ニュース
同じ速さなのに手で感じる速さが違う NTTがXR触覚体験で世界初の成果
2025年3月19日 17:51
NTTは、同じ速さのはずなのに、手で感じる動きの速さが変わる錯覚を世界で初めて発見した。手の広範囲に高密度な実験専用の触覚インターフェイスを活用することで確認されたもので、電気通信大学との共同研究による成果。
皮膚上の物体のバーチャルな動きを人に伝えるためには、触覚刺激を提示する箇所(点)を皮膚上にバラバラに配置し、順番にそれらの点を刺激して皮膚表面の動きを表現するのが一般的な方法になる。従来、この点同士の間隔は情報の解像度に関係し、動きの知覚速度には影響しないと考えられていた。
今回の成果は、これまでの考えに反して、点同士の間隔が大きい場合に、動きが同じ速度であるのにも関わらず、遅く感じる錯覚を発見したというもの。VRにおける質感の表現や物体の器用な操作など、XR空間における触体験の実現に貢献するという。
研究では、調査に必須な、広範囲かつ高密度な情報提示が可能な実験専用の触覚インターフェイスを構築。過去に構築した、指先へ高密度に情報提示を行なう触覚インターフェイスをベースに、手全体に対して情報提示が可能な触覚インターフェイスを構築した。
一般的な触覚インターフェイスでは、駆動部と提示部が一体化し、広範囲に高密度な情報提示を行なうのは難しい。今回の触覚インターフェイスは、空気圧を利用した圧覚提示システムで、駆動部と提示部を分離。これにより、指先から手のひらまでの広範囲に3mm間隔で高密度な情報提示が可能となり、点同士の間隔などのパラメータを柔軟に操作できるようになった。
実験では、バラバラに配置した点により、順番に皮膚に刺激を与え、皮膚表面の物体のバーチャルな運動を参加者に伝えた。参加者は、2つの運動(基準運動と比較運動)を提示され、どちらの運動が速く感じたかを回答している。
基準運動時の点の間隔は3mmまたは6mmで、比較運動での点の間隔は3mmに固定した。これまで点同士の間隔は情報提示の解像度に相当し、動きの速さと無関係に決めることができるため、動きの知覚速度に影響しないと考えられていたが、実験の結果、空間間隔が広くなるほど、動きが遅く感じられる錯覚が生じることが確認された。具体的には間隔が2倍になると遅く感じられる(0.75倍程度)という。
今回の成果により、動きを触覚で伝える際に、点同士の間隔を意識した情報提示設計を行なうことで、一般的な触覚インターフェイスにおける動きの知覚速度を最適に制御できる可能性が示唆された。今後は触体験を支える他の基礎的な感覚・知覚機能(形状知覚など)に関する研究も進め、XRにおける世界初の触体験の実現に貢献する。