ニュース

KDDI、"宇宙化"促す共創プログラム「MUGENLABO UNIVERSE」

KDDIは、スタートアップと大企業による、宇宙を活用し地球上の課題解決を目指す共創プログラム「MUGENLABO UNIVERSE」を開始した。

政府は、4月26日に1兆円の「宇宙戦略基金」の創設を発表し、宇宙市場は2040年に1兆ドル規模とされている。一方で、宇宙空間は無重力・真空・宇宙放射線など特殊かつ過酷な環境であるほか、事業化に向けた検証が難しく、事業の不確実性やコストなどが原因で参入障壁が高いことが課題になっている。

KDDIは、2011年に国内事業会社初のインキュベーションプログラムとして「KDDI ∞ Labo」を開始しており、IT関連のスタートアップや大企業との共創事業などを促してきた。「MUGENLABO UNIVERSE」は、近年、宇宙領域への期待が高まっていることから、宇宙を活用し、地球上の食糧問題や環境問題など地上の課題解決を目指すスタートアップを支援する目的で開始したもの。

「MUGENLABO UNIVERSE」では、宇宙空間を再現したデジタル空間や低軌道上などの多様な実証環境や、宇宙領域の有識者によるメンタリング・ネットワーキング機会をスタートアップと大企業へ提供することで、企業が宇宙事業に挑戦しやすい環境を整備。宇宙開発の経験がない企業が宇宙開発へ参加するハードルを下げる。

具体的には、スペースデータの協力のもと、国際宇宙ステーション(ISS)や、月面を再現したデジタル空間を2025年度から提供。ISSや月面などの宇宙環境をデジタル空間に再現する。3D空間だけでなく、重力や気温、光量、その他の宇宙特有の条件をリアルタイムに再現する環境を開発中。これにより、地上でも宇宙環境をシミュレーションし、ロボット操作や建築、実験装置の検証を可能とする。

低軌道での実証環境としては、ElevationSpaceの協力の下、地球低軌道上を周回する無人小型衛星を使った、宇宙環境利用・回収プラットフォームを2027年度から提供。宇宙環境を利用した実証・実験を行なえ、真空環境下でも育成可能な苗や、無重力を活かした創薬や新素材開発の検証が可能になる。

デジタルブラストは、宇宙空間での重力再現環境を2027年度から提供。さまざまな重力環境を再現することで、微小重力環境における細胞培養や植物科学実験が可能になる。

鳥取砂丘を活用した月面実証フィールド「ルナテラス」では、作物栽培、新たな建設技術、建築物の実証実験を実施予定。

新たな技術や事業アイデアを持つスタートアップと、宇宙を活用した事業開発を目指す大企業とのマッチングも行なうほか、宇宙開発事業に加え、宇宙技術を活用した地上での社会課題解決事業の事業化も促進。2030年度に宇宙を活用した事業創出を目指す。

参加予定の大手企業は、関西電力・KCJ GROUP・KDDI・サントリーホールディングス・松竹・スカパーJSAT・住友不動産・大日本印刷・電通・東急・TOPPAN・三井住友海上火災保険・三井物産の13社。スタートアップのエントリー条件は、設立10年以内未上場企業、製品/サービスを既に商用化しているスタートアップで、公式ページからエントリーを行なう。

グローバル化から「宇宙化」へ

会見後に行なわれたトークセッションでは、スペースデータ 代表取締役社長 佐藤 航陽氏が登壇。「現在の宇宙開発は、インターネットが普及し始めたころに近い状況。宇宙開発で出遅れないためには、日本のすべての企業が一丸となってやる必要がある」として、「デジタルトランスフォーメーションにつぐ、産業の宇宙化、スペーストランスフォーメーション(SX)」が必要であると語った。

この20年間、インターネットとグローバリゼーションを中心としてきた世界が、グローバル化から「宇宙化」に変化するという。宇宙化には、地球、デジタル、宇宙3つの円が必要で、宇宙技術を活用することであらゆる産業が変革していく時代が到来するとしている。

しかし、宇宙事業経験のない民間企業が宇宙事業に参加するにはハードルが高い。SpaceXなどの躍進により打上げコストなどの改善は進んでいるが、宇宙では重力や通信環境など固有の課題があり、新たに学習して参加するにはコストがかかる。このコストを下げるプラットフォームが、今回設立した「MUGENLABO UNIVERSE」だとした。

打上げ前に利用出来る実験環境を提供することで、宇宙の環境を標準規格的に提供し、宇宙事業の経験がない企業でも、技術開発のハードルを下げることを可能にする。

デジタルツインで再現されたISS内部

「誰もが共通のルールを理解して開発を行なうことで、宇宙をインターネットのように身近にし、宇宙開発を推進する」とし、宇宙開発経験を積んだ企業が増えることで、いずれは世界全体の企業を巻き込み、オープンアーキテクチャの考え方を宇宙開発に応用した「オープン・スペースコロニー構想」も実現可能なのではないかという。