ニュース

目指すは「1億人のパーソナルアシスタント」 LINEヤフーと生成AI

LINEヤフーは28日、生成AI活用に関する説明会を開催した。社内の活動において生成AI活用を進めるほか、LINEやYahoo! JAPANの個人向けサービスを中心に生成AIの導入を推進、長期的には売上収益寄与で年間1,100億円、生産性改善は同100億円規模を見込む。

2万人がAIで7%生産性向上

LINEヤフーでは、生成AIの業務やサービスへの活用を積極的に進めており、OpenAIと全てのAPIに関する利用契約を締結しているほか、Google Cloudの大規模言語モデル(LLM)も利用可能。今後はAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureで提供されるLLMも導入予定という。

また、全従業員受講必須のeラーニングを通じ、生成AIを活用する際の主要なリスクやプロンプトの工夫に関する生成AI利用研修を実施しており、研修後の試験に合格すると、対話チャット型の独自AIアシスタント「LY ChatAI」を利用可能となる。

エンジニア約7,000名向けには「GitHub Copilot」を導入し、約10%~30%の生産性向上が確認されているなど、社内スタッフやエンジニアにおけるAI活用を進めている。

LY ChatAIは、従業員約2万人に利用され、結果として約7%の生産性改善が図られているという。7%という数値は「通常の作業に対して、LY ChatAIを使った場合の業務時間の差分の総合値」(同社)としており、「アンケートのばらつき、今後精査は必要だが、1割程度の軽減は見えている」とした。

LY ChatAIはAIとしてはChatGPT相当のものだが、データはOpenAIによる学習には使われず、社外秘情報を扱えるほか、認証/認可、権限管理などのセキュリティ対策が図れられる。また、UI/UXも使いやすく、LINEヤフーの業務に最適化しているという。

生成AIの企業活用においては、LLMと外部の情報やデータベースを連携させる「RAG(Retrieval Augmented Generation/検索拡張生成)」が注目されている。LINEヤフーでも独自のRAGツールの開発を進めている。RAGツールとの組み合わせにより、生成AIの課題と言われるハルシネーション(幻覚/誤った回答)を抑制し、正しく生成AIを活用しやすい環境を構築する。「今後このRAGの集合体が当社の付加価値になっていく」(LINEヤフー 上級執行役員 生成AI統括本部長 宮澤 弦氏)とする。

目指すは「1億人のパーソナルアシスタント」

サービス側では、「LINE AIアシスタント」「LINE AI Q&A」「オープンチャットメッセージ要約」「LINEプロフィールスタジオ」「Yahoo!ニュースコメントAI要約 β版」など16サービスを展開している。

代表的なものとしては、「Yahoo!検索」において'23年10月から生成AI回答の掲出テストを実施しており、一部クエリで生成AIの回答を表示している。現状、「コーヒーの淹れ方」などHowto的な用途に限定しているが、知りたいことに答える検索を目指しており、全面公開には至っていない。ただし、「ゆくゆくは生成AIを活用した検索体験に切り替えていきたい」(宮澤氏)とした。

より導入が進んでいるのが「Yahoo!フリマ」で、ユーザーが商品出品時の説明文の自動生成で使われている。フリマの出品画面で商品とカテゴリを選び、AIからの提案(β)をタップすると、AIが文章を提案。その文章を参考にしつつ、修正して説明文を仕上げられる。ユーザー満足度も高く、特に新規ユーザーに継続的に使われているという。

もっとも反応が大きいものが「Yahoo!知恵袋」。ユーザーが利用者の質問に答えるUGC(ユーザー参加型コンテンツ)の代表例だが、'23年11月に生成AIによる回答提示を開始し、まずは「歴史」「相談」の11カテゴリーからスタートしたものの、生成AIへのユーザーの評価が高く、2月時点では対象カテゴリを全体の2/3となる457まで拡大している。

最も適した答えを示す「ベストアンサー率」は60%以上で、「トップレベルのユーザーの水準を上回るベストアンサー率」(宮澤氏)という。ユーザーもその回答を受け入れており、「新しいYahoo!知恵袋に進化している」と語る。

ただし、この高い満足度の背後では、AI回答に適さない質問の98.9%を除去するフィルタープロンプトや、最適な回答を提供するためのプロンプトエンジニアリングなどの施策が行なわれている。また、金融に関する相談など法令上の問題があるものを除外するなど、AI導入にあたって注意点も多い。こうした課題を解消しつつ、知恵袋のおける生成AIの導入を進めている。

「LINEオープンチャット」においては、メッセージの要約機能を実施。不特定多数が集まるチャットにおいて、流れを追うのが難しい場合、チャットのメッセージを要約してくれるもの。累計PVは180万以上、広告経由の売上目標に対する達成率105%と、事業成長にも繋げている。

LINEにおいてもYahoo!知恵袋的な「LINE AI Q&A」を導入。さらに、2月21日からはLINE本体でもチャット機能を使った「LINE AIアシスタント」を導入しており、LINEで対話しながらレシピを調べたり、画像翻訳・解析、ファイル翻訳・要約などのサービスを提供している。

LINEという巨大サービスでの展開のため、無料プランでは1日5通までとし、有料プランで全機能を開放しているが、「最終的には1億人のパーソナルアシスタントが目標。今度の旅行の予定を決めるとか、レストランや美容院の予約、PayPayで決済してクーポンが当たるなど一気通貫のサービス設計を目指したい。その入口は確実にLINEチャットであり、Yahoo!検索になる。これから大事に育てていく」(宮澤氏)と説明。LINE AIアシスタントでは、アプリ内での機能拡張のほか、LINEヤフーの他のサービスとの連携も強化していく。

なお、これらのサービスでの採用LLMは「ほぼ全てOpenAI」とのこと。ただし、今後知恵袋などは“好みのAI”選択などの新たな使い方も検討しており、今後、Googleや他のLLMの導入もサービスにあわせて活用していく方針。

ソフトバンクグループでは、ソフトバンク子会社のSB Intuitionsにおいて大規模な計算基盤を活かした日本語に特化した独自LLMの開発を進めている。LINEヤフーが独自に導入するLLMでは、このLLMも活用していく方向だが、「自前主義ありきではない」とし、用途にあわせて選択していく。

生成AIで日本の課題を解決する

なぜLINEヤフーが生成AIに注力するのか? 生成AI統括本部長の宮澤 弦氏は「日本の国力低下という課題に向き合う武器」と語る。

日本の生産年齢人口は、16年後の2040年までに1,500万人減少する。2024年の16年前というと、iPhone発売の年であり、今日までの期間で1,500万人減るという計算だ。生産年齢人口の減少は先進国の共通課題だが、日本ではその中でも顕著だ。

「我々(LINEヤフー)の課題であり、日本にとっての課題で、一人ひとりの生産性をもっと高めていく必要がある。1億人以上のユーザーが使う、LINEとヤフーという巨大な顧客基盤におけるAI活用を推進し、ユーザーに最も身近なサービスを作りたい。ユーザーにとって生成AIかどうかは意識する必要はない。生成AIを使おうと思ってLINEを使う必要はなく、何かをやるときにLINEやYahoo! JAPANを使うとそこでAIが動いている」と説明する。

LINEヤフーの国内最大級のユーザー基盤を活かすことで、「生成AIを日本で一番活用している会社を目指す。with 生成AIで社員の働き方を変え、ユーザー向けサービスも生成AIを実装する。社内のテーマは『Generate WOW!』をテーマに、生成AIを使ってWOWを作っていく」とした。

宮澤氏は、「時期は明確ではない」としながら「売上で年間1,100億円増、生産性改善で年間100億円の改善を見込む」と強調し、生成AIに取り組む姿勢を示した。なお、この生産性改善には、今後の生成AI利用が安価になるとの予測も含んでいる。