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キヤノンの“パリ五輪向けカメラ”は100万円超の「AIマシン」だった

ミラーレスのフラッグシップモデル「EOS R1」

まもなくとなる7月26日にパリ五輪が開幕します。選手の活躍の一方で、報道用カメラメーカー間のシェア争いにも毎回注目が集まっています。

そうしたなか、キヤノンは17日にフラッグシップモデル(最高級機)となるミラーレスカメラ「EOS R1」を発表しました。フラッグシップモデルはスポーツや報道などに特化した性能を持ち、各メーカーの技術の粋を集めた1台になっています。

こうしたフラッグシップカメラを手がけているメーカーはキヤノン、ソニー、ニコンの3社が知られていますが、現在主流の「ミラーレスカメラ」でフラッグシップカメラをリリースするのはキヤノンが最後発。それだけにどのような性能になるのか注目が集まっていました。

横浜市のスタジオで行なわれた発表会には多くの関係者が出席しました

レンズ交換式カメラには、ミラーレスカメラのほかに従来型の「一眼レフカメラ」があります。長らくフラッグシップモデルでの双璧だったキヤノンとニコンは、フラッグシップ機をこれまで一眼レフカメラで提供してきました。

その流れに一石を投じたのがニコンで、2021年12月にミラーレスカメラのフラッグシップモデル「Z 9」を発売しました。さらに、早くからミラーレスカメラに注力していたソニーもスポーツ撮影などに向けた高級機「α9 III」を2024年1月に発売しています。

報道カメラならではの装備をチェック

さて、普段あまり見る機会の無い報道用カメラとはどのようなカメラなのでしょうか。プロが撮り直しのできないシーンを撮影するわけですから、故障のない高い信頼性や使いやすく確実に操作できるデザインなどを兼ね備えています。加えて、高速連写や高性能なAF(オートフォーカス)機能を搭載しているのが特徴です。

操作性を重視し、一つ一つが大きなボタンをたくさん搭載しているのもこのクラスのカメラならでは
入念なシーリングを施して雨天などにも対応します
EOS R1の外装はマグネシウム合金製で、この状態でもかなり剛性が高い印象です

今回発表されたEOS R1の発売は11月ということでパリ五輪には間に合いませんでしたが、実はパリ五輪を撮影するカメラマンにプロトタイプを相当数貸し出してテストしてもらっているそうです。

そして、キヤノンによると競技の撮影には実際に使われると想定しているとのこと。EOS R1で撮影された写真がパリ五輪のニュース写真に使われることは確実なようです。

35mmフルサイズのイメージセンサーを搭載。下側のグリップは縦位置撮影で握るためのもの

そんなEOS R1の気になる値段ですが、なんと108万9,000円(直販サイトでの税込予定価格)。これはライバルモデルより20~30万円程度高い金額です。もちろんボディのみですから、レンズは別に揃える必要があります。

超望遠レンズを付けたところ。キヤノンの望遠レンズは昔から白いことでも有名です
ファインダーも一般的なカメラより大きめで見やすくなっていました
上面に表示パネルを搭載するのも高級機の特徴的な部分
バッテリーも高容量で、中級機よりも高電圧なタイプになってます

EOS R1の面白い装備として「人感センサー」の搭載があります。発売時点ではまだ機能しないそうですが、将来的に何らかの形で利用できるようになるそうです。

再生ボタンの下にあるのが人感センサーです

報道向けカメラは通信インターフェースが充実しているのも特徴です。特に有線LAN端子は一般のカメラでは見られない装備でしょう。例えばプレスセンターから画像を送る際などに安定した高速通信が可能なため使われています。加えて無線LANは、新しい規格のWi-Fi 6E/6に対応しています。

カメラの側面に有線LAN端子を備えます。速報性が求められる報道機材らしい装備です

シュートする選手を自動認識

非常に高価ですが、最近のカメラのトレンドであるAI機能を突き詰めているのも特徴です。高速処理が可能な処理チップを新たに追加することでAIによる解析技術を高めています。

メインの処理チップを2つ搭載しています

例えばAF機能では「アクション優先」と呼ばれるモードが搭載されました。動く人物に自動でピントを合わせ続けるのは多くのカメラでできますが、特定の動きをしている選手にピントを合わせることができるようになりました。

対応するのはサッカー、バスケットボール、バレーボールの3競技。サッカーであれば、シュート、ヘディング、パス、ドリブル、スライディングなど重要な動きにフォーカスするようになりました。どの選手がシュートをするかわからないといった状況で、決定的瞬間の撮影をサポートしてくれるというわけです。

複数の人物の関節の状態やボールの位置などを検出し、機械学習とディープラーニングを用いたアルゴリズムによってカメラが推定し、ピント位置を決める仕組みになっています。

AIで解像度もマシマシに

ところで、EOS R1の画素数は約2,420万画素と価格の割りには控えめに感じるかも知れません。いまやスマホでも5,000万画素程度は珍しくなくなりました。しかし、スポーツや報道向けのカメラは解像度よりも高速連写を重視しているため、伝統的に画素数は少なめにしているのです。

EOS R1ので最も高速な毎秒40枚のモードで連写した様子

ですが、大幅なトリミングが必要になると解像度が足りなくなる恐れもあります。そんなときに有用な機能として「カメラ内アップスケーリング」機能が搭載されています。

これもディープラーニングを利用したもので、撮影画像の縦横をそれぞれ2倍した約9,600万画素のデータを作り出してくれます。解像感を保ちつつも、元画像から逸脱した描写をしないようにアルゴリズムをチューニングしたそうです。

そのほかにも、AF追尾、自動露出、オートホワイトバランスなどにもAIの技術が使われているとのこと。一見すると昔ながらのカメラのたたずまいですが、その中身は高度な「AIマシン」になっているのです。

特定の人物にピントを合わせる機能もAIで精度が向上し、斜め顔でも認識できるようなったと言います

ミラーレスカメラでは各社がシェアを争っていますが、キヤノンでは今後の市場について、「もちろんシェアはトップを狙いたいが、競合が存在していることは業界においては重要。切磋琢磨していきたい」としています。

2021年に開催された東京五輪では、自社の報道用カメラがトップシェアだったと発表したキヤノン。パリ五輪での活躍も楽しみなところです。

大きな大会ではカメラマンのサポート体制も用意されます