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「日本はAI後進国」 AIを競争力強化の武器へ ソフトバンク宮川社長

ソフトバンクグループは3日、法人を中心にしたプライベートイベント「SoftBank World 2024」を開催。ソフトバンク 代表取締役CEOの宮川潤一氏は、歴史的な事例や現在の技術動向を交えながら、AIがもたらす社会変革と日本が直面する課題について語った。

歴史から学ぶ技術革新の重要性

講演の冒頭、宮川氏は19世紀のイギリスで制定された「赤旗法」を取り上げた。この法律は、自動車の公道走行に対する厳しい規制を課したものであり、自動車は先導者が赤い旗を持って歩く速度でしか走行できず、技術の進歩が阻害された。一方、フランスでは自動車が自由に走行でき、技術革新が進んだ。この歴史的背景を通じて、AI時代における技術変化に対する抵抗がもたらす負の影響を最初に強調した。

AIの急速な進化は人間を超える可能性

AIモデルの学習は、'11年まではCPUを使用して行なわれ、処理速度は約1.5年ごとに2倍に向上していた。しかし、'12年以降、GPUに切り替えたことで成長スピードが急加速し、処理速度は3~4カ月ごとに2倍になるほどの進化を遂げた。

この急速な進化により、AIモデルはすでに人間の脳に匹敵する可能性があるという。人間のIQテスト(日本人の平均はIQ 110)をChatGPTで試した結果、GPT-4はIQ 80、GPT-4oはIQ 90、そしてo1はIQ 120という結果が示された。GPT-4oからo1の登場までの期間は約半年であり、この短期間でAIの知能が人間の平均を超える水準に達したことを強調。

日本はAI後進国 業務効率化→競争力強化

宮川氏は「日本はAI後進国。特に生成AIの利用率については、調査対象31カ国の中で日本が最下位であり、平均利用率75%に対して、日本は32%に留まっている」と説明。

日本企業がAI技術の採用に消極的な理由として、「必要性を感じない」「利便性に不安がある」といった声が挙げられた。'08年にiPhoneが日本に導入された際も、同様の理由でスマートフォンの使用に抵抗があった。しかし、それから16年経ち、スマートフォンは生活に欠かせないものとなった。宮川氏は、AIも同様に不可欠な存在になると述べ、「好む・好まざるに関わらず、AI時代は必然的に訪れると確信している」と語った

また、宮川氏は、この消極的な姿勢が国際競争力の低下につながると警告した。特に日本では、AIを「業務効率化のツール」としてのみ捉える経営者が多いが、海外では「競争力を強化する武器」としてAIを活用するという考え方が主流であり、ここに大きな乖離があると指摘した。

AIが仕事を奪うのではなく、新たな雇用や価値を創出する可能性がある。企業はAIを活用して業務効率を高めるだけでなく、新たなビジネスモデルやサービスを生み出すチャンスがあると述べた。AIを積極的に取り入れることで、社員の個々の能力をAIによって拡張し、企業全体の競争力を向上させると強調。「AIをチャンスと捉え活用する企業は、新たな仕事を作り出す側に立てる」(宮川氏)。

未来への展望と行動の呼びかけ

'24年現在、日本の労働者数は約6,750万人で、GDPを基に1人当たりの生産性は880万円とされている。しかし、'40年には労働者数が5,770万人に減少し、GDPも単純計算で490兆円にまで縮小する見込みだ。これに対して、「AIを単なる業務効率化の道具として捉えるのではなく、新たな価値を創出する武器として活用すべきである」とし、AIを成長の原動力として取り入れることで、1人当たりの生産性を現在の2倍に引き上げる可能性を示した。

ソフトバンクもAIを積極的に導入しており、コールセンターの自動化や営業活動へのAI活用といった具体的な事例がある。また、次世代通信基盤として、基地局に計算能力を持たせる「MEC」の導入や、全国に分散配置したAIデータセンターの構築にも取り組んでいると述べた。

また、PayPayの詐欺対策にもAIを活用しており、「様々な詐欺のパターン吸収している。PayPayの中で確認し、よいものができたら、銀行の皆様にもセールスに行きたい」と来場した金融関係者に呼びかけた。