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生成AI活用の未来を議論 「Generative AI Japan」設立

ベネッセコーポレーションとウルシステムズが共同発起人となり、「一般社団法人 Generative AI Japan(略称:ジェナイ)」が2024年1月9日に発足し、1月17日には東京都内で設立記者発表会が開催された。代表理事は慶應義塾大学医学部 教授の宮田裕章氏がつとめる。

2023年は企業や中央省庁・地方自治体で生成AI活用への取り組みが急速に進んだ。規制やガイドラインの整備が進められているが、リスクへの懸念も高まっている。倫理的問題や、教育における活用のあり方など、社会全体で議論すべき課題も多い。Generative AI Japan は、有識者や各業界を牽引する企業と連携し、生成AI活用の未来を議論する場作りを目的としている。エンジニアリングだけでなくビジネスや政策の観点からも幅広く議論する。

「Generative AI Japan」発足時会員一覧

発足時の会員企業は以下のとおり(五十音順)

  • アサヒグループホールディングス
  • インフロニア・ホールディングス
  • 関西電力
  • JTB
  • セコム
  • ソフトバンクロボティクス
  • 大和ハウス工業
  • 東京海上ホールディングス
  • 東京ガス
  • 日本たばこ産業
  • 日本郵政
  • パーソルホールディングス
  • 博報堂DYホールディングス
  • PwCコンサルティング合同会社
  • 三井住友カード(参加予定)
  • ルミネ
理事体制

日本こそ生成AIの力を引き出せる国

衆議院議員 小林史明氏

ゲストとして登壇した衆議院議員の小林史明氏は、能登半島地震の被災現場でも新しいテクノロジーが導入されていることについて触れ、積極的なテクノロジーの活用が必要だと挨拶した。そして「CES2024もAI一色だったと聞いている。AI、デジタルツイン、ロボットがこれからのトレンド。人手不足は圧倒的な現場課題だ。政府は人手不足をデフレ脱却のチャンスに繋げたい。そのときにAIやロボティクスにおける自動化、多様な人材の活用が重要」と語った。そして「私の地元には400年続く老舗和菓子屋がある。電球をLEDに変える、油圧リフトを導入して軽労化するだけで5年長く職人が働けるようになった。AIやロボットを使えばもっと多様な人が現場で働けるようになる。まだ生産性には伸び代がある。海外、日本の新技術に期待したい」と続けた。

さらに「化学やバイオへのAI活用にも期待したい。新しい電池材料やプラスチック製品の組成探索、薬剤開発にもAIは使える。AIは日本の伸び代を大きく広げられる技術だと考えている。AIやロボティクスによって人との協働を進めたい。日本こそ生成AIの力を引き出せる国だ。規制をテクノロジーベースでゼロから考え直すことも考えている。いまのルールではなく、技術をベースにしてどんなルールが必要かを考えていく取り組みにしていきたい。日本の皆さんを豊かにする試みだと考えている」と述べた。

5つの活動計画で生成AIありきの未来を考える

Generative AI Japan は、以下の5つの活動計画を軸に、生成AIの活用促進と社会提言を行なう。

・先進技術の共有と連携
・ビジネスユースケースの共有と実装支援
・Labを起点にした共創・協業
・教育・学び
・生成AI活用のルール作り・提言

Generative AI Japanの5つの活動計画

代表理事で慶應義塾大学医学部 教授の宮田裕章氏は、「2023年は期待と混乱が渦巻く一年だった。今までの延長で規制を考えるのではなく、未来から何が共にできるのか考えていくのがGenerative AI Japanの意義だ」と述べた。なお生成AIを使って作ったGenerative AI Japanのロゴは、さまざまな道が交差しながら多様な未来へ向かっていくことを示すもので、ライフスタイルも含めて考えていきたいという。

Generative AI Japan代表理事、慶應義塾大学医学部 教授の宮田裕章氏
Generative AI Japanのロゴ。生成AIを使って作られた

そして「ChatGPT(GPT-3.5)」の登場を皮切りとして多くの企業や団体で生成AIの活用が進められてきたと背景を紹介。課題は「人財」面、そしてガイドライン等の「指針・リスク対策」だと述べた。生成AI活用の課題は一社だけでは解決が難しく、他社・団体との協業や連携が必要な課題が多い。ユースケースを持ち寄りながら進めていきたいという。

「ChatGPT 3.5」の登場を皮切りとして多くの企業や団体で生成AIの活用が進められてきた
課題は人財やガイドラインの策定
生成AI活用においては一社だけでは解決が難しい課題が多い

「偏りのなさ」を担保するためにも会員企業も数を増やしながら未来を探っていく。「データを安全に共有するために何ができるかなどが論点となっていくだろう」と述べた。「生成AIが登場して各産業の根幹が変わりつつある。さまざまな産業への波及効果を考える必要がある」と続け、Generative AI Japan 設立を通じて、生成AI企業だけでなく、日本全体の産業競争力を高め、未来のありかたを考えていきたいと語った。

ビジネスユースケースの共有や実装支援を行なう
Labを起点とした共創や協業も進める予定

人材教育、現場への実装、政策提言も

続けて、「生成AIの未来と本協会で目指すこと」と題したパネルディスカッションが行なわれた。ファシリテーターは代表理事の宮田裕章氏。パネリストは理事の鈴木寛氏(東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授)、同 玉城絵美氏(琉球大学 工学部 教授、H2L, Inc. CEO、東京大学 大学院 工学系研究科 教授)、同 馬渕邦美氏(松尾研究所 パートナー)、発起人理事/業務執行理事の國吉啓介氏(ベネッセコーポレーション データソリューション部 部長)。

パネルディスカッション

鈴木寛氏は「政策ガバナンスが生成AIによって変わる」と述べた。玉城絵美氏は「身体情報への生成AIのアプリケーション開発の開発を行なっている」と自己紹介した。馬渕邦美氏は「AI×経営をやってきた。経営の革新にAIをどう活用するかは社会的テーマ」と語った。國吉啓介氏は「ケア分野での学びや未来のサービスにデータやAIを活用する活動を行なっている」と述べた。

東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授 鈴木寛氏
琉球大学 工学部 教授、H2L, Inc. CEO、東京大学 大学院 工学系研究科 教授 玉城絵美氏
松尾研究所 パートナー 馬渕邦美氏
ベネッセコーポレーション データソリューション部 部長 國吉啓介氏。発起人理事/業務執行理事

パネルでは前述の5つの活動テーマを改めて振り返った。馬渕氏は海外のビッグテックがものすごい速度でAIを推進しているので、日本国内では個社ごとにユースケースを積み上げるだけではなく、企業の垣根を超えた新しいプラットフォーム構築や、業界ごとのAIをつくっていくことも大切であり、国政に関する提案もやっていきたいを述べた。

宮田氏は、CESでもAIプラットフォーム上で、AIをどう連携させながら使っていくかが非常に重要になっており、連携のなかで高めていくことが重要だと受けた。

代表理事の宮田裕章氏

玉城氏は、ビジネス展開の上で早急な人財育成と実装が重要だと述べた。言語情報と生成AIは接続性が高いが、取り込めていない情報もある。玉城氏が開発している「身体情報の共有」技術などを使って、人間の動きなども取り込まないと工場の最適化などは難しいと指摘し、それが日本の優位性となると語った。宮田氏は、生成AIにのらない部分がギャップや競争力、チャンスになり得るとコメントした。

國吉氏は教育と学びについて、学びは人と人、人と本との対話によると述べて、そこに流れるデータをちゃんと読み込ませると人の知見や「思い」など言葉になってない部分も学びやすくなる変換点があるのではないかと語った。宮田氏は生成AIが出る前は「検索力」が重要だったが、ここからは「生成AIを含めた問いを立てる力」が重要になるとコメントした。

鈴木氏は政策提言と社会への結びつきについて述べた。社会に与えるインパクトが大きい技術は過剰期待と過剰不安があり、正しく解像度高く理解してもらい、ロジックだけでなく、社会心理学、政治力学を読み込んだ政策決定、世論醸成が非常に重要だと述べ、「多くのステイクホルダーが関わっている。政策決定と社会とのコミュニケーションをオーガナイズしていきたい」と語った。

宮田氏はオープンであることが重要だと強調。「日本は人手不足をどう補うのか。30年間、出遅れた部分を、領域を超えて取り返す。危機意識を推進力にして未来へ向かっていきたい」と語った。

人と社会の関係を結ぶ上で貢献できる問いが重要

「問いを立てる力」を磨くことが重要だと宮田氏は語った

宮田氏は、生成AIの登場は、人類にとって大きな変化をもたらし、ビジネスや学び、働き方自体にも大きな影響を与える存在になる、そして「価値の高い問いを立て、前に進むこと」がより重要とされる世の中を目指したいと述べている。

では「価値の高い問い」とは何か。宮田氏は「かつては知識と技術のストックが重要だったが、それをどう使うかの時代に移行している。自分自身の未来だけではなく、持続可能性も考えて未来を考えなければならない。人と社会の関係を結ぶ上で貢献できる問いがますます重要になってくる。『問いを立てる力』はこれまでは『センス』で片付けられていた。ここから先は、どう磨いていくのかが教育において重要になってくる」と語った。

フォトセッションの様子

(後列向かって左から)

  • 理事 小俣 泰明氏(アルサーガパートナーズ 代表取締役社長 CEO/CTO)
  • 理事 則武 譲二氏(ベイカレント・コンサルティング 常務執行役員)
  • 理事 白井 恵里氏(メンバーズ執行役員 兼 メンバーズデータアドベンチャーカンパニー社長)
  • 理事 竹爪 慎治氏(日本オラクル 専務執行役員 クラウド事業統括)
  • 理事 瀧澤 与一氏(アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長)
  • 理事 大谷 健氏(日本マイクロソフト クラウド&AIソリューション事業本部データプラットフォーム統括本部 業務執行役員 統括本部長)
  • 理事 山田 勝俊氏(Recursive共同創業者・代表取締役COO)
  • 顧問 橋本 英知氏(ベネッセホールディングス 専務執行役員 CDXO 兼 Digital Innovation Partners本部長)

(前列向かって左から)

  • 監事 原田 将充氏(税理士法人原田税務会計事務所 公認会計士・税理士・行政書士・社会保険労務士)
  • 有識者理事 佐藤 昌宏氏(デジタルハリウッド大学 教授・学長補佐)
  • 有識者理事 鈴木 寛氏(東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授)
  • 発起人理事 漆原 茂氏(ウルシステムズ 代表取締役会長)
  • 代表理事 宮田 裕章氏(慶應義塾大学医学部 教授)
  • 発起人理事/業務執行理事 國吉 啓介氏(ベネッセコーポレーション データソリューション部 部長)
  • 有識者理事 玉城 絵美氏(琉球大学 工学部 教授、H2L, Inc. CEO、東京大学 大学院 工学系研究科 教授)
  • 理事 馬渕 邦美氏(松尾研究所 パートナー)