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西友を買収するトライアル 売上1.2兆円の小売大手の誕生
2025年3月6日 09:00
トライアルホールディングスは、同じ流通小売の西友を子会社化する。
九州を地盤としたディスカウントストアを運営するトライアルにとって、西友とは商圏が重ならず、スーパーのノウハウや人材、関東を中心とした店舗を取得すること、祖業のシステムやリテールAIの開発に向けてのデータ獲得でシナジーの最大化に繋がると判断した。
買収により、トライアルはグループで1兆2,000億円規模の売上を誇る小売大手となり、スケールメリットを生かしたコスト削減、物流の効率化、プライベートブランドの共同開発などによる商品力強化など、今後中長期的にシナジーを生み出していきたい考えだ。
西友は理想的なパートナー
トライアルは、九州地方を中心に郊外型で4,000m2程度のスーパーセンターを202店舗、8,000m2のメガセンターを28店舗、さらに小規模なサテライト店であるTRIAL GOを47店舗など、全国に343店舗を展開している。
もともと創業は1987年にPOSなどのシステム開発からスタート。その後92年にディスカウントストア1号店を開店し、96年からスーパーセンター事業にも参入した。IT分野の知見を生かして店舗DXを進めてきた、とトライアルHDの亀田晃一社長は話す。
今回の買収では、優秀な人材・企業文化の融合、売上高1兆円超の小売業への飛躍、人口集積地の関東を中心に242店舗獲得、さらなる業界再編への布石、という4点の戦略があるという。
売上1.2兆円のリテール大手の誕生 商圏は重ならない
今回の買収では、西友側の店舗の統廃合や人員削減は行なわない予定。質の高い人材を確保し、トライアル側との交流を通じてグループ全体での持続的な成長に繋げていく。
トライアルは24期連続で増収を続けており、既存店の成長と出店に加え、M&Aによる拡大を行なってきた。今回はさらに西友を買収することで一気に売上高で1兆円を超え、さらなる成長に繋げていく。
西友は関東を中心に展開。すでにドミナント化されており、高い収益を実現しているとトライアルカンパニーの石橋亮太社長は指摘する。これを獲得することで、一気に関東圏での存在感を高められる。合算の店舗数も585店に達して事業規模が拡大。しかも商圏がほとんど重ならず、「カニバリゼーションがなく、理想的なパートナーになると考えている」と石橋社長。
さらに、西友店舗を活用してトライアル店舗を出店し、その地域の事業基盤やシェアを強化するドミナントも実現できる。これは、西友の周囲にTRIAL GOをサテライト店として出店することで、西友店舗の配送網などを活用しつつ関東圏でも出店しやすくなることを見込む。
また、両者ともPB商品にも力を入れており、トライアルは特に「美味しくて安い弁当・惣菜」を強化している。最近はさらに美味しくなったと評価が高まっていると同社。西友もオリジナルブランドの惣菜などのPB商品があり、それぞれの強みを相互の店舗で提供する、共同でPB商品を開発する、といった取り組みによって商品力の強化も目指す。
「さらなる業界再編への布石」という戦略上の位置づけについては、現時点で明確な回答はなかった。小売業界に再編の動きがあり、今後の流れの中で、体制を盤石にしておきたいとの思惑があるようだ。
トライアル創業家でRetail AIの代表取締役CEO・永田洋幸氏は、今回の西友の買収について「『地域の生活必需店』として、お客さまに寄り添い続けるための基盤作り」だと説明。同社が開発するスマートカート「Skip Cart」を西友にも拡大し、西友の来店客も便利で快適な買い物体験を提供できるとアピールする。
また、トライアルを中心とした店舗データを活用したリテールメディア、デジタルサイネージの広告配信、One to Oneマーケティングを実施してきたが、これに西友のデータも加わることで、さらに質、量ともにデータ価値が向上すると期待する。ただし、顧客データを活用するには同意を得たりシステムの開発をしたり、様々な準備が必要になることから、中長期的な戦略と位置づける。
西友代表取締役CEOの大久保恒夫氏は会見に別件のために参加しなかったが、メッセージを寄せており、「西友としては大変喜ばしい。トライアルは同じ方向を向いているパートナーと理解している」として、「お互いの強みを最大限に生かせるベストパートナー」だと強調した。
「この数年間、KKR、ウォルマート、楽天という、異なる業界のリーダーの傘下において、商品力、販売力を強化することで価値を創造し、そこで得た利益を教育、ITの投資に前向きな投資に回すことでさらなる価値創造サイクルを実現してきた」と大久保氏。トライアルの子会社化では、リテールAIの活用によるさらなる価値創造に期待する。
こうしたリテールAIやシステム統合など、両社の協業に関するさらなる戦略に関して決まっていることはなく、今後、順次検討を進めていくとしている。