キャッシュレス百景

第18回

本音を言えば、僕は”ひとつ”しかいらない by 本田雅一

ひとことでキャッシュレスと言っても、実に多様な特徴を持ったサービスがある。

LINEなど連絡ツールとしてインストール率が高いことを背景としたもの、メルカリ/メルペイのように本来的に何らかの対価が行き交うサービス内の引当金を背景としたもの、PayPayのように企業グループ内の各種サービスをまたがったキャッシュレスサービスのインフラとして位置付けられているもの……などなど。

これらにFeliCaをバックボーンとした従来からある電子マネーなども含めれば、実に多くの選択肢があることになり、上記の分類とは別の切り口もあるため、無数の特徴的なキャッシュレスサービスが考えられる。

Suica

が、利用者としての立場から言えば「とにかくサービスの種類は少ない方がいい」というのが正直な気持ちだ。

キャンペーン終わっても使い続けますか?

キャッシュレスサービスの魅力。その本質とはなんだろう?

単に”キャッシュレス”というだけであれば、都市生活を送る日本人は長らくFeliCaを用いたシステムに長らく接してきた。バーコードやQRコードを用いて通信端末上のカメラやディスプレイを用いる、いわゆるスマホ決済は店舗への導入コストを下げ、個人間決済までサポートするという点で、もちろん新しさはある。

しかし、多くの人が使う理由のひとつに“お得感”があることは説明するまでもない。

現金を扱わず、短時間にミスを誘発することなく決済できるキャッシュレスサービスはお店側からみれば、お金を扱う際のハンドリングコストが安くなる(ミスも減らせる)など利点も多く、運営会社はお店側が受けるメリットを手数料という形で受け取る。

その手数料から、利用金額に応じてお得感をユーザーにフィードバックできるわけだ。
しかし現時点での”お得感”と言えば、そうしたレベルの話ではない。

キャッシュレスサービスにおけるシェア争い激化の中で、将来はいくつかのサービスに収斂していくだろう……といった業界再編後の風景を見越して、少しでも他社の前に行き残存者として利益を得るため、シェアやブランド力を高めるためのマーケティング予算を大量に投入。

そのマーケティング予算がこそが“キャンペーンの原資”なのだから、言うまでもなく現在の“お得感”は作られたもの。消費者としては、よく見極めて一番お得な決済サービスを使えばいい……ということだけど、あくまでも”マーケティング予算”に基づいたものなのだから、そのキャッシュレスサービスがどれだけお得かという”実力値”で選んでいるわけではない。

将来、マーケティング予算という“下駄部分”がなくなっても、果たしてそのサービスを使い続けるだろうか?

キャッシュレスサービスに“ブランド価値”はあり得るのか?

巨額のポイントバックキャンペーンで、一躍、その名前が知られたPayPayは、そのおかしなネーミングがすっかり定着。個人的には昨年末の第一弾から、今年実施された第二弾の100億円キャンペーンで当選確率を最大にしていたにも関わらず36連敗を喫したものの、それでもコンビニなどでの少額決済で繰り返し発生するキャッシュバックもあって、まだ手元には3,500円ほどのポイントが残っている。

100億円キャンペーンは終了したものの、ドラッグストア向けに新たなキャンペーンを張り最大20%のポイントが戻ってくる。まだ少しの間、PayPayとの付き合いは続きそうだ。

しかし、持っているポイントがなくなったあとにもPayPayを使い続けるか? というと、そうしたイメージは持つことができない。

PayPayの魅力はバツグンの認知度と、巨額キャンペーンに続いて少額決済に絞ったポイントバックを仕掛けることで獲得した個人商店や飲食店を含む幅広い導入店などだが、ポイントバックによる後ろ盾がなくなれば、筆者はSuicaなど交通系電子マネー、あるいはnanacoやWAONといった流通系電子マネーに戻っていくと思う。

キャッシュレスサービスは決済する金額が多いほど収益が上がるため、“端末へのインストール数”、“店舗への普及”、“利用する習慣”の三つの要素を強化するため、あの手この手のキャンペーンを打ち出しているのだろうが、ブランドとしての定着は可能なのだろうか?

PayPayは第一弾のキャンペーンで、年末に高額商品を購入する機会が多いテクノロジ系ニューストレンドに敏感な層などを一気に取り込み、第一弾の告知効果が一般層にも拡がったところで”ゆるく、ながく”続くキャンペーンに切り替えた。現在は利用者動向を見据えながらなのだろう。

PayPayの認知、利用習慣などにどこまでの価値があるのかは、正直、まったくわからない。

まったく別業種ではあるが、かつてYahoo! BBが”お得”を前面に押し出し、“バラマキ”に近い状況で日本にブロードバンドを普及させ、日本のネット事業環境は大きく前に進んだ。大きく社会を変える出来事ではあったが、現在はソフトバンクブランドへと同グループのネット接続事業は移管され、Yahoo! BBは新規受付を終了している。

“本音はひとつだけ”で充分

ところで色々なキャンペーンがある中でも、僕は複数のキャッシュレスサービスを同時に併用することをしてこなかった(サービス内容を確認する程度のインストールはするけれども)。本音で言えば、電子マネーはもっともよく使うひとつだけに絞りたいと思うからだ。

クレジットカードを背景としたポストペイは別として、あらかじめチャージして支払うプリペイドを複数持つことは、現金を持ち歩く財布を複数作り、そこにそれぞれ一定量の現金を入れておくようなものだ。

複数サービスに分けて現金を入れていたからといって、その価値が減じられるものでもないが、正直、あまり“たくさんの種類を持っていたい”とは思わない。PayPayをこれからも使い続けるイメージが湧かないのも、ポイントがなくなれば、他のお得なサービスに切り替えればいい……PayPayだけでなく特定のサービスに思い入れなどないからに他ならない。

おそらく次に使うキャッシュレスサービスは、年末にカメラ機材などを処分した際にポイントが貯まっているメルペイだろうか。しかし、こちらも手持ちのポイントがゼロになっても使い続けるか? と問われれば、やはりイメージが湧かない。

基礎となる会員コミュニティがあるLINE Payはワリカンする際に便利そうではあるが、そこまで積極的にはなれない。

結局のところ都心に住み、移動手段のほとんどを電車に頼っている僕としては、絶対に手放せないのはSuicaだけ。もちろん、Suicaは導入コストが高く相互送金できないなど、スマホ決済とは別のサービスだが、お得なキャンペーンなしでも「それを使う理由」が明確に存在する。

僕の本音は、“Suica以外の決済手段は不要かな”というものだが、もしスマホ決済を追加するとしても、使い続けるのはひとつだけだろう。そうした意味では、キャッシュレス推進協議会が取りまとめ、経済産業省が推進しようとしている統一QRコード「JPQR」の動向が気になるところだ。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。