の“ズーム”を導入した。
スマホ初 望遠カメラに光学ズーム。これまでの経緯
“望遠カメラ”と限定したのは、ASUSが'16年に発売した「ZenFone Zoom」に光学3倍ズームが搭載されていたため。Xperia 1 IVのメインカメラは24mm固定で従来モデルと変わっていないが、望遠のみ85mmから125mmの間で光学的にズームがかけられるようになっている。
逆に言えば、24mmから85mmの間はデジタルズームでつなぐ必要があるが、ここは元々の画質が高く、超解像技術を使えば比較的画像が荒れづらい。センサーサイズが小さく、デジタルズームで解像感が劣化しやすいのはどちらかと言えば望遠側。85mmから125mmの間を光学的にズームできるようにしたのは、それを防ぐためだ。ポケットに収まるサイズ感が求められるスマホでは、望遠カメラの搭載は技術的な難度が高いが、ソニーは新たなアプローチでそれを解決した格好になる。
この難度の高さゆえに、スマホでは望遠やズームに対し、さまざまなアプローチが取られてきた。
最初に定着したのが、2つ以上のカメラを搭載し、焦点距離を切り替える方式。「デュアルカメラ」や「トリプルカメラ」がこれにあたる。今ではどちらも比較的当たり前の仕様で、ミドルレンジモデルでも2つ、3つほどのカメラが搭載されているが、ソニーがフラッグシップモデルにトリプルカメラを採用したのは、上記のXperia 1('19年発売)が初めて。
アップルも、'16年に発売された「iPhone 7 Plus」で初めて約2倍の望遠カメラを搭載している。サムスンは、'18年の「Galaxy S8+」で望遠カメラを採用した。デュアルカメラの先駆け的な存在だったファーウェイも、当初はカラーセンサーとモノクロセンサーのデュアルカメラ構成で、ボケや感度向上のために複数のカメラを利用している。フラッグシップモデルに望遠カメラが搭載されたのは、'18年の「P20 Pro」から。ここ5、6年の間で、一気にスマホの複眼化が進んできたと言えるだろう。
ペリスコープ型レンズの登場
一方で、スマホのボディに収めるため、複数のカメラを載せても、広角側から見て2倍から3倍程度の望遠がスマホの限界だった。それ以上になるとデジタルズームがかかり、どうしても画質が劣化してしまう。望遠におけるブレークスルーになったのが、「ペリスコープ型レンズ」の登場である。
ペリスコープとは潜水艦などに搭載される潜望鏡のこと。光を反射させて方向を変えることで、望遠に必要な長さを稼ぐことができる。スマホの場合、厚みの方向にはどうしても長いレンズが収まらないため、横方向に光を曲げ、距離を稼ぐために使われている。ペリスコープ型のレンズを初めて搭載したのも、上記のZenFone Zoomだが、登場があまりに早すぎたためか、しばらくは定着しなかった。
そんなペリスコープ型の望遠カメラが一気に注目されるようになったのは、'19年のこと。OPPOとファーウェイという中国の2大メーカーがしのぎを削り、フラッグシップモデルへの採用が進んでいった。
まずOPPOは、2月にスペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress(現・MWC Barcelona)で焦点距離が159mmのペリスコープ型カメラを発表。デジタルズームと掛け合わせることで、計10倍まで劣化の少ないズームを可能にするとした。
これに対し、ファーウェイはMWC終了直後の3月に、125mmのペリスコープ型望遠カメラを備えた「P30 Pro」を発表。製品化では、OPPOを出し抜いた格好だ。その後、OPPOは上記の技術を採用した「Reno 10x Zoom」を発表。いずれのモデルも日本で発売され、フラッグシップモデルで5倍以上の望遠カメラが徐々に定着していくことになる。これが'19年ごろの話だ。
ただ、24mm前後の標準カメラとペリスコープ型の望遠カメラを搭載しただけだと、1倍の次が5倍、6倍程度になる。これだと、ちょっとズームしようとカメラを切り替えただけで、被写体の一部が思いっ切りクローズアップされてしまう。
そんな「望遠寄りすぎ問題」を解決するため、メーカーが取った策は非常にシンプル。ある意味力業だが、標準カメラとペリスコープ型望遠カメラの間に、もう1つ望遠カメラを載せるソリューションがそれだ。
例えば、'21年に発売された「Galaxy S21 Ultra 5G」には、通常の3倍望遠とペリスコープ型を採用した10倍望遠の2つが搭載されている。確かにこの方が、段階的に被写体に寄ることができ、使い勝手がいい。10倍ズームを駆使する場面は限定されるため、より現実的なカメラの構成になったと言えそうだ。
Xperia 1 IV望遠ズームの理由
ただ、そのぶん背面に搭載されるレンズの数が増えてしまい、どうしてもゴテゴテしたデザインになってしまうのが難点。これは、4月に発売されたばかりの後継機である「Galaxy S22 Ultra」でも解決されなかった。
一方で、ソニーは先に挙げたように、Xperia 1 IIIで望遠カメラをペリスコープ型にしつつ、レンズの中を機械的に動かし、70mmと105mmの切り替えを可能にした。2つのカメラを1つにまとめてしまえば、見栄えがよくなるうえに、センサーの数も1つ減らすことが可能になる。
望遠やズームには、これらとは異なるアプローチも存在する。グーグルはデジタルズームによる画質の劣化をAIで強力に補正する「超解像ズーム」を'19年発売の「Pixel 3」に採用。'21年の「Pixel 6 Pro」では、ペリスコープ型の4倍望遠カメラとこの技術を融合させ、最大20倍のズームを実現している。これはほかのメーカーも同じで、例えばGalaxy S22 Ultraでは、10倍望遠とデジタルズームの掛け合わせで、最大100倍までズームすることができる。
それをさらに進化させたのが、今回登場したXperia 1 IVだ。望遠のズームというと唐突な印象を受けてしまう方もいるかもしれないが、スマホカメラの進化の流れを踏まえると、ある意味搭載すべくしてした機能に見える。デジカメのような高倍率のズームができないというのは、スマホメーカー全体に共通した課題だったからだ。
メインカメラでの画質では違いが見えづらくなっている中、望遠やズームでの差別化競争は今後もさらに激化していくだろう。