from Impress
ChatGPTの上手な使い方 検索よりも視野が広がる
2023年6月12日 09:00
ニュースで見ない日はない、今話題の対話型AI・ChatGPT。このChatGPTを初心者にもわかりやすくまとめたのが『先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来』です。
『先読み!IT×ビジネス講座』シリーズの第3弾として今年4月に発売されて以来、続々重版を重ね、すでに8万部を記録しています。ChatGPT本として驚くほど売れているこの本の著者2人・古川渉一さんと酒井麻里子さんに、書籍制作の背景や生成AIの未来図について伺いました。
この記事はインプレス 出版事業部 公式noteの『話題書の著者対談|ChatGPTのベストセラー本が教えてくれる未来』(文:小澤彩)の内容を転載しています(編集部)
本が爆発的に売れた理由は「スピード感」と「わかりやすさ」
――本書は、古川さんと酒井さんの対話形式で易しく解説されているので、初心者の私でも内容がすらすら頭に入ってきました。ベストセラーになった理由は何だと思われますか。
古川渉一さん(以下、古川)「ひとえにタイミングがよかったんだと思います。去年の12月1日(日本時間)にOpenAI社がChatGPTをリリース後、ChatGPTをわかりやすくきちんと説明した初めての本がこの書籍でした。ChatGPT本の先駆者になれたことが大きかったのではないかと思います」
酒井麻里子さん(以下、酒井)「ChatGPTリリース直後の、玉石混交の情報が錯綜している中にいち早く書籍を出版できたことが、ベストセラーにつながったのではないでしょうか。リリース後すぐに編集部から私と古川さんにオファーが入り、内容や構成を考えてお正月明けすぐにインタビューを数回行ないました。それをまとめて、3月中旬に校了、4月6日に発売されるというスピード感でした」
古川「もうひとつ、売れている理由があるとすれば、『わかりやすすぎる』ということだと思います。IT本やビジネス書は、“初心者向け”と謳っていても、蓋を開けると専門用語のオンパレードで、初心者は受け付けないような本がたくさんありますが、この本はそうはしたくなかった。初心者にとって“本当にわかりやすい”というポジションを獲りに行きました。
『先読み』と名前がついていますが、半年後、1年後に読んでもChatGPTの基本がまとまっていて、初心者が理解できるしっかりとした本を作りたい。制作中はそこを強く意識していました。結果として、それが読者の皆さんの心に届いたんだろうと思っています」
――書籍制作において、苦労した点はどんなことでしょうか。
酒井「とにかく情報の更新を書籍に反映させるのが大変でした。時差の関係で、日本時間の真夜中に新しい情報が発表されます。制作中は、朝起きると何か新しいニュースが出ているんじゃないかとSNSを確認するのが日課になっていました。校了した2日後にGPT-4がリリースされてしまい、『ああ、この情報も載せたかった!』となりましたよね、古川さん(笑)」
古川「そうなんです。とにかく生成AIをとりまく環境がめまぐるしく変化するので、それを原稿に落とし込むのが大変でしたね。このジャンルは現在、勢いが間違いなくすさまじいので、日々新しくなる情報の更新を反映しきれないという部分に、とても苦労しました」
生成AIがここまで盛り上がっている理由とは
──私たち一般ユーザーにとっては、リリースから今に至るまで、毎日のようにChatGPTの話題がニュースになっていて戸惑いもあります。今のAI事情を教えてください。
古川「現在、ChatGPTのユーザーは日本で100万人ほど。人口比でみると1%程度の市場規模です。新しいもの好きのイノベーター層が触り始めているだけで、日本では、まだまだこれからなんですよ。
GAFA、つまりGoogle・Amazon・Facebook・Appleというビッグテック企業では、とっくの昔に生成AIは出来上がっていたのですが、安全性を確保するまで一般公開なんてできないと、いわば隠し持っていた状態でした。そんな中、去年の夏にMidjourneyやStability AIといったスタートアップ企業が画像生成AIを一般公開して話題を集め、そして今回のOpenAIによるChatGPTのリリースへとつながっていきます。GAFAはこういったスタートアップに刺激をうけて、慌てて自社のAIを公開し始めたのが現状です。
ChatGPTはAPIを公開しているので、世界中がChatGPTを自社のシステムに組み込めることも、盛り上がりに拍車をかけています。どの会社もこぞってChatGPTを採用し、今はバブルのような状態といえるかもしれません。プレスリリースのタイトルに“ChatGPT”という文言を入れれば注目され、メディアに取り上げてもらえ、株価にも反応が出るという考えもあってか、リリースから1、2カ月間は過剰なまでのフィーバーでした。その活況も今はだいぶ落ち着いてきて、むしろ『まだAI入れてないの?』『AIにサポートされているのが当たり前だよね』っていう雰囲気になってきているように見受けられます」
酒井「GoogleドキュメントやNotion AIもそうですが、普段使っているツールに当たり前のように生成AIが新機能として備わるようになってきましたね。ChatGPTに登録していないユーザーでも、自分が使っているツールにAPIとして組み込まれたChatGPTを『何か新しい機能が追加されたんだな』という程度の感覚で使ってみるシーンは増えてくるのではないでしょうか」
古川「そう思います。AIのことを『AI、AI』と言っているうちはまだAI黎明期。今後は『アプリやWebサービスにはAIが入っていて当たり前だよね』という世界観になっていくと思います。
これからは技術的な問題というより、社会にAIがどれだけ受け入れられるかにかかっているでしょうね。例えば画像生成AIは、絵師さんの著作権問題が浮上してきています。AIのルール作り、法整備についてはこれからです。もしここでChatGPTに関するセンセーショナルな問題点や事件がひとつでも世に出てしまうと、世間からはネガティブな見方が強くなるでしょうし、ChatGPTによる大成功がクローズアップされれば、世間はポジティブに受け止めるようになる。結局のところAIの未来は、AIを社会がどう受け入れていくかにかかっていると思います」
専門家はChatGPTをこう使う!ちょっとしたテクニック公開
──ChatGPTに詳しいお2人ですが、仕事でChatGPTを使う場面はありますか。
古川「私は、いろいろな企業でセミナーをやるときに、
業種:
従業員規模:
売上高:
受講する社員の現状:
イベントの目的:
イベントのゴール:
といった情報をまず入力し、『このセミナーのタイトルと、セミナーの60分の構成案、タイムスケジュールを作ってください』とChatGPTに聞いています。想定内の回答が多いですが、意外と参考になりますよ!
また、キャッチコピーを考えるときにも使います。イベントのタイトルをどうしようか、と悩んだときにChatGPTに質問したところ、自分では考えつかないような文言を提案してくれました。例えば『いちごを使ったアフタヌーンティーのキャッチコピーを考えよう』なんてときに、『いちごの妖精がいざなう世界』なんてワード、気恥ずかしくて自分じゃ到底出せないじゃないですか! それをChatGPTは恥ずかしげもなく提案してくれる。『このキャッチコピーはChatGPTが考えてくれたんで』なんて感じに、AIを隠れ蓑にして出しちゃえばいいわけです(笑)。実際の広告やパッケージに使う段階では、人間が適切な表現に変える必要はありますが、オリジナリティを高めるプロセスで、AIをパートナーやアシスタントとして使うのは非常に有効だと思います」
古川「また、ネットで検索するより、対話型AIに質問したほうがいいケースもあります。例えば人はネットで検索するとき、『こういう答えを出してほしい』という視点から、結果ありきで答えを探します。でもChatGPTに質問すると『こういう意見もありますが、こういう意見もあります』と視野を広げてくれるような回答を返してくれる。いい意味で考えが広がるのではないかと思います」
酒井「私は長い文章を要約してもらうときにAIを使うことがありますね。ChatGPTのほか、Notion AIを使うことも多いです。ただ、記事の構成などを考える際は、決まりきった型になりがちなので、あまり使いません。
インタビューの質問を考えるときにも便利です。『このテーマで、読者は30代の男性』のようにセグメントをかけ、『こういう人が知りたいと思っていることを10個挙げてください』と質問します。ほぼ、私の考えと同じような回答が返ってきますが、中には1、2個は自分になかった視点のものがあったりする。そこから『もうちょっと詳しく教えてください』という感じで掘り下げていきます。
古川「ChatGPTがいくつもアイディアを出してくれたら、褒めるといいんですよ。対話型AIなので、『10個のうち、この2個がとても良かった』とまず褒めて、そのうえで『これと似たものをもっと出してみて』と依頼すると、自分の欲しいトーンに近いものをたくさん出してくれます。その中から選んだり、キーワードを拾ったりするのがおすすめの使い方です」
──えっ! ChatGPTを褒めるんですか。褒めると、出力結果に変化があるんですか?
古川「ChatGPTは、ネットにある大量の情報を頭に入れているわけです。インターネットと一口でいっても、言葉遣いの悪い掲示板もあれば、大学の教授が執筆しているようなアカデミックで堅めの文章もありますよね。質の高い情報があるエリアからデータを拾ってきてもらったほうが、正しい情報が手に入るはず。そこで、丁寧な言葉がけをするといいんです。実際に、命令口調で『キャッチコピーを書け!』というのと、『キャッチコピーを書いてください』『書いていただけますか』と質問した場合で、出力される文章の雰囲気や長さは変わってきます。
一方で、気を付けなくてはいけないのは、『AIは知らない領域だと嘘をつく』ということです。試しに自分の名前で、どんな人物か質問してみてください。ちんぷんかんぷんなことを、さも本当らしく言ってきますよ。自分が知らないことをAIに質問して、出力された答えを事実だと思ってはダメです。また、AIがどの部分で嘘をついているか、人間がすべてを見分けることはおそらくできません。ChatGPTの仕組みとして、ネットの情報をひたすら閲覧して頭に突っ込んでいるだけですから、情報が足りない分野については、不正確な情報を生成する可能性があるんです。だから、AIの出した回答結果をレポートに使うといった用途には向いていない。それはそもそもChatGPTに聞くべきではないですね。
また、機密情報をChatGPTに質問するのも控えましょう。ChatGPTに入力された情報は、システムを改善するために利用されることがあるからです」
ChatGPTを正しく知れば、AIが「人間の脅威」ではなくなる
──最後になりましたが、今後この書籍をどんな方に読んで欲しいですか。
古川「AIという言葉にアレルギー反応を持っていて、『怖い』『難しそう』『数式が出てくる』『AIのせいで仕事がなくなる』『人類が滅ぼされる』と思ってしまっている人にこそ手に取っていただきたいです。Webメディアに脅威とか恐怖を煽る記事があふれがちなのは、単にアクセスを集められるから。この本では変に楽観的にも悲観的にもならず、フラットに『AIとは、ChatGPTとはこういうもので、注意すべき点はここだよ』と解説しました。この本を読めば、きっと安心してChatGPTを使ってもらえると思います。
これだけ簡単に文章生成のAIが増え、気軽に使えるようになってきたので、私としてはこの対話型AIの技術を使って、もっと日本で起業する人が増えたらいいなと思っているんです。生成AIを上手に使って、世界で勝負できるプロダクトを、今の日本から生み出すきっかけにしてもらいたいですね」
酒井「AI関係のニュースにつく読者のコメントを見ていると、みなさん食わず嫌いというか、触ったことがないのにネガティブなイメージを持っている方が多い印象があります。この本を読めば、『AIなんてけしからん!』と食わず嫌いで思っている方に『そんなに悪いものでもないよ』と知っていただけると思います。『新しい技術を使うのって楽しいんだよ』『人間の脅威ではないから大丈夫』というところを感じていただけたらうれしいです」
──お話を伺って、ChatGPTが身近なものに感じられました。本を片手に、いろいろChatGPTに質問してみたいと思います。今日はありがとうございました。
・価格:1,540円
・発売日:2023年4月6日
・ページ数:176ページ
・サイズ:A5判
・著者:古川渉一 著/酒井麻里子 著
・内容
ch1 ブレイクスルーを起こした対話型AI
ch2 ChatGPTと会話してみよう
ch3 対話型AIはどんな技術で成り立っている?
ch4 ビジネス活用の事例とポテンシャル
ch5 Generative AIとの付き合い方
著者:古川渉一(ふるかわ しょういち)
1992年鹿児島生まれ。東京大学工学部卒業。デジタルレシピ取締役CTO。学生時代にAI研究を行う松尾研究室に所属したことをきっかけにインターネットに興味を持ち、大学生向けイベント紹介サービス「facevent」を立ち上げ、延べ30万人の大学生に利用される。その後、国内No.1 Twitter管理ツール「SocialDog」など複数のスタートアップを経て現職。デジタルレシピでは事前登録者数6,000人を超えた、パワーポイントからWebサイトを作る「Slideflow」の立ち上げを経て、現在はAIライティングアシスタント「Catchy」(キャッチー)の事業責任者。CatchyはOpenAI社が提供するテキスト生成AI「GPT-3」を活用した国内向けサービスとして、リリース後半年間でユーザー数4万人を超える。事業戦略、プロダクト開発、マーケティング、AIのビジネス活用など幅広い領域に知見を持ち、0から事業を垂直に立ち上げることを得意とする。
著者:酒井麻里子(さかい まりこ)
ITライター。企業のDXやデジタル活用、働き方改革などに関する取材や、経営者・技術者へのインタビュー、技術解説記事、スマホ・ガジェット等のレビュー記事などを執筆。メタバース・XR のビジネスや教育、地方創生といった分野での活用に可能性を感じ、2021年8月よりWebマガジン『Zat's VR』を運営。メタバースに関するニュースや、展示会・イベントレポート、ツールの解説やレビューなどを発信。Yahoo!ニュース公式コメンテーター(IT分野)。ウレルブン代表。Twitter(@sakaicat)では、デジタル関連の気になった話題や役立つ情報などを発信。