ニュース
新ライドシェア「newmo」、大阪で24年秋開始 「タクシーと共存する」
2024年3月7日 10:47
新たなライドシェア事業を目指すnewmo株式会社は7日、事業戦略説明会を開催した。第1弾として大阪のタクシー会社である株式会社岸交に資本参画し、2024年秋に大阪府内でライドシェア事業を開始し、2025年中には全国に展開。ライドシェアとタクシーを連携させた新たな事業を立ち上げる。
newmo(ニュウモ)は、グリー取締役CFOや、メルカリで日本事業を統括し、メルペイの立ち上げにも携わった青柳直樹氏が立ち上げた新会社。地域交通の課題解決を目指し、全国のタクシー事業者との資本参加・提携を通じ、タクシー・ライドシェアのハイブリッドモデルで供給拡大を目指す。
配車アプリの提供だけでなく、運行管理システムにもnewmoタクシーのシステムを導入。タクシードライバーとライドシェアドライバー(普通免許・自家用車)を統合的に管理する形をとる。
ユーザーがnewmoアプリから配車依頼する場合、「タクシー」と「ライドシェア」のいずれかを選べる。newmoでは、タクシー会社の運行システムを基盤に、タクシーもライドシェアも呼べる形のサービスとなる。
4月にスタートする「日本版ライドシェア」と呼ばれる仕組みは、「一般のドライバーが自家用車を使って有償で他人を送迎する」点は新たな取り組みとなるが、「タクシー会社が運営管理する」点は従来のタクシーと共通で、営業エリアや時間帯の制限もある。タクシー会社以外の企業参入などの環境整備については、6月を目処に検討が開始される予定だ。
newmoの今回の取組は、タクシー会社に出資し、タクシー会社がライドシェアとタクシーの管理を行なう形で、4月からの日本型ライドシェアに準ずる。今後、規制緩和に向けた議論も進むとみられるが、「政治の判断に従う形で事業展開してく(newmo青柳氏)」とする。
ライドシェアドライバーの拡大については、安全運転講習の実施や事故対応、SOS機能などの仕組みを整備するほか、需要に応じた報酬(ダイナミックプライシング)の設定や高い還元を行なうことで、女性や若年層を中心に担い手の裾野を広げる。
利用者向けには、専用アプリを通じて、タクシー・ライドシェアの双方を選べるようにする。さらに、ドライバープロフィールの事前確認や女性ドライバー、大型荷物/車椅子/ベビーカー対応、外国語対応などを選択可能とする。
ドライバー登録時の審査も行ない、ドライバーだけでなく車両についても定期検査を実施。事故歴・違反歴・犯罪歴、反社チェックなどに外部データベースを活用する。
事業としては、2024年秋に、大阪でライドシェア事業を開始。岸和田交通グループの岸交に資本参加し、共同経営を通じて、タクシー・ライドシェア事業の双方を推進する。岸交を介して、岸和田交通グループのタクシー管理にもnewmoが参加する形になる。
また、近隣エリアに複数グループ会社を有するタクシー事業者がライドシェア参入を検討する時に、グループ傘下の1社とnewmoが提携してライドシェア事業を開始できる「OSAKAモデル」を展開。他地域でも同様の展開を予定している。
newmo青柳氏は、「タクシーの事業者に定められているような運行管理水準を、ライドシェア事業者も満たした上で、タクシー・ライドシェアが組み合わさった交通サービスを提供する。これがスタートライン」と語る。
また、中長期的なライドシェア実現・普及には「安心・安全が最優先」(newmo青柳氏)とする。そのため、東京海上日動保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険の3社とライドシェア事業に関する保険商品・サービス・安全促進への取り組みで、個別業務提携契約を各社と締結する。
青柳氏は、newmoで目指すのは、「利用者視点に立ったサステナブルな地域交通の実現」と説明。それには、「タクシーだけでもライドシェアだけでも実現できない。タクシーを基盤として、タクシーとライドシェアを運営する」とし、移動にまつわる課題解決を目指す。
2025年度目標は、エリア展開は全国、タクシー車両数は3,000台、ドライバー数は1万人。
ドライバー不足という日本の課題
newmo代表取締役の青柳直樹氏は、2011年からサンフランシスコで生活する中で、ライドシェアに触れ、「日本にも必要」と感じていたという。グリーを退社後、2017年には日本でライドシェア参入事業検討するために、自身でもタクシー運転に必要となる普通二種免許を取得し、東京都の地理試験にも合格。事業化に向けた検討を進めていたという。
しかし、ライドシェアの議論が現在ほどは深まっておらず、タクシー会社の協力を得るのも難しかったため、事業立ち上げを断念。その際に金融事業をスタートしようとしていたメルカリの山田進太郎氏から誘われたことから、メルカリに参加したが、「タイミングが来たら、これは必ずやりたいという思いを抱き続けていた」と語る。
サンフランシスコでは、ライドシェアにより移動の自由が高まることを体感。出会いやコミュニケーションが拡大したとする。また日本においてもタクシーを配車できない経験をし、「交通手段がないと地域の活性化ができない」という経験や実感を持っていたという。インバウンド需要の拡大や人手不足により、昨夏からライドシェアの議論が政治的にも本格化してきたことから「火がついた」とし、このタイミングでのライドシェア参入を決めた。
現状、タクシードライバー数は年々減少しており、2009年以前の水準と比較すると、約4割減少し、その減少数は約14万人となる。またドライバーの高齢化も深刻な課題とする。タクシーだけでなく、バス運転手も2024年問題により大きな不足が見込まれるなど、地方の公共交通の“担い手”不足という課題がある。
青柳氏は、この全てにライドシェアが答えられるわけではないとしながらも、タクシー事業者と連携し、責任ある供給主体として参入。女性や若者などの就業によるドライバー数の拡大を図る。
タクシー運転手は、費用をかけて二種免許を取得し、安全運行のノウハウを持つが、普通免許で自家用車のライドシェアドライバーへの安全研修は課題となる。この点は、講習などによる育成プログラムなどを準備する。
newmoの強みとするのが、テック業界で垂直立ち上げを経験している経営チームや開発チームの存在。運行管理システムのDX、採用活動など、これまでのタクシー業界とは異なる知見やノウハウを活かして、効率的な営業や採用活動を進められるとする。
まずは大阪万博を控える大阪でスタートし、その後営業エリアを拡大していく。大阪の営業拠点のほか、東京、京都に開発拠点を新設するほか、各地に営業拠点を設置していく。タクシー事業者と連携するビジネスモデルのため、既存の事業者との協議の上、エリア展開等を決めていく。
ライドシェアは選択肢。普及の鍵は採用?
会見では、衆議院議員の鈴木英敬氏と吉村洋文大阪府知事も登壇。
鈴木英敬氏は、「よりよい社会とはなにか? 選択肢があることだと思う。乗り物、食べ物、働き方、ライフスタイル。様々な選択肢がある社会が望ましい。『タクシーかライドシェアか』ではない。『タクシーもライドシェアも』必要だ」とエールを送る。
吉村知事は、「日本版ライドシェアは、『タクシーの規制緩和』。まだ目指すべきライドシェアが実現できてないのに、事業を始める青柳さんは頭のネジが外れている。最大限の敬意を表する。そうやってネジが外れた人間が飛び込むことで変わっていく。勇気が移動の自由を日本にもたらす。大阪万博には2,800万人が訪れるが、その前にインバウンドの需要で増加が顕著。将来の移動に関する日本の課題は、来年の万博で先取りして訪れる。だから、移動需要に対応できる、柔軟で持続可能な供給体制の構築が必要だ」と語り、(1)多様な事業者の参加、(2)ドライバーは業務委託可能に、(3)運行区域・時間の弾力化、(4)ダイナミックプライシングの導入の4点を国に対して呼びかけた。
青柳氏は、「選択肢のある社会」にできる限りの貢献をしていきたい。テクノロジーと移動を掛け合わせ、様々な地域のポテンシャルを開花させるお手伝いをしていきたい。自由な移動手段は、地域の経済の活性化、ひいては日本の経済を盛り上げていくことにつながる」と意気込みを語る。
そのために必要なこととして青柳氏が強調するのが、採用活動。これまでドライバーとして就業する人が少なかった、女性や若者がライドシェアのドライバーになれるよう、採用活動やその魅力発信などに力を入れていくという。