ミニレビュー
スマホライブ配信をレベルアップ。ローランド「GO:LIVECAST」
2020年2月19日 07:45
ローランドが1月25日に発売した「GO:LIVECAST」は、スマートフォンに特化したライブ配信用のデバイスだ。
ライブ配信用の機器というと高額な製品が多いが、GO:LIVECASTは実売約28,000円と比較的低価格で入手できるのが特徴。スマホでのライブ配信に特化したという独自性が注目を集め、1月に本製品が出展された「CES 2020」では、ガジェット系メディア「How-To Geek」の「Best of CES 2020」、TIME誌の「Best Products」に選ばれるなど話題にもなった。
なお、本製品はすべてのスマホで利用できるわけではない。2月19日時点での対応スマートフォンはiPhone 8以降とiPad、AndroidはGalaxy S8/S9/S10、Mate 10 ProやXperia 1など。ローランドでは対応機器のリストを公開しているが、まずは自分のスマホが対応しているか確認するのが重要だ。
手のひらサイズの小型軽量。モバイルバッテリーでも動作
GO:LIVECAST本体の外形寸法は107×138×53mm、重量は180g。片手で持てる程度のサイズで、重量も軽く取り回しやすい。電源はMicro USB経由で、消費電流が330mAと低めのためモバイルバッテリーでの運用も可能だ。
本体には1~6の番号がついたボタンを装備。演出効果用のもので、ボタンを押すことで、ライブ配信にさまざまな演出を追加できる。利用できる演出は「写真・動画」「テキスト」「効果音」「ミュージック」など。
入力端子は右側面にマイク端子、左側面にヘッドセット用のステレオミニ端子とLINE IN用のステレオミニ端子を搭載。左側面のつまみはそれぞれの音量を調整できる。本体前面には無指向性のマイクを搭載する。
本体前面のつまみは右側が音量、左側がマイクの感度だ。ボタン類の一番右上に配されているのはミュートボタンで、マイクの音声をオフにできる。
スマートフォンとの接続は背面のMicro USBポートで行なう。スマホ接続用にLightning to USB Micro-BケーブルとUSB Type-C to USB Micro-Bケーブルという特殊なケーブルを同梱している。一般的なLightningやUSB Type-Cケーブルは反対側がUSB Type-Aのため、それらのケーブルは使い回せない。
給電用のMicro USBケーブルも同梱されているが、ACアダプタは別途用意が必要。さらにスマホを充電しながら配信したい場合は、別途アダプタやケーブル類が必要になる。長時間のライブ配信などでは、別途周辺機器を用意したい。
スマホのライブ配信にさまざまな機能を取り込む
ボタンやインターフェイスが多いGO:LIVECASTは、ライブ配信の機材に慣れていない人からすると、「できること」がわかりにくい面もある。今回はGO:LIVECASTの機能を大きく「音」「演出」「2画面」「ライブ配信」の4つに絞って紹介する。
まず前提として理解しておきたいのが、GO:LIVECASTはライブ配信用の機器だが、ライブ配信そのものを行なうハードウェアではないということ。
ライブ配信の仕組みは、カメラ映像をライブ配信するためのデジタル形式に変換し、そのデータを対応サービスからストリーミング配信する、という流れだ。このデジタル形式への変換をエンコード、エンコードを行なうためのアプリケーションやハードウェアをエンコーダと呼ぶ。
上記を踏まえてGO:LIVECASTの仕組みを見てみると、カメラの映像のほか、エンコードもスマートフォン側で行なう。GO:LIVECASTが担うのはライブ配信の音声や演出、サブ画面などを映像に挿入することで、ライブ配信のクオリティを上げる補助的な役割だ。
外部マイクの取り込みでライブ配信の音質を大幅に向上
GO:LIVECASTの要とも言える機能が、外部マイクを使った音声の取り込みだ。というのも、ライブ配信にとって音は非常に重要な存在だから。
ライブ配信を実際に見る側からすると、画質が悪くて映像が見えにくいよりも、音質が悪くて何を言っているのかが聞き取りにくいことのほうが、遙かにストレスを感じてしまう。
最近はスマホのカメラの画質が向上し、デジタルカメラと遜色ない映像が撮影できるようになっているが、その画質ほどマイクの品質は高まっていない。また、ライブ配信の際にはスマホを自分からある程度離れた場所におく必要があるため、マイクの位置が物理的に遠くなってしまうという課題もある。
そこで出番となるのがGO:LIVECASTだ。GO:LIVECASTは本体に無指向性のマイクを内蔵するほか、外部音声入力としてマイク端子とLINE IN端子を搭載。カラオケで使うような本格的なマイクはもちろん、スマートフォンやゲームで使うヘッドセットなどの音声入力も可能で、音質を手軽に向上できる。
音質そのものは接続するマイクにも影響されるのだが、離れた場所にあるスマホのマイクに比べれば高品質での配信が可能だ。また、マイク端子とLINE INは併用できるため、外部マイクを使いながらヘッドフォンで内容をチェックする、あるいは2人でそれぞれマイクを使って収録する、という使い方もできる。
リバーブ機能も備えており、残響効果を付け加えられる。また、側面の端子にスマートフォンやミュージックプレーヤーを接続し、音源を取り込んでライブ配信で使うこともできる。
なお、本体内蔵のマイクは、音質自体は高いものの、マイク周辺の本体ボタンを操作するだけで操作音を拾ってしまうため、演出を多用するような環境では使いにくい。GO:LIVECASTで配信するならできるだけ外部マイクを併用し、本体マイクを使う場合はボタン操作を行なわないようにするのがいいだろう。
映像や音楽、テキストなどさまざまな演出を追加
続いての特徴が演出効果。本体前面に1~6の番号とともに配されたボタンを押すことで、ライブ配信にさまざまな演出を追加できる。
利用できる演出は「写真・動画」「テキスト」「効果音」「ミュージック」の4種類で、初期状態では下記の演出が本体ボタンに割り当てられている。
・音楽
・映像
・静止画
・テキスト
・ドラム音
・拍手
それぞれの演出はアプリにプリセットが用意されているほか、スマートフォンに保存された素材を取り込んで使うこともできる。
ボタンにはそれぞれの演出効果を表わすイラストが描かれているが、設定済みの演出を長押しで削除し、別の演出を割り当てることもできる。6個のボタンすべてをテキストに割り当てる、というカスタマイズも可能だ。
別のスマホ画面を使った2画面ライブ配信も
面白いのが2画面機能。スマホをもう1台用意することで、別のカメラ映像を配信に組み込める。
この機能も厳密にはGO:LIVECAST本体の機能ではなく、スマートフォンアプリ側の機能だ。動作条件としては2台のスマートフォンにGO:LIVECASTのアプリをインストールしてあり、さらに同じ無線LANネットワークに接続していること。この状態で2台目のスマートフォンから「サテライト・カメラ」を選択すると自動的にカメラが認識される。
サテライト・カメラの表示はPinP(ピクチャ・イン・ピクチャ)またはワイプと呼ばれる2画面の同時表示のみで、2つの画面を切り替えるスイッチには対応していない。また、PinPは表示位置を左上、中央、右下から選べるが、細かな位置調整やサイズ変更などは対応しない。縦表示の場合は中央を選ぶことでサテライト・カメラの画面がメイン画面全体に表示され、擬似的にスイッチ的な画面入れ替えとして活用できる。
サテライト・カメラの表示モードはアプリからは自由に選択できるが、本体ボタン操作の場合はアプリで最後に選択したモードが割り当てられる。演出系の機能はボタンの割り当てを変えることで。複数ボタンに割り当てることができたが、サテライト・カメラは専用ボタン1つのみだ。PinPの表示位置を使い分けたい、という時は本体ではなくアプリで切り替える必要がある。
なお、サテライト・カメラでもう1台のスマホを利用する場合は同じOS同士が推奨されており、異なるOSの場合は画像が乱れる可能性があるという。
ライブ配信は標準で4サービスに対応。YouTubeは利用に制限も
GO:LIVECASTの主目的であるライブ配信は、「Facebook Live」「YouTube」「Twitch」「ツイキャス」の4サービスに標準で対応。また、ライブ配信に必要なRTMPの設定を入力することで、上記以外のサービスでも配信可能で、録画機能も用意されている。
対応サービスであれば、サービスの方式に従ってログインし、配信の際にサービスを選んで「配信スタート」を選択するだけでライブ配信できる。対応サービス以外でも、RTMP設定を入力して使えるが、配信サービスによって解像度やフォーマットなどの仕様が異なるため、すべてのサービスに対応しているわけではない。例えばニコニコ生放送では配信できるが、LINE LIVEは現時点で非対応となっている。
このほかにも細かな制限がいくつかあり、Facebook Liveは個人のタイムラインでのみ配信が可能で、Facebookページやイベントページでは配信できないほか、友達のみに配信した場合にはコメントが表示できない。また、ツイキャスはプライベート配信非対応で、配信する際は常に全体公開となる。
GO:LIVECASTの制限ではないが、最も影響が大きいと思われるのはYouTubeだ。
というのもスマホでYouTubeのライブ配信を行なうには1,000人以上のチャンネル登録が必須になるため。これからYouTubeでライブ配信を始める人にとって、1,000以上のチャンネル登録を集めるのは相当にハードルが高い。
とはいえYouTubeで完全にライブ配信ができないわけではなく、YouTubeの管理画面からRTMPの設定を取得し、アプリに入力することでCustum RTMP経由での配信は可能だ。ただし、RTMPの設定はスマートフォンから取得できないため、PCから取得してスマートフォンへ送る、という作業が必要になる。
また、リアルタイムのライブ配信ではないものの、GO:LIVECASTで録画したファイルを別途YouTubeにアップロードする、という手もある。YouTuberのようなオンデマンド番組を配信したいのであれば、面倒な手順を行なわず録画するのもいいだろう。
割り切りをうまく活用できるかが鍵
筆者はライブ配信機器を開発するメーカーに勤めていたこともあり、ライブ配信については一定の知見を持っているつもりだが、これまでライブ配信は手軽だが品質はそこそこなスマートフォン、品質は高いが機材が高額になるPCやライブ配信機器という大きく2つに分かれている。
そうしたライブ配信市場において、カメラや配信機能はスマートフォンに頼ると割り切り、音や演出などそれ以外の部分を補助するというGO:LIVECASTの立ち位置はとても面白い。実売で3万円を切る価格も、ワンランク上のライブ配信をやってみたい、という中級者には手頃だろう。
惜しむらくはiOS以外の対応スマートフォンの現時点での少なさ、そしてYouTubeをはじめとしたライブ配信での細かな制限だ。YouTubeに関してはローランドの問題ではないためどうしようもないものの、YouTubeで1,000登録もあるユーザーはすでにそれなりの機材をそろえているだろうし、これからYouTubeでのライブ配信を始めたい人にとっては高いハードルだ。
とはいえ、YouTubeについては前述の通り多少手間にはなるがPC経由でライブ配信を行なう方法も残されてはいるので完全にできないわけではない。まずは自分が配信したいサービスの対応状況を確認した上での導入を検討するならば、ワンランク上の配信を実現するためのよいツールになるだろう。