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QSTとNTT、核融合にAI活用 プラズマ閉じ込め磁場予測に世界初の成果
2025年3月17日 15:00
量子科学技術研究開発機構(QST)とNTTは、大型核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場に適用するAI予測手法を確立した。
核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場を複数のAIを活用して予測する手法。トカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」に適用し、プラズマ位置形状を高精度で再現しながら、高速で状態が変化するプラズマ予測にAIを活用する可能性を開拓した。
トカマク方式の核融合原型炉開発では、プラズマ自身に流れる電流によって閉じ込め磁場を形成する性質上、プラズマ中に電流を流し続ける必要があるが、その電流や圧力により不安定性が発生する可能性がある。安定した原型炉の活用には、こうした不安定性を未然に予測し、適切に制御することが重要になるが、制御にはプラズマ閉じ込め磁場を計算信号からリアルタイムかつ高精度で再構築する手法の確立が課題となっていた。
今回は「混合専門家モデル(Mixture of Experts:MoE)」という手法を用い、世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」の実際のプラズマ閉じ込め磁場で評価を行ない、磁場構造に依存するプラズマの位置や形状を実際のプラズマ制御に必要となる精度で再現することに世界で初めて成功した。
プラズマ閉じ込め磁場の制御は、真空容器に取り付けられた計測器の信号からプラズマ閉じ込め磁場を再構築し、次にその再構築結果と目標値とのズレを修正するために必要な磁場を生成するためのコイル電流の差分を計算し、コイル電源へ指令する、という流れで行なわれる。
従来のプラズマ閉じ込め磁場の再構築には、物理法則に従った計算量の大きな複雑な方程式を解く操作を段階的に行なわなくてはならないことが課題だった。QSTとNTTは、AI技術を活用して、計測信号の情報から物理法則を使わずに1回の計算で閉じ込め磁場を予測できる手法の開発を進めてきたが、単一のAIモデルでは必要な精度を出すことができなかった。
そこで開発したのが、混合専門家モデル(Mixture of Experts; MoE)を使用した手法。状態把握・指令制御AIなどの複数の専門家モデルを持つAIモデルに対し、適切に重み付けを行ないながら、逐次変化するプラズマのリアルタイム制御を行なった。
同手法をJT60SAでの実際のプラズマ閉じ込め磁場で評価した結果、プラズマの制御に必要となるプラズマ位置形状の精度(~1cm、世界最大のプラズマに対して約1%となる世界一の高精度)を、複雑な計算を実施すること無く、AIで再現することに世界で初めて成功した。
特に、プラズマ中に流れる電流が定常ではなく変動しているような状況下では、単一のAIモデルではプラズマ閉じ込め磁場の再構築精度は低下するが、混合専門家モデルでは、状態把握・指令制御AIが状態AIモデルに適切に重み付け処理を行なうことで、高精度なプラズマ閉じ込め磁場の評価が可能になった。
また、従来の手法ではプラズマ境界部の位置形状の制御までが原理的に可能だったが、本手法によってプラズマの不安定性を回避するために重要となるプラズマ内部の電流や圧力の分布までをリアルタイムに制御できる見通も得られたという。
今回の成果はJT-60SAの今後の加熱実験において、高温プラズマのリアルタイム制御に挑戦する際に有効で、より大きなプラズマを少数の計測器で制御するイーターや原型炉などの核融合炉のプラズマ予測制御に繋がる画期的なものとしている。
これによりQSTとNTTは、2020年から行なっている連携協力協定の延長に合意し、引き続き、フュージョンエネルギーの早期実用化に向けて連携していく方針。