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実は国内最大級 「コミックシーモア」がデータからヒットを生む仕組み

NTTソルマーレは5日、電子書籍ストア「コミックシーモア」がサービス創立20周年を迎えるにあたり、これまでの事業の歩みや電子書籍でマンガの売上を伸ばすノウハウ、今後の展望を紹介する戦略発表会を開催した。

同社は、ウェブでマンガを読むことが浸透していなかった2004年に、コミックシーモアの原型となる、ケータイ向けコミック配信サービス「コミックi」をスタート。2010年にサービス名称をコミックシーモアに統一した。

「コミックi時代から数えると、コミックシーモアは2024年で20周年を迎えます。NTT西日本の100%子会社ということもあり、これまでは経営に関する数字などを公開することがありませんでしたが、20周年を機に公開し、透明性を高めて業界の発展と自社の成長につなげていきたいと考えを改め、このような場を準備しました」(NTTソルマーレ 代表取締役社長 朝日 利彰氏)

NTTソルマーレ 代表取締役社長 朝日 利彰氏

11期連続増収増益 国内最大級の売上

コミックシーモアを含む同社の電子書籍事業の売上は、2023年度(2024年3月期)が812億円で過去最大、11期連続の増収増益となった。最高日販は9億円以上、月間利用者数は4,000万人以上を突破。812億円という売上は、国内電子書籍業者の中で最大級としている(同社調べ、国内競合企業の公開資料を基に比較)。

電子書籍全体の市場規模は、2011年度が651億円だったのに対し、2023年度は6,449億円と約10年で市場は10倍に成長。2028年度には8,000億円へ成長することが見込まれているという。

市場の拡大とともに電子コミックの形態は多様に進化し、縦スクロールマンガや韓国コンテンツの台頭、日本のコンテンツの海外での盛り上がり、インディーズクリエイターの発掘、AIテクノロジーの活用など、さまざまなトピックがあり、マンガの新しい形態が生まれ続けている。

2023年度(2024年3月期)の売上が812億円で過去最大
2004年のコミックi誕生から今までの売上
電子書籍の市場規模
市場の拡大とともに、電子コミックの形態は多様に進化

マンガを作るのは作者と出版社、売るのはシーモア

マンガの読み方が時代とともに変わっていく中でコミックシーモアは、テクノロジーを用いて新しいマンガの届け方を模索。特に、読者とマンガのマッチングに注力し、さまざまな取り組みを実施している。

月に2,900件を超えるキャンペーンや特集を行なっており、読者のデータ分析に加えて、シーモア書店員による幅広い提案で、新しいマンガとの出会いを創出してきた。

「#あなたの青春タイムマシーン」というキャンペーンでは、生まれた年を入力し、タイムスリップしたい時代を設定することで、当時の人気作をレコメンド。SNS上ではハッシュタグをつけたうえで当時の思い出を語るユーザーが続出し、購入者の増加につながったという。

#あなたの青春タイムマシーン
生まれた年を入力し、タイムスリップしたい時代を設定することで、当時の人気作をレコメンド
SNS上で当時の思い出を語るユーザーが続出

このほか、膨大なデータを活用して、ユーザー個々にあわせたパーソナライズマーケティング施策の自動化を実施。サイト上で作品を購入すると新刊発売日にお知らせをするなど、興味・関心・嗜好に沿ってパーソナライズドされた通知(メールやプッシュ通知)を適切なタイミングで配信している。

読者と作品のマッチングに注力し、パーソナライズマーケティング施策の自動化を実施

効率的なプロモーションのために、広告出稿にも工夫を施している。膨大な販売データからヒット要素を言語化、ノウハウを蓄積し、広告として掲出するマンガのコマもユーザーの興味を引きつけられるように選定。

また、新作の配信話数がたまったタイミングで、ユーザーの購買率(課金転換率)が上がるシーンを盛り込んだ無料話数を設定している。無料話数に合わせてチューニングしたクリエイティブをあらゆるメディアに多面展開し、広告出力を最大化してきた。

こうした取り組みにより、ある作品では配信開始から7~8カ月で課金転換率が5倍、売上は75倍になったという。

「特集やキャンペーンに力を入れるために、シーモアスタッフは日頃から作品を読み込んでいます。『シーモアスタッフ全力推し作品』という特集では、ただマンガを紹介するのではなく、作品の魅力的なコマを抽出したり、マンガに対する熱い思いをコメントとして紹介してレコメンドしています」(NTTソルマーレ 電子書籍事業部 取締役 電子書籍事業部長 炭田 真也氏)

シーモアスタッフ全力推し作品特集では、作品の魅力的なコマを抽出したり、マンガに対する熱い思いをコメントとして紹介してレコメンド
NTTソルマーレ 電子書籍事業部 取締役 電子書籍事業部長 炭田 真也氏

3巻が一番売れた謎 キャンペーンのきっかけに

販売促進となる特集やキャンペーンを実施するだけでなく、マンガ制作段階から携わる出版社との協業体制も整っている。

「KADOKAWAさんとは長く協業しており、制作段階から携わっている作品もあります。制作時は、広告映えするようにキャラクターの表情をもう少し変えてくださいとお願いすることもあります」(NTTソルマーレ 電子書籍事業部 ライツビジネス部 部長 平井 雅人氏)

売上データを分析して出版社にアドバイスをすることもあるという。

「ある作品では、1巻や2巻ではなく3巻の売上が一番高いというデータがありました。スタッフで理由を分析すると、広告で話題になっているコマが3巻にあり、3巻から買うという人が続出したのです。作品全体の販売を促進するために、1巻と2巻を無料にするというキャンペーンをKADOKAWAさんに提案し、この施策でヒットにつながった例もありました。もちろんヒットには作品が面白いことが前提ですが、NTTソルマーレは広告宣伝のノウハウを持っており、面白いマンガをより多くの読者に届ける役割を担っています」(平井氏)

広告宣伝のノウハウを活かし、出版社と協業した作品も数多く展開
NTTソルマーレ 電子書籍事業部 ライツビジネス部 部長 平井 雅人氏

売上が伸び続ける中で課題もあるという。「やはり若年層の密着度が甘く、マンガ文化の浸透に課題を感じています。理由や改善策はいくらでもあり、新規層の開拓にも注力していきたいです」と朝日社長は話す。

2023年度の売上は812億円だったが、早期の1,000億円突破を同氏は目標として掲げる。

「既存層へのアプローチも引き続き行なっていきます。パーソナライズマーケティングではユーザーの購読ジャンルが偏っていきますが、その中でも、このタイプのマンガは読んだことがなかったという発見も提供していければと思います」(朝日氏)

No.1マンガ総合プロデュース集団として発展していくことを目指すという