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再エネ電力の課題を「デコ活」で解決 キモは昼の需要
2025年3月18日 17:35
環境省は、昼の再エネ余剰電力を活用した便利・快適・お得な暮らしの実現に向けた、「デコ活」における実証事業の結果について、発表会を実施した。同事業ではディマンド・リスポンス(DR)を活用した昼の電力利用へのシフトの可能性と消費者便益を検証している。
デコ活とは「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称で、二酸化炭素(CO2)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む“デコ”と活動・生活を組み合わせた言葉。
環境省はデコ活の一環として2024年度、再生可能エネルギー導入の拡大により生じる昼の余剰電力を有効活用し、脱炭素につながるライフスタイル転換を促進するための実証事業を、Natureと関西電力、およびLooopとともに実施した。発表会には環境省のほか、Nature、Looopが登壇した。
電気は時々刻々と変化する需要(消費量)に対し、常に供給(生産量)を一致させる必要がある。仮に需給バランスが崩れると、周波数が変動し、最悪の場合は多数の発電機が運転できなくなり、大規模な停電に至るおそれがあるという。このため、気象条件によって大きく変動する太陽光や風力の発電出力に対応する必要があり、常に火力発電等の発電出力を調整し、需給バランスを保っている。
近年は再エネの導入拡大が進み、春・秋を中心とした需要が少ない時期に、晴天等により再エネの発電出力が大きくなる場合は、余剰電力(需要<供給)が発生する可能性がある。この点についてLooopは、再生可能エネルギーの発電量は増えているが、日中の電気使用量が少ないため、年間約19億kWh(約45万世帯分の年間電力使用量相当)の再エネが捨てられていることを紹介した。
今回の実証事業は、昼間の電力需要の創出に向けた取り組み。消費者が賢く電力使用量を制御することで電力需要パターンを変化させることを意味する「DR」のうち、電気の使用時間を昼にシフトする「上げDR」が有効であるという考えから実施した。DRにはそのほか、電気のピーク需要のタイミングで需要機器の出力を落とすなどの「下げDR」がある。
上げDRについて実証事業では、消費者が自ら行動する「行動変容型DR」と、機器を自動的に遠隔制御する「機器制御型DR」の2つの方法に整理した。行動変容型DRには具体例として、「ヒートポンプ給湯器の沸き上げを電力会社等の指定時間に消費者自ら行なう」「電気自動車の充電を電力会社等の指定時間に消費者自ら行なう」などがある。一方の機器制御型DRでは、ヒートポンプ給湯器の沸き上げや電気自動車の充電を、電力会社等の指定時間に自動で遠隔制御する形となる。
行動変容型DRには、追加の機器やシステムが不要でスマホ通知等で簡単に実施可能というメリットがある一方で、消費者が手動で対応するため確実なシフトに繋がりにくいというデメリットがある。機器制御型DRは消費者が意識しなくても確実に実行できるが、対応している機器がまだ十分に普及していないという課題がある。
実証事業では、行動変容型DRについては電気を使う時間によって電気の単価が変化する市場連動型電気料金プランを活用、機器制御型DRについては蓄電池、エコキュート、EVなどを制御対象機器として実施した。
市場連動型電気料金プランを活用した行動変容型DRの実証はLooopが実施。市場連動型電気料金プランの契約者に対し、実証期間において電気料金を0円で提供する群およびネガティブプライスで提供する群を用意し行動変容型DRを促すという取り組みを行なった。ネガティブプライスとは、電気の使用に応じて利用者に対してお金を支払うというもの。
結果として、両方の群で統計的に有意な上げDR効果を確認。ただし、ネガティブプライス提供の群と電気料金0円提供の群の間には大きな差は認められず、ネガティブプライスの理解度の低さや、上げDR行動の限界がある可能性が示唆されるとしている。
アンケートでは、主なDRの手法として「家電の使用時間を昼間にシフトした、または昼間の稼働時間を増やした」「普段利用しない家電を昼間に使った」、具体的に使用した家電として、「冷暖房機器」「洗濯乾燥機」「調理器具(IH、電気ポットなど)」の使用時間のシフトが多く挙げられた。
Looopはそのほか、家庭用蓄電池の市場連動制御による機器制御型DRの実証、指ロボットによる家電の市場連動制御による機器制御型DRの実証を実施している。指ロボットとは、遠隔で家電のボタンを押せるIoT機器。
Natureおよび関西電力は協働で、蓄電池・エコキュート・EVなどを所有する家庭を対象に実証を実施。機器制御グループと行動変容グループに分けて、再エネ出力制御が発生する可能性が高い、ないしは電力市場での電力量価格が低い時間帯において、上げDR実施指令(電力消費の促進)を行なった。
結果として、HEMSを活用した住宅用エネルギー機器(蓄電池・エコキュート・EV)の自動制御が手動制御と比較して高い上げDRの効果を持つことを確認。機器制御DRでは1世帯あたり最大8.060kWh/回で、120.9円/日程度の経済的便益が見込めるとする。
一方で、機器登録設定の煩雑さや、電力会社提供の報酬とユーザーの期待値の乖離など、社会実装に向けた課題もあるとしている。
環境省は2024年度の実証について、機器の自動制御や市場連動型電気料金プランの活用により上げDRの効果を得られた一方で、消費者の認知や報酬等のインセンティブ、機器の設定に課題があるとする。2025年度も引き続き、昼間の電力需要の創出と、昼間の電力利用による消費者便益の最大化を目指し、モデル実証を実施する。