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新・帝国劇場コンセプトは「ヴェール」 客席の見え方はすべて検証
2025年1月16日 14:24
東宝は、帝国劇場の建て替え計画の概要を発表した。設計者には建築家の小堀哲夫氏が選定され、現状と同規模の客席・舞台設計を予定しながら、一席一席の見え方を検証し、より見やすくゆとりのある空間を計画している。
帝国劇場は2月に一時休館し、帝劇ビルと国際ビルを一体で再整備する。工事期間は2025年度~2030年度を予定しており、開業は2030年度を目指す。新たな帝劇ビルは地上29階、地下4階、高さ約155mの複合施設となり、新・帝国劇場は地上4階、地下2階にあたる。
自然光を取り入れ四季を感じる新空間
建築デザインのコンセプトは「THE VEIL(ザ・ヴェール)」。皇居に面した自然豊かな立地という特性を活かし、自然光を取り入れて四季のうつろいを感じられる空間を計画する。
設計者の選定は、東宝が複数名を指名したうえでコンペを行なう「指名型プロポーザルコンペ型」を2022年に実施し、小堀哲夫氏に決定した。
「コンペにあたり多くの建築家の中から実績、将来性を勘案し、日本を代表する複数名の方を指名させていただきました。その中から、小堀哲夫さんの作品が、帝国劇場の歴史と意義を大変深く研究していました。また、自然光を取り入れた四季を感じられる空間提案など、設計者の作品に対する思いや人柄に魅力を感じ、新・帝国劇場の設計をお願いすることになりました」(東宝 常務執行役員 エンタテインメントユニット演劇本部長 池田篤郎氏)
小堀氏は新たな帝国劇場の設計について、「皇居に面し、土地の固有性である水のきらめきなど、美しい光をまとった建築がふさわしいと思いました」と説明。
「新しい帝国劇場におけるヴェールというコンセプトは、さまざまな空間性を持っています。ヴェールが持つ言葉の美しさや華やかさ、神秘性が建築に幾重にもまとっている、そういうようなイメージになります
皇居側は美しい自然をまとったヴェール、町側は帝国劇場の賑わいが滲み出すようなヴェールだと考えました。帝国劇場を入ったときに、このヴェールをくぐるように、さまざまな空間が用意されています。エントランスから客席、舞台に続くさまざまな空間体験を実現したいと思います」(小堀氏)
一席一席の見え方を検証 誰でも見やすく
メインエントランスはこれまでと同様丸の内5th通り側になるが、劇場の配置が90度回転し、エントランスの正面に客席を配置した計画となる。正面性が高まることで格式高い劇場空間とするほか、開演・終演時の混雑緩和に配慮した動線を予定している。
客席は、見やすくゆとりがある空間を計画。現在の劇場と同等数程度の客席数ながら、現状より傾斜をつけ、座席にもゆとりを持たせる。客席からのサイトライン(見え方)は一席一席検証し、どこからでも見やすく、今まで以上に快適な観劇環境とする。
「現在の帝国劇場は歌舞伎もできるよう花道が作れる設計で、その仕様のために傾斜が比較的ゆるくなっています。新たな劇場ではその制約がなくなるため、今より傾斜がつけられるようになります」(池田常務)
「昨今はデジタル技術を使い、モデルを3D化してVRで確認できる時代になりました。新しい帝国劇場では傾斜を強くし、すべての客席において見え方の検証ができるようなシステムを導入します。現劇場から新劇場がどれくらい見やすくなるかをVRゴーグルなどを使って1つ1つ検証し、確認をしながら進めていきます」(小堀氏)
訪れるすべての人に心地よい空間
アクセシビリティを強化し、車椅子で来場した場合は屋外から段差なく客席にアクセス可能。車椅子席は新たに、2階席など複数箇所に設置する。
舞台空間は現在と同規模を予定しながら、演出の自由度のある設えとする。舞台袖上部には、十分な作業性・安全性を確保したテクニカルギャラリー等を設け、世界レベルの最先端の舞台技術を導入する計画。
舞台上を回転する「盆」や、舞台上の一部を切り抜いた「セリ」はなくなるが、奈落と連動してフレキシブルに穴を開けられるユニット機構を新たに採用する。スタッフのスペース快適性も配慮し、楽屋の居住性などにも力を入れていく。
ロビー・ホワイエ空間は、カフェやバーなどの充実を図る。トイレなどのユーティリティ機能を拡充し、幕間を含めた総合的な観劇体験を提供する。
有楽町駅側の南東の一角には一般の人も利用できるカフェ等を併設。観劇前後や公演以外の時間も楽しめる劇場とする。
地下には、エレベーター・エスカレーターを設けた劇場ロビーを新設する。地下鉄からもよりアクセスしやすくなり、施設内の商業スペースなどへもアクセスしやすくする。
「新たな帝国劇場はこれまでと同様、都内の複合施設では数少ない1階に客席がある劇場となります。地下からのアクセスや施設も充実させ、客席までの動線、舞台の見え方などで来場する人はもちろん、出演者やスタッフなど帝国劇場に訪れるすべての人に心地よい空間を目指します」(池田常務)