ニュース

没入型の新たな野球観戦スタイル ドコモとジャイアンツ

NTTドコモは、新たな形のプロ野球観戦を実現する取り組みとして、「APN IOWN 1.0を活用した東京ドーム巨人戦をリアルタイムで映像配信する実証実験」を9月18日に実施し、その模様を報道陣に公開した。

ドコモは読売新聞東京本社、読売巨人軍とオフィシャルDX推進パートナー契約を2021年に締結しており、2023年10月からは「IOWN」を活用した新たなプロ野球観戦の検討を開始している。「IOWN」(アイオン)は、光技術のオールフォトニクス・ネットワークを中心にした次世代通信網の構想。大容量、低遅延などの特徴があり、さまざまな活用が検討されている。今回の取り組みはドコモが企画・開発し、NTT東日本がIOWNの技術協力を行なっている。

実証実験は、IOWNの特徴を生かし、高解像度の中継映像だけでなく、コンピューターグラフィックスを活用した自由視点映像や観客席を写した没入映像など、複数の映像を現地から同時に転送するというもの。床や壁に映像を投影することで「没入空間」を作り出し、「球場で試合を観戦しているかのような体験ができる」と謳う。まずはマンションの共用施設などに提供できるよう検討を進めていく。

床や壁に映像を投影することで「没入空間」を形成。まずはマンションの共用施設などに提供できるよう検討を進める

技術的には、実況・解説などを含めた巨人戦の中継映像を、通常とは異なるルートで転送し、リアルタイムに近い、遅延の少ない状態で「没入空間」の中央に投影する。18日の実証実験では壁や床に投影される観客席の映像がアーカイブ映像のループ再生になっていたが、こちらも現地映像をリアルタイムに投影することが想定されている。

また、東京ドーム内に設置された101台のキヤノン製カメラからなるボリュメトリックビデオ撮影システムの映像も投影する。こちらは「没入空間」側に設置したコントローラーでカメラアングルを指定するなどの遠隔操作を行ない、映像を切り替えられることも検証された。

没入空間で左右に投影されているボリュメトリックビデオ
会場のコントローラーで東京ドーム側のシステムを遠隔操作する

このボリュメトリックビデオ(CG化されたリアルタイムの試合映像)は、VRゴーグルで観戦することも可能。CG化されていることで視点を選択でき、観客席からの視点のみならず、例えばキャッチャーと同じアングルで観戦したり、ピッチャーや内野手の近くの視点で観戦したりすることも可能になっている。

ボリュメトリックビデオ映像はVRゴーグルでも観戦可能。映像はリアルタイムの試合

今後は、より没入感を高めるさまざまな技術を投入する予定。ドコモは触覚共有技術の「FEEL TECH」の開発にも取り組んでおり、これらを組み合わせて臨場感を高めていく。18日の実証実験では、映像と連動する振動デバイスが用意され、応援席の熱気のある模様やホームランを打った時の地響きのような振動を、足や手で感じられるデバイスが用意されていた。

「FEEL TECH」のひとつで、映像と連動して振動を感じるデバイス。半球状のデバイスは手に持ったり身体に装着したりする

新しいスポーツ観戦の第1歩

左から、読売新聞東京本社 事業局野球事業部 部長の西原研志氏、NTTドコモ スマートライフカンパニー 執行役員 エンターテイメントプラットフォーム部長の櫻井稚子氏

NTTドコモ スマートライフカンパニー 執行役員 エンターテイメントプラットフォーム部長の櫻井稚子氏は、スポーツ・エンタメ分野での成長のためにファン層や熱量の拡大を図ってきたとし、デジタルアセットの活用が今後のエンタメには重要とする。

今回の実証実験で提供する没入空間や体験は「新しいスポーツ観戦の第1歩」(櫻井氏)とし、ドコモのFEEL TECHも組み合わせることで「ゆくゆくは実際の観戦体験を超えるものを提供できる」(同)と意気込みを語っている。ドコモは東京の新国立競技場や名古屋のIGアリーナといった施設にも投資しており、一連の取り組みはこうした施設にも導入、新たなライブビューイングサービスなどの検討も進めていく。

プロ野球はコロナ禍を経て観客動員数が増えているとのことで、満員のケースも増加しているという。読売新聞東京本社 事業局野球事業部 部長の西原研志氏は、「観客席を増やすことはできないが、(実証実験は)解決策になる可能性を秘めている。スタジアムの熱狂的な応援、選手の息遣いまでもを、体験してもらいたい。ドコモとジャイアンツの協業で、日本中に新たな体験を届けられるのではないか。プロ野球界全体にとっても新たな一歩になれば」(西原氏)と、球界全体に波及していくことにも期待を語っている。