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iPhone搭載マイナカードはどう使われるのか? デジ庁がコンビニ活用テスト

マイナンバーカードのスマートフォン搭載で、コンビニエンスストアのセルフレジで酒/たばこが無人でも購入可能になるかもしれない

デジタル庁は14日、コンビニエンスストアにおける年齢確認において、スマートフォンに搭載したマイナンバーカードを活用するデモンストレーションを公開した。今春の終わり頃には、iPhoneにマイナンバーカード機能の搭載が予定されており、その活用例としてコンビニでの利用を想定したデモが実施された形だ。

あくまでデモであり実際にこのまま実現するわけではないが、デジタル庁ではスマートフォン搭載によって可能になる例を示すことで、コンビニ業界だけでなく、様々な分野においてマイナンバーカード機能のスマートフォン搭載への準備を促したい考えだ。

コンビニにおいて無人で酒・たばこが購入可能に

これまでもデジタル庁は、コンビニ業界におけるマイナンバーカードを活用した年齢確認に関して、日本フランチャイズチェーン協会と協定を締結して検討してきた。その背景には、人手不足が問題視されている中での酒/たばこの販売の問題があった。

すでにマイナンバーカードは国民の約78%にあたる、9,737万枚が保有されている。様々な利活用が実現し、さらなる発展が想定されている
デジタル庁と日本フランチャイズチェーン協会との協定では、すでにセブン-イレブンにおいてマイナンバーカードを使った年齢確認のデモも行なわれており、継続して検討が行なわれてきた

こうした商品は、販売に際して最低でも店舗内に人がいて年齢を確認する必要があり、セルフレジを導入しても購入の都度、店員は他の作業を止めて年齢確認の対応をしていた。

特に地方の店舗で人手不足が深刻化しているコンビニ業界では、酒/たばこの販売における年齢確認を省人化したいというニーズが強まっていた。それに対してデジタル庁との協定では、マイナンバーカードを使った年齢確認の無人化のテストも実施したが、リーダーが高額などの理由で普及には繋がっておらず、新たな施策が求められていた。

そうした中で、マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載することになり、デジタル庁がプラットフォームベンダーなどと開発を続けている。もともとはAndroid端末向けにマイナンバーカードの機能の一部である電子証明書を搭載する「スマホ用電子証明書搭載サービス」が2023年5月からスタート。

マイナンバーカード機能のスマートフォン搭載では、すでにAndroidに搭載されている電子証明書の機能に加え、氏名などの券面記載事項を保管して提供する属性証明機能が搭載される。これを使うことで、スマートフォンだけで本人確認などの機能が実現されるほか、その一部だけの情報を提供することで、「氏名や住所は知られずに年齢確認だけをする」機能が可能になる。

2024年の改正マイナンバー法によって、マイナンバーカードの券面に記載された氏名、住所、生年月日、性別、顔写真、マイナンバーという「属性証明機能」をスマートフォンに搭載することが可能になり、2025年春の終わりには、まずはiPhoneから搭載されることが決まっている。

このiPhoneにも搭載されるマイナンバーカード機能を、年齢確認の分野で活用例を紹介するというのが今回のデモンストレーションだ。機材もiPhoneを使っておらず、コンビニのPOSレジではなくタブレットにUIを実装する形でデモされていた。

デモ用に開発されたマイナンバーカード搭載スマートフォン対応のセルフレジ

機能としては、マイナンバーカード機能のスマートフォン搭載を再現しているため、mdoc形式で情報が保管されている。デモでは、レジ代わりとなるタブレットで商品のバーコードを読み取って、年齢確認対象商品があると年齢確認を求める画面になり、スマートフォンの「デジタルIDウォレット」からマイナンバーカードを呼び出し、タブレットのNFCリーダーにタッチする。

実際のフロー。商品をスキャンして年齢確認対象商品があった場合、その旨が通知される
確認をしようとすると、「デジタルIDウォレット」でマイナンバーカードを開くよう指示される。仮にiPhoneの場合はAppleウォレットに実装されることになる

その後は認証が行なわれて、タブレットとスマートフォンがBluetooth LE(BLE)で接続される。スマートフォンに年齢確認情報を提供するかどうかの同意画面が表示され、それを承認すると、マイナンバーカードの生年月日情報をもとに「20歳以上」「20歳未満」のいずれかのデータが送信され、20歳以上であれば決済に進むことができる。20歳未満の場合、年齢確認対象商品を除外すれば残りの商品の決済は可能になる形だ。

スマートフォンをタブレットにNFCリーダーにかざす。本来、マイナンバーカードを開く前にスマートフォンで生体認証が行なわれるが、今回はデモのため省略されている
タブレットとスマートフォンがBLEで接続されるので、続いて送信するデータを選択。今回は20歳以上かどうかの確認が求められており、マイナンバーカードの生年月日を元に20歳以上かどうかを返信する。もともと、マイナンバーカードのスマートフォン搭載においてデジタル庁は「20歳以上」「20歳未満」のフラグを仕様として策定しており、これを使えば生年月日を明かさずに年齢確認ができる。もちろん、他のマイナンバーなどの情報は送信されない

デモでは実装されていないが、実際はスマートフォン側で生体認証が行なわれ、他人が勝手に利用することができず、マイナンバーカードの厳格な年齢確認が行なえる。こうしたことから、セルフレジにおいて無人でも年齢確認対象商品を購入できるようになる。

情報が提供されると、レジ側で判定して20歳以上であれば決済に進む
20歳未満の場合は拒否となり、年齢確認対象商品を返却することで決済に進むことができる

コンビニの年齢確認の大きな転機 「デジタルIDウォレット」の可能性

今回は、日本フランチャイズチェーン協会との協定にもとづき、会員企業のローソンのラボでデモンストレーションが行なわれ、アプリやシステムの開発はパナソニックコネクトが担当した。

デジタル副大臣の穂坂泰氏は、「マイナンバーカードのスマートフォン搭載で1つの大きな節目を迎える」と指摘。マイナンバーカードの利活用において影響が大きく、重要な転機になるとの判断を示す。デモを体験して「非常に簡単に年齢確認ができて、購入者にとっても楽だし、店にとっても省人化に繋がる」と手応えを感じていたようだ。

穂坂泰デジタル副大臣(左)と日本フランチャイズチェーン協会の笠井玲子氏

デモを実施し、課題の検証や実際の年齢確認フローが確認できたことで、今後コンビニ業界でも導入に向けた検討がしやすくなるとデジタル庁では見ており、次のPOSレジの更改に向けた各社の取り組みに組み込まれることを期待する。

実際にマイナンバーカードのスマートフォン搭載についてのコンビニ対応においては、POSレジ自体にBluetooth LEを搭載する必要があるため、現状のPOSレジやセルフレジですべて対応できるとは限らず、ハードウェアの改修が必要になる場合もあるという。

その場合、一定のコストも必要になるが、日本フランチャイズチェーン協会の酒類・たばこの年齢確認に関するデジタル認証検討会座長の笠井玲子氏は、コンビニ業界として年齢確認の省人化に対するニーズは大きいとして、強い期待感を示している。

今春以降、実際にiPhoneに搭載されてから、どういった活用事例が登場するかはまだ不明だが、デジタル庁では今後も可能な限り民間への情報提供などの支援も行なっていきたい考えだ。また、今回のタブレットへの実装によって他の業界への展開も検討できると見る。

これまで実施された、マイナンバーカードを使った様々な実証事業
今年に入ってもさらなる実証の予定があり、今後はここにスマートフォン対応の実証も増えていくことが期待される

例えば穂坂副大臣は、災害時の避難所においてスマートフォンだけを持って避難した人でも、マイナンバーカードを搭載することで情報登録がしやすくなるといった用途を想定する。避難所ではタブレットとマイナンバーカードを組み合わせた入所手続きの効率化といった実証も行なわれており、スマートフォン搭載によってさらに効率化できる可能性はある。

また、すでにマイナンバーカードを使ったエンタメ業界での利活用実験でも、フェスでの年齢確認や転売対策などが想定されており、こうした分野でもスマートフォン搭載が活用される可能性はあるだろう。

米国では、すでにスマートフォンに搭載された運転免許証を使って空港のセキュリイティチェックにおける本人確認に利用する事例があり、スマートフォンに身分証明書を搭載して活用する「デジタルIDウォレット」は各国で取り組みが進められている。今回は日本におけるデジタルIDウォレットのデモンストレーションの1つとして位置づけられるだろう。

現状、iPhoneへの搭載しか決まっておらず、Androidへの同様の機能搭載の時期は明らかにされていないが、今春以降、実際に搭載されて様々な実用例が増えることで、さらに便利な世の中に近づいていきそうだ。